とある悪食娘の話
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疲れて帰って来た壬氏を年配の侍女が迎えた。
妃達の諍い、迫って来る女官や武官達の対応に心身共に疲れさせた壬氏に侍女・水蓮は労いの言葉をかける。
着替えの済んだ壬氏が席に着くと浅黒い肌をした侍女が暖かな湯気を立てた料理を運んで来た。
夕食の食事の当番が彼女である事に気付いた壬氏の頬が僅かに緩んだ事を水蓮は見逃さない。
「まあ、坊っちゃんたら山茶の作った食事がそんなに良いのですね」
「年老いた私の料理なんて」と袖で顔を覆いよよよと泣いて見せる水蓮に壬氏は慌てて否定する。
「誰もそんな事は言っていないだろう」
と、言いつつもやはり浅黒い肌の侍女、山茶の料理を壬氏は日々の細やかな楽しみにしていたりもする。
昔から慣れ親しんだ水蓮の料理も変わらず好きなのだが山茶の作る料理は目新しい物、斬新な物が多くあった。
始めこそ彼女の作る料理に対しただ物珍しければ良い物でも無いと片眉を上げていた水蓮であるが、彼女の料理工程の丁寧さに加えて新しいなりにも昔ながらの調理法を活かした料理に興味を抱いたのか近頃は互いに調理法を教えたり教えられたりしているらしい。
なので先程までのやりとりは水蓮のちょっとした冗談であり、その証拠に袖を降ろした水蓮の頬は涙の跡一つない。
水蓮の冗談に付き合った壬氏は一息吐くと、温かな湯気を上げる椀を取り上げ汁物を啜った。
壬氏は部屋の入り口に立った高順に一緒に食べないかと誘うが彼は首を横に振るいその誘いを辞退する。
聞けば今日は自宅に帰るらしい。
何か待っている様子での高順に壬氏が頭を傾げていれば山茶が何か包みを手に厨房から出て来た。
「高順様、こちら奥方様と麻美様に」
そう言って渡された包みを高順は嬉しそうに受け取る。
包みの中身が気になった壬氏がそれは何かと尋ねると山茶が自宅で作ってきた菓子だと言う。
料理やお菓子作りが好きな山茶と甘い物好きの高順。
以前から何かと二人でお菓子談義に花を咲かす姿を目撃していたがよもや菓子を贈る仲にまで発展していた事に壬氏は固まっていた。
そんな壬氏をどう思ったのか高順は抱えていた包みを背中へと回して隠す。
「いくら貴方様と言えどこれは渡せませんよ。この菓子は麻美の大好物なので」
以前は害虫を見る様な目で高順を見ていた麻美であるが最近は手土産の菓子の効果か、彼女の寄越す視線が害虫から益虫を見るぐらいに迄優しくなったという。
高順としてはこのまま脱虫扱いのせめて動物程度の扱いに迄は親子の仲を上げたく必死であった。
「誰もそれを寄越せとは言っていないだろう!」
そんな意地の悪い真似はしないと言う壬氏に安心したのか高順は背に回して隠していた包みを前に抱え直した。
高順は包みを待っていたのか壬氏に達に挨拶をすると踵を返して部屋を出ようとする。
高順の背を暫く見送っていた山茶は振り返ると神妙な面持ちで壬氏の名を呼んだ。
川魚の香草揚げを食していた壬氏は顔を上げて尋ねる。
「何か足りない物でもあったか?それならば水蓮に言ってくれ。後日取り寄せよう」
「いえ」
山茶が作る料理は地方や外国の料理も多く厨房に普段置かれている調味料だけでは足りない事も多々ある。
その場合は交易品から取り寄せたりと多少手間と値がかかるのだが壬氏も美味しく目新しい物は食べてみたいので必要な物がある度に申し訳無さそうにお願いして来る山茶に気にするなと声をかけ、聞き入れるのだ。
てっきり今回もそのお願いかと思っていたが山茶の表情から察するにどうやら違うらしい。
よく見れば水蓮も彼女と同じ様な表情をしている。
何時もと違った二人の様子に何事かと扉に手をかけていた高順も退出を止めて様子を伺う。
「何かあったのか?」
「何かあったと言えばありまして」
「誰かに嫌がらせでもされたのか?」
今は無いが山茶が働き出した当初は壬氏の元で働く山茶に対しての女官達のやっかみが酷く、陰口や悪戯等が頻繁に行われていた。
山茶は気遣う壬氏に対してただただ微笑んでいたが中には洒落にならない悪戯もあった。
しかしどうにかしようにも壬氏自身が出て来ては益々被害が酷くなるだけだと麻美に止められ、壬氏は傍観するしか無かったのだがある日一体何をしたのか水蓮と麻美の活躍でそれらは治った。
だというのにまた、あの時の様な事が起こっているのか壬氏は尋ねるが山茶は首を振るう。
「暫くお暇を頂きたく」
山茶の言葉に壬氏は思わず席から立ち上がり、様子を伺っていた高順は慌てて戻って来た。
山茶の肩を掴み壬氏は何故と、訳を問う。
というのも山茶は侍女としての仕事振りは水蓮に付いていける程に有能なのだが、それとは別に今の様に壬氏の顔が至近距離にあっても顔色を変えない貴重な人材であった。
「何故だ、何が不満だ。給金か?」
それならば、と賃上げに対して考えると言いかけた壬氏を山茶は宥めた。
「お給金は腰掛けで働く私には十分過ぎる程頂いております」
「だったら」
またしても首を横に振るった山茶は自身の頬に手を当てて困った様に言った。
