とある悪食娘の話
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実は壬氏、山茶の雇い主ではあるが彼女の素性と言うものをよく知らない。
ある日、厨房で水蓮が泥棒猫が出たと壬氏の前に突き出したのが山茶であった。
詳しく聞けば泥棒というのは未遂であり、厨房で水蓮が料理をしていたところ、山茶がキラキラと瞳を輝かせ窓から調理の様子を窺っていたという。
本人曰く美味しそうな匂いがしたので窓から何を作っていたのか窺っていたとの事。
勿論そんな供述が信用される訳は無く、当初は間者か何かと疑われた。
しかし一体何処に調理に見入って見つかる間者がいるかという事になり、壬氏が山茶の処分に困っていた所に帝の登場。
どうやら帝は山茶と顔見知りだったらしくその件は帝の口添えで不問となった。
そして帝は何を思ったのか彼女を侍女として迎える様に壬氏に提案したのだ。
当の本人である山茶も働き口を探していたらしく恐縮はするものの嫌がる様子も見せない。
帝曰く山茶は自身も阿多妃も信用の置いている人物で、身分もそれなりとの事。
確かに壬氏の屋敷は専任の侍女が水蓮しかおらず日頃から人員を増やしてくれと水蓮からせっつかれていた。
しかし安易に侍女を増やして余計な仕事を増やされても堪らないので水蓮の要望は叶えられずにいる。
帝が信頼出来ると言う以上、大丈夫なのだろうと思うのだが、暫く考え込んだ壬氏は山茶に顔を近付けた。
突然の事でびくりと動いた山茶であるがそれ以外に反応が見られない。
見つめ合う二人。
壬氏の行動に山茶の眉は下がり、困り眉となっていく。
そんな山茶に壬氏は尋ねた。
「俺を見てどう思う?」
もしここで山茶が綺麗だの、美しいだのと、のぼせた顔で返そうものなら幾ら帝の提案と言えど断ろうと壬氏は思っていた。
しかし山茶の答えは
「肉付きが薄そう、だなと」
「肉?」
壬氏は思わず自身の脇腹辺りを摘んでみるが上手く摘めない。
つまり、目の前の少女の嗜好はそういう男性なのだろうかと頭を傾げるがいまいちよく分からない。
意味の分からない返答であったが山茶の表情から、彼女は壬氏の顔に興味がない事が分かったので即日採用となった。
それから本人の希望から通いの侍女として付き合って来た。
家族について何度か尋ねた時はそれとなくはぐらかされてしまったが、それ以外は料理とお菓子作りが好きな年相応の娘だと壬氏は思っている。
しかし今になって壬氏は目の前の少女の事がよく分からない。
「拐かしと何気なく言うが姉が心配ではないのか?」
思わず壬氏がそう尋ねる程に山茶は平静であった。
表情は少し困っている様に見えるがそれは姉の事より侍女の役に対して暇を貰う事に困っている様に見える。
壬氏の問いに山茶の表情はますます困り顔になる。
「心配は心配ですが姉は一般の女性と違って、その、規格外と言いますか」
山茶自身、姉を何と説明すればいいのか分からないと言う様子であった。
「姉は大丈夫だと伯父も言っていたので多分、大丈夫なんです」
ただと、続いた山茶の声は何やら弱々しい。
「それを聞きつけた父が少し暴走気味で」
深々と溜息を吐く山茶にそれもそうだろうと壬氏も、一緒に話を聞いていた高順も水蓮も思った。
娘が拐かしにあったとなれば何処の父親だって冷静ではいられないだろう。
特に娘を持つ高順は話に出て来た父親に共感出来るのか口には出さずとも顔にはその父親の気持ちが分かると書かれている。
「少しでも目を離すと怪しい所に全てに火を放ちそうな勢いでして」
前言撤回。
気持ちは分かるがその父親の暴走は過激すぎだと三人は思った。
「それで、部下の人達が父を見張れない朝と夕だけお暇を頂きたいのです」
「何だ。お暇と言うのはそれだけか」
朝と夕だけ、つまり山茶は日中は今まで通り働く気でいる事に壬氏は目を丸くする。
しかし、訳が訳だけに壬氏は朝と夕とは言わず暫く休んでいい事を伝えると山茶は被りを振って苦笑いを浮かべた。
「私が暫く休んだから姉が見つかるというものでもないですし、兄も見張りは朝と夕だけで良いと言ってますので」
なので朝と夕だけお暇を下さいと改めて頭を下げた山茶に壬氏はそういう事ならと了承した。