成り代わりの高杉妻は来世で好き勝手する事にした
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
彼女は幼少の頃より自身に前世というべき記憶がある事を知っていた。
前世でそこそこ生きた彼女の今世での精神年齢は前世の頃と等しく、その影響から同年代の子供に比べて大人しく物静かであった。
泣く事はもちろん、我儘も可愛らしい嘘も吐かない子供。
子供の中には落ち着いた子供もいるにはいるが彼女の落ち着き具合は他所の子供と比べて明らかに異質であり、周りの大人達はそんな彼女を気味悪がった。
とうとう物の気にでも憑かれているのではと大人達は話す様になり、母親は夜中になると一人静かに泣いている日が増えた。
流石にこのままでは不味いと彼女が思った矢先に親戚が高名だという坊主を連れて来たので彼女はお祓いという茶番にのっかかり、以後は年相応の子供らしく振る舞う事にした。
前世は近代的な時代に生まれた為に前世との価値観の違いや文化、風習に戸惑う事は多々あった。
周りの言う事に納得出来ないと思う事はあったが幼少の時の様に母親を泣かせまいという思いからどれだけ理不尽に思う事があっても彼女は呑み込み耐えた。
成長してからは言われるがままに幾つもの習い事をこなし、女子らしい教養を身に付けた。
その内、その教養の深さに加え今世は容姿が整っていた事も相まって彼女は城下一の美人等と呼ばれる様になる。
彼女の実家は裕福であった事もあり、結婚を考える歳となると縁談が文字通り山の様に舞い込んで来た。
しかし幾ら沢山の縁談が来ても選ぶのは彼女ではなく彼女の親戚達であった。
前世から引き継いだ感覚としては自分の結婚相手位自分で決めたいと思う彼女であるがこれが当世の常識、当たり前だというならば彼女は従う他ない。
なので彼女はにこにこと笑い繕って自身の結婚相手が決まるのを待った。
親戚達は悩みに悩み、山の様な縁談から候補を絞りに絞り、とうとう三人にまで絞る。
これ以上は親戚達も絞れないのか最後は叔父の提案により彼女が籤引きで選ぶ事となった。
籤引きするのならば最後位、自分に選ばせてくれれば良いのにと思う彼女はその思いを飲み込みつつ籤を引いた。
籤に書かれた名は高杉晋作。
その名を見るや叔父は「三国一の婿を引き当てたぞ!」と喜び声を上げた。
彼女は見事、叔父のイチオシを引き当てたのだ。
逆に自分達の推しが引かれなかった親戚は複雑そうな顔をしていた。
喜ぶ者、落胆する者、何事かと驚く者、そんな三者三様の親戚達の間を潜り抜けて来た兄がにやにやと笑みを湛えて近付いて来る。
「お前の婿はあずき餅だって、おい!聞いているのか!」
彼女の夫が高杉晋作に決まったと聞いて冷やかしに来た兄であるがどうやら自分の声が届いていない事に気が付いた。
彼は何度も彼女に声を掛けるのだが彼女は今、それどころではない。
「高杉晋作ですって」
前世では歴史など一般常識レベルしか知らなかった彼女でも覚えているその名に、彼女は漸くこの世界が前世のよりも古い時代だという事に漸く気付いたのだった。
けれど前世と全く同じではないらしい。
彼女はこの世が前世と同じ日本と気づいてからさまざまな出来事を前世と今世で照らし合わせを行った。
行って分かったのはこの世界は前世とは似ている様で全くの別物である事。
前世と今世では歴史が微妙に違うのだ。
大筋は彼女も知る前世の日本史と一致するのだが細かく見ると彼女も知らない出来事が起こっていたり、逆に起こっていない事もあった。
といっても彼女自身、それほど歴史に詳しくはなくただ単に自身が覚えていないという可能性もある。
さて、今になって彼女が何故歴史を気にしているのかというと自身の結婚相手が高杉晋作に決まったからである。
彼は日本の近代化に一役買った人物で、そんな彼の妻となる事になった自分はこれからどう振る舞えば良いのか彼女は悩んでいた。
彼女は高杉晋作を知っていてもその妻がどのような人物であったか知らないのだ。
「あの子は気短だからそのつもりで構えていてね」
結局嫁入りするまで答えが見つからなかった彼女であるが結婚式当日にこれから義母となる高杉晋作の母親からその様に教えられた。
ならばその様にと振る舞う事にした。
相手が気分を害さない様に空気にでもなったつもりで、余計な事はしない様にと努めた。
ありがたい事に彼は忙しく家を空ける事が殆どで義母が危惧するような事も無かった。
家に殆ど寄り付かない彼からは度々高価な贈り物と共に武士の妻としての心得なるものが文で届いた。
彼女はその通りに振る舞い高杉家に尽くした。
結婚から4年目にして漸く子宝に恵まれ、それから2年後には亡命や何ら忙しくしていた彼が正式に役職に就いた知らせが届いた。
すると知らせを聞いた義母は突然、彼のいる下関に行こうと言い出した。
義母なりに夫婦が長く離れて暮らす事を気にしていたらしい。
流石に2歳になる幼子を抱えての長距離の移動は難しいと彼女が渋ったが義母から自分も下関に付いていくからと説得された。
彼女もこれ以上渋る理由も無かった為、息子と義母の彼女の三人で夫のいる下関へと向かった。
彼女はそこで自身の夫が芸妓と同棲している事を知る。
義母が怒っている、我が子は訳も分からず泣いている。
