るろうに剣心
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部下四人の墓を作る蒼紫の耳に下駄の音が届く。
「俺を殺しに来たのか、お福」
下駄の音の主、お福は蒼紫の手前で足を止める。
「私に人殺しなんてできないですよ。ましてや蒼紫様を、私には到底無理ですわ」
お福は顔を覆うおたふくの面の口元に手を当てて「ほほほほ」と、演技染みた笑いを上げた。
さも人殺しなどした事ない口振りのお福であるが、彼女も歴とした隠密集団御庭番衆の一人である。
主な職務は芸者や遊女に扮しての情報収集であるが、必要とあらば暗殺だって行う。
ならばお福が嘘を吐いているのかというとそういう訳ではなく、お福自身に人殺しをしている自覚が無いのだ。
座敷や床では装備が限られる分、相手の警戒度は高い。
それこそ相手に少しでも殺意を向ければ斬られかねない。
その為、古くから四乃森の家に仕えてきたお福の家は諜報、房中術の他に殺意なくして相手を殺す術を編み出しており、その家の跡継ぎであるお福もまたその術を幼少期より仕込まれていた。
それは日常の何気ない動作、舞踊、床での情事などに乗じて、殺気を抱かず相手を殺す術。
けれど殺気を抱かないというのは相手を殺す意志がないという事であり、お福にとってお茶を出したら相手が死んでいた。
琴を演奏していたら相手が死んでいた。
睦み合っていたら相手が死んでいた。
全て行動の延長上にある結果でしかなく、そのため、お福自身には人殺しをしている自覚はないのだ。
けれど今のお福には明確に、蒼紫を殺したい理由がある。
ある筈だと、蒼紫は現れたお福を警戒していた。
蒼紫を庇って死んだ部下の一人、般若はお福が深く愛した男なのだ。
「そもそも私が何故、蒼紫様を殺さなくてはいけないのです?」
お福はまだ若く、器量も良い事から結婚という形で御庭番衆を抜ける事だって出来た。
けれどそうはせず、主である蒼紫の支えになればと、自主的に残り、今も金銭面、情報面で蒼紫を支えている。
「耳聡いお前なら既に知っていると思うが般若は俺を庇って死んだ」
高荷恵を奪還しに来た緋村剣心と、用心棒として雇っていた蒼紫を諸共殺そうとした武田観柳が放ったガトリングガンから蒼紫を守る為、他の部下三人と共に般若は身を挺して庇ったのだ。
「勿論知っております。それで蒼紫様ならば夫と三人の墓を作ってくれていると思い、私はこうして供える花を用意して参りましたの」
そういうお福の腕には仏前に供える花が抱えられていた。
それを見てなお、お福に対しての警戒を解けないでいる蒼紫は尋ねた。
「自称とはいえ、お前の夫を殺した私が憎くないのか」
「自称ではありません。内縁です。
な・い・え・ん」
間違えないで下さいとお福は語気を強めて言うが、蒼紫の言う通りあくまでもお福の自称であり、お福と般若は互いを妻や夫と呼び合う関係ではない。
お福は以前から般若に対して何度も結婚を迫っていたが、般若はそれを固辞し続けていた。
「既成事実はあるのです。これを内縁の妻と言わずしてなんというのです」
「それはお前が般若に襲いかかって同意もなく作ったものだろう」
蒼紫はその時の事を思い出すだけで頭が痛い。
何故か一目見た瞬間から般若を気に入ったお福は般若に会う毎に結婚を迫ったがその度に丁寧に断られていた。
その一途で熱烈なお福の思いに応援半分、面白半分で式尉達も援護した事もあったが結果は振るわず。
そうしてとうとう、頑なな態度の般若に痺れを切らしたお福は実力行使に出た。
お福が四乃森に古くから仕える家の出という事で般若が強く出れないのをいい事に、無理矢理に襲い、事に及んで既成事実を作ったのだ。
その時の般若の悲壮感といえば、男なのに女人であるお福に襲われ情け無いやら、新入りの自分が古くから四乃森に仕えてきた家の娘であるお福に手を出してしまい申し訳ないやらで、般若は蒼紫に報告の後に腹を切りそうな勢いであった。
切腹については蒼紫が何とか宥めて止めさせたが、それからのお福は般若の罪悪感をも利用して彼の妻も同然という顔で振る舞っている。
それ程まで深く愛し、求めた夫が頭である蒼紫の身の為とはいえ死んだのだ。
だからこそ蒼紫はお福に怨まれて当然という思いであった。
「私も夫も優先事項は蒼紫様です。夫は蒼紫様をその身で守れたのですからそれを誉はしても蒼紫様を憎むなんてお門違いな事は致しません」
お福の表情はおたふく面に隠れて見えなかったがその声は嘘偽りを感じられぬ真っ直ぐな声であった。
「そうか」
漸く警戒を解いた蒼紫の隣に立ったお福は蒼紫の作った四人の墓に用意した花を添えた。
膝を折り、墓に目線を合わせたお福は目を瞑り手を合わせる。
般若と同僚の三人にしばしの別れでもしたのか、お福は少しばかり長く手を合わせていた。
漸く目を開けたお福は蒼紫を見上げてこれからどうするのか尋ねる。
仕官先がない部下四人の為、御庭番衆を続けて来た蒼紫であるが、その四人を失った今であれば蒼紫一人、職を得る事だって容易い。
「俺はこの命を繋いでくれた四人に報いる為、最強とならなくてはならない。きっと、それは地獄よりも遠く険しい道のりだ。それでも俺に付いて来てくれるか?」
「勿論でございます」
迷いなど一切なく頷くお福。