姉が拐かしにあったと
妃達の諍い、迫って来る女官や武官達の対応に心身共に疲れさせた壬氏に侍女・水蓮は労いの言葉をかける。
着替えの済んだ壬氏が席に着くと浅黒い肌をした侍女が暖かな湯気を立てた料理を運んで来た。
夕食の食事の当番が彼女である事に気付いた壬氏の頬が僅かに緩んだ事を水蓮は見逃さない。
「まあ、坊っちゃんたら山茶の作った食事がそんなに良いのですね」
「年老いた私の料理なんて」と袖で顔を覆いよよよと泣いて見せる水蓮に壬氏は慌てて否定する。
「誰もそんな事は言っていないだろう」
と、言いつつもやはり浅黒い肌の侍女、山茶の料理を壬氏は日々の細やかな楽しみにしていたりもする。
昔から慣れ親しんだ水蓮の料理も変わらず好きなのだが山茶の作る料理は目新しい物、斬新な物が多くあった。
始めこそ彼女の作る料理に対しただ物珍しければ良い物でも無いと片眉を上げていた水蓮であるが、彼女の料理工程の丁寧さに加えて新しいなりにも昔ながらの調理法を活かした料理に興味を抱いたのか近頃は互いに調理法を教えたり教えられたりしているらしい。
なので先程までのやりとりは水蓮のちょっとした冗談であり、その証拠に袖を降ろした水蓮の頬は涙の跡一つない。
水蓮の冗談に付き合った壬氏は一息吐くと、温かな湯気を上げる椀を取り上げ汁物を啜った。
壬氏は部屋の入り口に立った高順に一緒に食べないかと誘うが彼は首を横に振るいその誘いを辞退する。
聞けば今日は自宅に帰るらしい。
何か待っている様子での高順に壬氏が頭を傾げていれば山茶が何か包みを手に厨房から出て来た。
「高順様、こちら奥方様と麻美様に」
そう言って渡された包みを高順は嬉しそうに受け取る。
包みの中身が気になった壬氏がそれは何かと尋ねると山茶が自宅で作ってきた菓子だと言う。
料理やお菓子作りが好きな山茶と甘い物好きの高順。
以前から何かと二人でお菓子談義に花を咲かす姿を目撃していたがよもや菓子を贈る仲にまで発展していた事に壬氏は固まっていた。
そんな壬氏をどう思ったのか高順は抱えていた包みを背中へと回して隠す。
「いくら貴方様と言えどこれは渡せませんよ。この菓子は麻美の大好物なので」
以前は害虫を見る様な目で高順を見ていた麻美であるが最近は手土産の菓子の効果か、彼女の寄越す視線が害虫から益虫を見るぐらいに迄優しくなったという。
高順としてはこのまま脱虫扱いのせめて動物程度の扱いに迄は親子の仲を上げたく必死であった。
「誰もそれを寄越せとは言っていないだろう!」
そんな意地の悪い真似はしないと言う壬氏に安心したのか高順は背に回して隠していた包みを前に抱え直した。
高順は包みを待っていたのか壬氏に達に挨拶をすると踵を返して部屋を出ようとする。
高順の背を暫く見送っていた山茶は振り返ると神妙な面持ちで壬氏の名を呼んだ。
川魚の香草揚げを食していた壬氏は顔を上げて尋ねる。
「何か足りない物でもあったか?それならば水蓮に言ってくれ。後日取り寄せよう」
「いえ」
山茶が作る料理は地方や外国の料理も多く厨房に普段置かれている調味料だけでは足りない事も多々ある。
その場合は交易品から取り寄せたりと多少手間と値がかかるのだが壬氏も美味しく目新しい物は食べてみたいので必要な物がある度に申し訳無さそうにお願いして来る山茶に気にするなと声をかけ、聞き入れるのだ。
てっきり今回もそのお願いかと思っていたが山茶の表情から察するにどうやら違うらしい。
よく見れば水蓮も彼女と同じ様な表情をしている。
何時もと違った二人の様子に何事かと扉に手をかけていた高順も退出を止めて様子を伺う。
「何かあったのか?」
「何かあったと言えばありまして」
「誰かに嫌がらせでもされたのか?」
今は無いが山茶が働き出した当初は壬氏の元で働く山茶に対しての女官達のやっかみが酷く、陰口や悪戯等が頻繁に行われていた。
山茶は気遣う壬氏に対してただただ微笑んでいたが中には洒落にならない悪戯もあった。
しかしどうにかしようにも壬氏自身が出て来ては益々被害が酷くなるだけだと麻美に止められ、壬氏は傍観するしか無かったのだがある日一体何をしたのか水蓮と麻美の活躍でそれらは治った。
だというのにまた、あの時の様な事が起こっているのか壬氏は尋ねるが山茶は首を振るう。
「暫くお暇を頂きたく」
山茶の言葉に壬氏は思わず席から立ち上がり、様子を伺っていた高順は慌てて戻って来た。
山茶の肩を掴み壬氏は何故と、訳を問う。
というのも山茶は侍女としての仕事振りは水蓮に付いていける程に有能なのだが、それとは別に今の様に壬氏の顔が至近距離にあっても顔色を変えない貴重な人材であった。
「何故だ、何が不満だ。給金か?」
それならば、と賃上げに対して考えると言いかけた壬氏を山茶は宥めた。
「お給金は腰掛けで働く私には十分過ぎる程頂いております」
「だったら」
またしても首を横に振るった山茶は自身の頬に手を当てて困った様に言った。
姉が拐かしにあったと
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