そんな二人に挟まれて彼は情けない表情を浮かべ慌てふためいていた。
そんな彼の珍しい様を眺めながら彼女は出奔中に送られてきた高価な品々の意味を解していた。
あれは前世でもよく見た浮気夫が奥さんのご機嫌取りに時たまプレゼントを買って来るあれね、と一人うんうんと納得していた彼女は彼と目が合う。
途端に彼の視線には焦りの色が滲み出す。
彼女は自分だけ夫の浮気に対して何も反応していない事に気が付いた。
どの様な態度をとるべきか迷い、浮気をした妻らしく激情に任せる事も考えたがそれでは彼の言う武家の嫁には程遠い。
それにその様な激情に駆られる程、彼に対してその様な感情を抱いていない事に彼女は気が付いた。
ならばどんな反応をするべきか悩んで、彼女は取り敢えず微笑む事にした。
にっこりと笑みを浮かべ、嗚咽を漏らす息子を抱き上げた。
暫く息子をあやすと、息子と入れ替わりに泣き出してしまった義母の肩を抱き今晩の宿を探す事にした。
後ろでは彼が何か叫んでいたが今はそれどころではない。
せめて義母が落ち着く時間を作らなければという思いから彼女は彼に構わず歩を進めた。
結局、彼は愛人と共に長崎へと行ってしまい、彼女も萩へと戻った。
それからやはり少し歴史が変わって江戸城が無血でなく流血で開城したりと様々な事が起こった。
急速に日本が近代化へと進む中、知っている歴史の通り彼が病に臥した。
彼女は医者に呼ばれて彼の元へと駆け付けると看病をしてそのまま彼を看取った。
彼女は当時の人にしてはそこそこ長生きをしたのだが、死ぬ間際にふと思った。
もっと好き勝手しても良かったのでは?と
今世での彼女の人生は常に我慢の連続であった。
母親を悲しませまいという思いから始まり、子供らしく、良家の子女らしく、良き妻、良き母として振る舞って来た。
しかしそれは本来の彼女ではない。
彼女は今になって自分の人生なのだからもう少し位自由に生きてみたかったと後悔する。
しかし既に死ぬ間際。
ならばせめて来世は自由気まま、好き勝手に生きようと彼女は瞳を閉じるのであった。
「待ってくれ!君は雅子だろ?!僕だ、君の夫の高杉晋作だ!!」
「その様な派手な髪色をした夫は存じませんね。人違いではございませんか?」
頬に手を当てやんわりとした口調ながらはっきり、明確な否定を示した恵美。
そんな彼女と対峙していた高杉は反論するでもなく徐に血反吐を吐いた。
「ぎゃー!!!社長しっかりして」
己の吐いた血溜まりに突っ伏す高杉に駆け寄るのは藤丸立香。
彼は召喚されたばかりの高杉にカルデア内を案内していた。
そしてその道中、突然駆け出した高杉を追って此処へと来たのだ。
「誰か!お医者様!看護師さんはいらっしゃいませんか?!」
そう声を上げた立香と恵美は目が合う。
何を隠そう、恵美はカルデアの医療スタッフの一人である。
のだが
「サーヴァントは専門外ですね」
「ですよねー!」
あくまでも恵美は人専門、しかも彼女は本来、職員達のメンタルケアを目的として雇われていた。
「何事ですか?!」
騒ぎを聞きつけてマシュが廊下を駆けて来る。
何時もの彼女ならば中立に立ち、双方の意見を聞いてから宥め、落とし所を見つけようと努めるのだが騒ぎの主の一人が恵美と分かるや否や恵美を庇う様に高杉と恵美の間に割り入った。
「高杉さん、私のお母さんに何か御用でしょうか!」
穏やかな性分のマシュにしては語気が強い。
というのも恵美を自身の本当の母のように慕うマシュには恵美に近付く異性は皆、警戒対象であった。
その為、幾ら高杉が血に塗れ、床に倒れていようと警戒対象である事は変わらない。
高杉はというとマシュの恵美に対するお母さん発言に追加のダメージを受けていた。
追い吐血をした高杉に藤丸立香はどうする事も出来ずその場でただひたすらにあわあわと慌てふためくしかない。
「君は本当に雅子ではないのか?」
吐き出した血による咽せが落ち付いた高杉は縋る様な視線で恵美を見上げた。
「違いますね」
嘘は言っていない。
確かに前世の恵美は雅子という名前の女で、目の前にいる高杉晋作の妻であった。
が、今は恵美という別人である。
「お母さん、行きましょう」
「そうね」
これ以上、恵美を異性と話させたくないマシュが恵美の腕を引く。
この場にいても状況が悪化するのが見えているので恵美もそれに応じるのだがそれを高杉が止めた。
「いや、君はやはり雅子だ。僕の妻だ」
先程までと違い確信に満ちた表情。
恵美の足首を掴み、逃すまいとする血まみれの男に恵美はやれやれと言わんばかりに溜息を吐いた。
「お久しぶりですね。元旦那様?」
「ごふっ」
恵美の元旦那様発言がクリティカルヒットした高杉は三度目の血を吐くと白目を剥き、血溜まりに沈んだ。
元雅子ちゃん
流石に好きでもない男と子供をこさえる気は無いのでそれなりに高杉の事は愛していた。が、夫に愛人がいると知り、自分は後継を産むためだけの存在なんだと勝手に解釈し、納得した。逆に夫が不在がちな事が腑に落ちてすっきりした模様。
高杉さん
雅子ちゃんの事が好き。大切にしていたからこそ雅子ちゃんを連れ回さず安全な自身の実家に置いておいたのだが本人にはそれが全く伝わっていない。同担拒否なので雅子ちゃんの側に自分以外の男がいるのが許せない。
