小林洋菓子店
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工場地帯と古い住宅街の間、あちらとそちらを区切る様に流れる川の側にその店はある。
目が覚める様なブルーの外壁。
壁と同じ鮮やかなブルーに白のストライプ模様のオーニングは店の幅いっぱいに掛かっていて壁に濃紺の影を落としている。
そこはヨーロッパのカフェの様な小洒落た外観ではあるが壁、扉、オーニングにも店名は記されておらず一見しただけではそこが何の店かは分からなかった。
営業は不定休でいつが休みと店の扉に貼り出す事はなく、店の公式SNSで店の休みが告知される訳もなく営業しているか否かの確認は店の営業日にだけ外に出されるウエルカムボードの有無だけが頼りである。
そんなウエルカムボードの黒く艶やかな面にホワイトで大きく書かれているのは【小林洋菓子店】の文字でそれがこの店の名前である。
お店にはまるで世界旅行にでも行ったかの様な気分にさせる様々な国のお菓子がショーケースに並ぶ。
置かれる商品は仕入れた材料が無くなり次第変わり、今は欧州がメインテーマらしくショーケースには欧州産の材料で作られた菓子が所狭しと並べられていた。
小林少年は店内にあるショーケースの上部に肘を置き、真正面にある飾り窓から見える外の景色を眺めながらぼんやりとこれまでの事を考える。
映画を見ていたつもりがいつの間にかその映画のキャラクターに成り代わっていたとはどういう事なのか小林少年は深々と溜息を吐くと両手で髪の毛を巻き込みながら頭を抱えた。
初めは入った覚えもない映画館の客席に座っていた。
始まった映画はあまり彼の趣向に合った物では無く上映から暫くは苦痛の様な時間であったが次第に登場するキャラクター達に魅せられて中盤以降は変わる変わる展開に一喜一憂をしていた。
そして衝撃のメインキャラクター達の死と一人残された自分と同姓同名の小林少年。
これから幼い小林少年が一人どうやって生きて行くのかハラハラしていたら同じく映画のキャラクターが目の前にいた。
映画の中の小林少年ではなく見ていた方の小林の目の前にである。
「よーちゃん店番ありがとう。おやつが出来たからそこの席で食べてね」
大きなお盆に今日のおやつであろう蒸しパンらしき物と小学生に出すには仰々しい白磁の茶器一式を乗せて彼女は厨房より出て来た。
そう、小林が気付くと彼女小林彩女は目の前にいた。
とっくに成人を過ぎた小林の手にしては小さ過ぎる手を優しく握り彼女は喪服姿の親戚達を前に小林を引き取ると宣言したのである。
その時はまだ小林はいつの間に映画が4DXになったのかと呑気に考えていた。
4DXは映画に合わせて振動や匂いを再現するが触覚迄は再現されない。
彼女に手を握られた時点でそれに気付くべきであったがその時はどうしようもない親戚達の反対を押し退ける彼女に見惚れて小林はうっかり失念していた。
そしてあれよあれよと言う間に事が過ぎ去り、落ち着いた所でやっと小林は自分がスクリーンの中の小林少年に成り代わっていることに気が付いた。
「ありがとう彩女お姉さん」
彩女に応えた小林少年は店内に三つある机の内、奥の机の方の椅子に腰掛けた。
「今日のおやつは馬拉糕だからきっとよーちゃんも食べられるわ」
そう言いながら彩女は皿に乗せた中華風カステラ馬拉糕を小林少年の前に置いた。
というのも前回、彼女が作ったのは中東のとあるお菓子なのだがその国では薔薇水と呼ばれるものが当たり前にお菓子に使われる。
中東にそこそこ逗留していた彩女にとってはもはや馴染の食材だったのだが日本生まれ日本育ちの小林には未知の世界で、出来上がった菓子から漂う薔薇の香りに酷く酔ってしまった。
小林の異変に察した彩女はお菓子を下げようとしたのだがそれを固辞し、何とか一口食べたのだか口から鼻へと抜ける薔薇の強烈な香りに断念。
それ以来彩女は余り華やかな匂いのキツいお菓子は作らないよう気遣ってくれている。
そんな彼女の気遣いに申し訳ないと思いながらも小林は当分薔薇の香りは遠慮したいと思う。
「明日はとうとう登校日だね」
「そう、ですね」