そうして二人は樹海の奥へと消えた。
「俺を殺しに来たのか、お福」
下駄の音の主、お福は蒼紫の手前で足を止める。
「私に人殺しなんてできないですよ。ましてや蒼紫様を、私には到底無理ですわ」
お福は顔を覆うおたふくの面の口元に手を当てて「ほほほほ」と、演技染みた笑いを上げた。
さも人殺しなどした事ない口振りのお福であるが、彼女も歴とした隠密集団御庭番衆の一人である。
主な職務は芸者や遊女に扮しての情報収集であるが、必要とあらば暗殺だって行う。
ならばお福が嘘を吐いているのかというとそういう訳ではなく、お福自身に人殺しをしている自覚が無いのだ。
座敷や床では装備が限られる分、相手の警戒度は高い。
それこそ相手に少しでも殺意を向ければ斬られかねない。
その為、古くから四乃森の家に仕えてきたお福の家は諜報、房中術の他に殺意なくして相手を殺す術を編み出しており、その家の跡継ぎであるお福もまたその術を幼少期より仕込まれていた。
それは日常の何気ない動作、舞踊、床での情事などに乗じて、殺気を抱かず相手を殺す術。
けれど殺気を抱かないというのは相手を殺す意志がないという事であり、お福にとってお茶を出したら相手が死んでいた。
琴を演奏していたら相手が死んでいた。
睦み合っていたら相手が死んでいた。
全て行動の延長上にある結果でしかなく、そのため、お福自身には人殺しをしている自覚はないのだ。
けれど今のお福には明確に、蒼紫を殺したい理由がある。
ある筈だと、蒼紫は現れたお福を警戒していた。
蒼紫を庇って死んだ部下の一人、般若はお福が深く愛した男なのだ。
「そもそも私が何故、蒼紫様を殺さなくてはいけないのです?」
お福はまだ若く、器量も良い事から結婚という形で御庭番衆を抜ける事だって出来た。
けれどそうはせず、主である蒼紫の支えになればと、自主的に残り、今も金銭面、情報面で蒼紫を支えている。
「耳聡いお前なら既に知っていると思うが般若は俺を庇って死んだ」
高荷恵を奪還しに来た緋村剣心と、用心棒として雇っていた蒼紫を諸共殺そうとした武田観柳が放ったガトリングガンから蒼紫を守る為、他の部下三人と共に般若は身を挺して庇ったのだ。
「勿論知っております。それで蒼紫様ならば夫と三人の墓を作ってくれていると思い、私はこうして供える花を用意して参りましたの」
そういうお福の腕には仏前に供える花が抱えられていた。
それを見てなお、お福に対しての警戒を解けないでいる蒼紫は尋ねた。
「自称とはいえ、お前の夫を殺した私が憎くないのか」
「自称ではありません。内縁です。
な・い・え・ん」
間違えないで下さいとお福は語気を強めて言うが、蒼紫の言う通りあくまでもお福の自称であり、お福と般若は互いを妻や夫と呼び合う関係ではない。
お福は以前から般若に対して何度も結婚を迫っていたが、般若はそれを固辞し続けていた。
「既成事実はあるのです。これを内縁の妻と言わずしてなんというのです」
「それはお前が般若に襲いかかって同意もなく作ったものだろう」
蒼紫はその時の事を思い出すだけで頭が痛い。
何故か一目見た瞬間から般若を気に入ったお福は般若に会う毎に結婚を迫ったがその度に丁寧に断られていた。
その一途で熱烈なお福の思いに応援半分、面白半分で式尉達も援護した事もあったが結果は振るわず。
そうしてとうとう、頑なな態度の般若に痺れを切らしたお福は実力行使に出た。
お福が四乃森に古くから仕える家の出という事で般若が強く出れないのをいい事に、無理矢理に襲い、事に及んで既成事実を作ったのだ。
その時の般若の悲壮感といえば、男なのに女人であるお福に襲われ情け無いやら、新入りの自分が古くから四乃森に仕えてきた家の娘であるお福に手を出してしまい申し訳ないやらで、般若は蒼紫に報告の後に腹を切りそうな勢いであった。
切腹については蒼紫が何とか宥めて止めさせたが、それからのお福は般若の罪悪感をも利用して彼の妻も同然という顔で振る舞っている。
それ程まで深く愛し、求めた夫が頭である蒼紫の身の為とはいえ死んだのだ。
だからこそ蒼紫はお福に怨まれて当然という思いであった。
「私も夫も優先事項は蒼紫様です。夫は蒼紫様をその身で守れたのですからそれを誉はしても蒼紫様を憎むなんてお門違いな事は致しません」
お福の表情はおたふく面に隠れて見えなかったがその声は嘘偽りを感じられぬ真っ直ぐな声であった。
「そうか」
漸く警戒を解いた蒼紫の隣に立ったお福は蒼紫の作った四人の墓に用意した花を添えた。
膝を折り、墓に目線を合わせたお福は目を瞑り手を合わせる。
般若と同僚の三人にしばしの別れでもしたのか、お福は少しばかり長く手を合わせていた。
漸く目を開けたお福は蒼紫を見上げてこれからどうするのか尋ねる。
仕官先がない部下四人の為、御庭番衆を続けて来た蒼紫であるが、その四人を失った今であれば蒼紫一人、職を得る事だって容易い。
「俺はこの命を繋いでくれた四人に報いる為、最強とならなくてはならない。きっと、それは地獄よりも遠く険しい道のりだ。それでも俺に付いて来てくれるか?」
「勿論でございます」
迷いなど一切なく頷くお福。
そうして二人は樹海の奥へと消えた。
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