彩女の淹れたお茶を啜り小林は口から漏れ出そうになる溜息を飲み込む。
成り代わりについて頭を悩ます小林であるがそれと同じくらい彼を悩ます事がある。
「よーちゃんが明日から通う帝丹小学校、大きな学校だったからきっとお友達沢山出来るよ」
咀嚼を止め、俯いた小林に励ますような言葉をかけた彩女は彼の頭を撫でた。
彩女の柔らかな手が頭を行き交い、時折髪を梳く感触に癒されながらも小林は胸の内で心配事は其処では無いのだと叫ぶ。
昨今流行りの転生、成り代わり小説の様な中世の世界観ではなく小林が観察した限りは自分が生きていた時代とそう変わりは無かった。
それこそ始めは大人の自分は死んでいてよくある自分が死んだタイミングで産まれた子供に生まれ変わり、成り代わりと思ったのは前世の記憶を思い出しそれに強く引きづられているのでは?という推察を真面目にする位に元いた世界とこの世界に大きな差異は無かった。
しかし葬儀も終わり五月蝿い親戚も説得した所で出た引っ越し話。
今迄海外を飛び回っていた彩女が小林の養育の為日本に定住を決めたのだが彼女の仕事の都合上引っ越しが余儀無くされた。
それは良い。
彩女は小林少年を気遣い自身が通勤する事を考えていたが成り代わった小林にその町への愛着は無く、未婚で子持ちとなった彼女の負担をこれ以上増やしたくは無かった。
彼女は最後まで引っ越しを渋っていたが周りからの後押しも有り引っ越しが決まった。
そして小林は自分が引っ越す先が米花町と知る。
米花町、日本のヨハネスブルクと名高いその地名は小林のいた日本には無い地名である。
けれど小林はその地名をよく知っていた。
毎週放送しているアニメは録画して見ていたし、雑誌やコミック等は褐色金髪の潜入捜査官が推しだと言う妹が購入していたのでそれをたまに読んでいた。
よくよく考えればスクリーン越しにこの世界を見ていた時も何だか見覚えのある顔がちらほらと出ていたのを思い出す。
小林は心の中で目一杯叫んだ。
「ここはコナンの世界かよ!!!!!」と
今更、自分が推し進めていた引っ越しを中止する訳にもいかない小林が考えたのは日本のヨハネスブルクと名高き米花町でどうやって自分も彩女も無事に暮らすかであった。
中身で言えば血の繋がりの無い彩女であるが葬儀からの短い期間で小林は彩女に懐いていた。
元々スクリーン越しに聞く彼女の情報に悪い物は無く対面から暫くして得た印象は善人。
困っている人がいれば其処へ駆けて手伝う様な優しい彼女は特に小林に優しく、少し幼さの残る柔らかな笑みで小林を愛称で呼んでは頭を撫でたり抱き締めた。
小林に妹はいたが姉も兄もいない。
けれど同級生からの情報でリアル年上の兄弟は大体理不尽で横柄でジャイアンを具現化した様な存在だと聞いていたからこれは二次創作によくある「僕の考えた最高のお姉さん」なのだと思った。
要は短期間ながら、小林は家族愛的に彼女が大好きになっていた。
大好きな彩女を危険な目に合わせたくないと強く思う小林は出来るだけコナンは勿論その他主要なキャラクター達とは会うまいと思うのだがそうも上手くいかない。
彩女が転入手続きをしてきたのは悲しきかなこの世界の主人公江戸川コナンが通う帝丹小学校だったのである。
彩女に気を使い頑張りますと返した小林であるがあまり友達作りをする気にはなれなかった。
だって彼は見た目は子供であるが、中身は成人をとっくに迎えた大人なのである。
「今日からみんなと一緒に学ぶ事になりました。小林芳雄君です」
「よろしくお願いします」
ぺこりと小林が黒板の前で頭を下げると元気な声が沢山返ってきた。
その声は今日は月曜日だと言うのに疲れも気怠さも一切なく、兎に角元気な声に小林は気圧される。
小学生の明るさに眩しい物を感じた小林は先生に指示された窓際で最後尾の席に座った。
教科書を見る振りをしながら教室中を伺うが少年少女達の中にコナンや少年探偵団の姿は見当たらない。
それに安心した小林は小さく安堵の息を吐いた。
そういえば、と小林は今この世界はコナンでいうどのぐらいのタイミングなのだろうか考える。
工藤新一は薬を飲んで縮んだのか?
灰原哀は転入してきたのか?
もしかしてもう組織は壊滅したのか?
そんな事を考えながら担任教師の言葉を流し聞く。
小林の希望としては既に組織壊滅が一番ありがたいのだがそんな希望を打ち砕く会話が小林の耳に聞こえた。
「昨日、少年探偵団に飼い猫を見つけてもらったんだ」
「それって隣のクラスの?」
そう!と小声ながらもしっかりと小林の耳まで届いた肯定の声に小林は手で顔を覆い現実は非情だと嘆いた。
目が覚める様なブルーの外壁。
壁と同じ鮮やかなブルーに白のストライプ模様のオーニングは店の幅いっぱいに掛かっていて壁に濃紺の影を落としている。
そこはヨーロッパのカフェの様な小洒落た外観ではあるが壁、扉、オーニングにも店名は記されておらず一見しただけではそこが何の店かは分からなかった。
営業は不定休でいつが休みと店の扉に貼り出す事はなく、店の公式SNSで店の休みが告知される訳もなく営業しているか否かの確認は店の営業日にだけ外に出されるウエルカムボードの有無だけが頼りである。
そんなウエルカムボードの黒く艶やかな面にホワイトで大きく書かれているのは【小林洋菓子店】の文字でそれがこの店の名前である。
お店にはまるで世界旅行にでも行ったかの様な気分にさせる様々な国のお菓子がショーケースに並ぶ。
置かれる商品は仕入れた材料が無くなり次第変わり、今は欧州がメインテーマらしくショーケースには欧州産の材料で作られた菓子が所狭しと並べられていた。
小林少年は店内にあるショーケースの上部に肘を置き、真正面にある飾り窓から見える外の景色を眺めながらぼんやりとこれまでの事を考える。
映画を見ていたつもりがいつの間にかその映画のキャラクターに成り代わっていたとはどういう事なのか小林少年は深々と溜息を吐くと両手で髪の毛を巻き込みながら頭を抱えた。
初めは入った覚えもない映画館の客席に座っていた。
始まった映画はあまり彼の趣向に合った物では無く上映から暫くは苦痛の様な時間であったが次第に登場するキャラクター達に魅せられて中盤以降は変わる変わる展開に一喜一憂をしていた。
そして衝撃のメインキャラクター達の死と一人残された自分と同姓同名の小林少年。
これから幼い小林少年が一人どうやって生きて行くのかハラハラしていたら同じく映画のキャラクターが目の前にいた。
映画の中の小林少年ではなく見ていた方の小林の目の前にである。
「よーちゃん店番ありがとう。おやつが出来たからそこの席で食べてね」
大きなお盆に今日のおやつであろう蒸しパンらしき物と小学生に出すには仰々しい白磁の茶器一式を乗せて彼女は厨房より出て来た。
そう、小林が気付くと彼女小林彩女は目の前にいた。
とっくに成人を過ぎた小林の手にしては小さ過ぎる手を優しく握り彼女は喪服姿の親戚達を前に小林を引き取ると宣言したのである。
その時はまだ小林はいつの間に映画が4DXになったのかと呑気に考えていた。
4DXは映画に合わせて振動や匂いを再現するが触覚迄は再現されない。
彼女に手を握られた時点でそれに気付くべきであったがその時はどうしようもない親戚達の反対を押し退ける彼女に見惚れて小林はうっかり失念していた。
そしてあれよあれよと言う間に事が過ぎ去り、落ち着いた所でやっと小林は自分がスクリーンの中の小林少年に成り代わっていることに気が付いた。
「ありがとう彩女お姉さん」
彩女に応えた小林少年は店内に三つある机の内、奥の机の方の椅子に腰掛けた。
「今日のおやつは馬拉糕だからきっとよーちゃんも食べられるわ」
そう言いながら彩女は皿に乗せた中華風カステラ馬拉糕を小林少年の前に置いた。
というのも前回、彼女が作ったのは中東のとあるお菓子なのだがその国では薔薇水と呼ばれるものが当たり前にお菓子に使われる。
中東にそこそこ逗留していた彩女にとってはもはや馴染の食材だったのだが日本生まれ日本育ちの小林には未知の世界で、出来上がった菓子から漂う薔薇の香りに酷く酔ってしまった。
小林の異変に察した彩女はお菓子を下げようとしたのだがそれを固辞し、何とか一口食べたのだか口から鼻へと抜ける薔薇の強烈な香りに断念。
それ以来彩女は余り華やかな匂いのキツいお菓子は作らないよう気遣ってくれている。
そんな彼女の気遣いに申し訳ないと思いながらも小林は当分薔薇の香りは遠慮したいと思う。
「明日はとうとう登校日だね」
「そう、ですね」
彩女の淹れたお茶を啜り小林は口から漏れ出そうになる溜息を飲み込む。
成り代わりについて頭を悩ます小林であるがそれと同じくらい彼を悩ます事がある。
「よーちゃんが明日から通う帝丹小学校、大きな学校だったからきっとお友達沢山出来るよ」
咀嚼を止め、俯いた小林に励ますような言葉をかけた彩女は彼の頭を撫でた。
彩女の柔らかな手が頭を行き交い、時折髪を梳く感触に癒されながらも小林は胸の内で心配事は其処では無いのだと叫ぶ。
昨今流行りの転生、成り代わり小説の様な中世の世界観ではなく小林が観察した限りは自分が生きていた時代とそう変わりは無かった。
それこそ始めは大人の自分は死んでいてよくある自分が死んだタイミングで産まれた子供に生まれ変わり、成り代わりと思ったのは前世の記憶を思い出しそれに強く引きづられているのでは?という推察を真面目にする位に元いた世界とこの世界に大きな差異は無かった。
しかし葬儀も終わり五月蝿い親戚も説得した所で出た引っ越し話。
今迄海外を飛び回っていた彩女が小林の養育の為日本に定住を決めたのだが彼女の仕事の都合上引っ越しが余儀無くされた。
それは良い。
彩女は小林少年を気遣い自身が通勤する事を考えていたが成り代わった小林にその町への愛着は無く、未婚で子持ちとなった彼女の負担をこれ以上増やしたくは無かった。
彼女は最後まで引っ越しを渋っていたが周りからの後押しも有り引っ越しが決まった。
そして小林は自分が引っ越す先が米花町と知る。
米花町、日本のヨハネスブルクと名高いその地名は小林のいた日本には無い地名である。
けれど小林はその地名をよく知っていた。
毎週放送しているアニメは録画して見ていたし、雑誌やコミック等は褐色金髪の潜入捜査官が推しだと言う妹が購入していたのでそれをたまに読んでいた。
よくよく考えればスクリーン越しにこの世界を見ていた時も何だか見覚えのある顔がちらほらと出ていたのを思い出す。
小林は心の中で目一杯叫んだ。
「ここはコナンの世界かよ!!!!!」と
今更、自分が推し進めていた引っ越しを中止する訳にもいかない小林が考えたのは日本のヨハネスブルクと名高き米花町でどうやって自分も彩女も無事に暮らすかであった。
中身で言えば血の繋がりの無い彩女であるが葬儀からの短い期間で小林は彩女に懐いていた。
元々スクリーン越しに聞く彼女の情報に悪い物は無く対面から暫くして得た印象は善人。
困っている人がいれば其処へ駆けて手伝う様な優しい彼女は特に小林に優しく、少し幼さの残る柔らかな笑みで小林を愛称で呼んでは頭を撫でたり抱き締めた。
小林に妹はいたが姉も兄もいない。
けれど同級生からの情報でリアル年上の兄弟は大体理不尽で横柄でジャイアンを具現化した様な存在だと聞いていたからこれは二次創作によくある「僕の考えた最高のお姉さん」なのだと思った。
要は短期間ながら、小林は家族愛的に彼女が大好きになっていた。
大好きな彩女を危険な目に合わせたくないと強く思う小林は出来るだけコナンは勿論その他主要なキャラクター達とは会うまいと思うのだがそうも上手くいかない。
彩女が転入手続きをしてきたのは悲しきかなこの世界の主人公江戸川コナンが通う帝丹小学校だったのである。
彩女に気を使い頑張りますと返した小林であるがあまり友達作りをする気にはなれなかった。
だって彼は見た目は子供であるが、中身は成人をとっくに迎えた大人なのである。
「今日からみんなと一緒に学ぶ事になりました。小林芳雄君です」
「よろしくお願いします」
ぺこりと小林が黒板の前で頭を下げると元気な声が沢山返ってきた。
その声は今日は月曜日だと言うのに疲れも気怠さも一切なく、兎に角元気な声に小林は気圧される。
小学生の明るさに眩しい物を感じた小林は先生に指示された窓際で最後尾の席に座った。
教科書を見る振りをしながら教室中を伺うが少年少女達の中にコナンや少年探偵団の姿は見当たらない。
それに安心した小林は小さく安堵の息を吐いた。
そういえば、と小林は今この世界はコナンでいうどのぐらいのタイミングなのだろうか考える。
工藤新一は薬を飲んで縮んだのか?
灰原哀は転入してきたのか?
もしかしてもう組織は壊滅したのか?
そんな事を考えながら担任教師の言葉を流し聞く。
小林の希望としては既に組織壊滅が一番ありがたいのだがそんな希望を打ち砕く会話が小林の耳に聞こえた。
「昨日、少年探偵団に飼い猫を見つけてもらったんだ」
「それって隣のクラスの?」
そう!と小声ながらもしっかりと小林の耳まで届いた肯定の声に小林は手で顔を覆い現実は非情だと嘆いた。