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「ユメちゃん」
明るく元気で、何処か楽しげな声にユメの体は震えた。
あまりに大袈裟な反応かもしれない、と自分でも思うのだがこの後の展開を想像するにむしろ適当ではないかとも思えてくる。
「・・・なん、ですか?」
訝しげに俯きながら、地を這うような低い声でユメは尋ねた。
自分の顔も見ようともしないユメに対し高尾の表情は先程の声の明るさと同じく、眩しささえ感じる。
初めは気のいい隣人
というのがユメの高尾に対する印象だった。
だが、そんな印象を受けた三ヶ月後にユメはそれが全て間違いだと思い知らされる。
「早く部活行こうぜ。
真ちゃんも廊下で待ってる事だしよ」
此処だけ聞けばただ
一緒に部活に行きましょう
というお誘いだ。
こんな見るからに根暗な女子に声をかけて流石高尾だなとちょうどユメの側を通ったクラスメイトの目が言っていた。
余計なお世話だ。
此方の事情も知らないくせにこの童て・・・
とユメは名前も覚えていないクラスメイトに心の中で悪態を付くのだがそのクラスメイトはユメに何も言っていないし目線すら交わっていない。
全てユメの被害妄想である。
「・・・」
「ん?なになに」
ユメは自身の被害妄想から名無しのクラスメイトに対し悪態をついてはいるが現実の彼女は人に耳を傾けて貰わなければ聞こえない程の小さな声でしか自分の言いたい事も言えない陰弁慶な性格だ。
今も高尾がユメの小さな声に耳を傾けている。
「・・・どうしてバスケ部員でもない私が貴方と一緒に部活へ行かなくてはならないんですか」
「だってお前、男子バスケ部のマネージャーだろ」
お前は今更何を言っているんだと言わんばかりの返答にユメは違うと返す。
自分は帰宅部であり、バスケ部のマネージャーになどなった覚えはない。
「昨日も一昨日も、マネージャー業に励んでたじゃん」
「あれは貴方が私を無理やり体育館に連れてきて仕事を押し付けたんじゃありませんか」
思わず彼女にしては大きな声が出たがそれでも常人のする会話に適した音量程度。
暫くその場で二人とも無言となった。
今、教室に残っているのはユメと高尾。
緑間は廊下で待たされているのでこの教室内にはいない。
「で?」
教室に二人っきりだからか、少しずつ高尾の笑顔が剥げていく。
「マネージャー業は高尾君に無理矢理させられていただけなのでもうやりたくありませーん
てか?」
丁寧に声色をユメに似せての台詞。
要約すれば高尾の言葉のままだ。
「そ、そうです」
「ふーん」「へー」と気のない気のない返事をした高尾の表情に先程迄の好青年な彼は何処にもいない。
俯くユメは高尾の視線をひしひしと感じていた。
無言の圧力が自分より高い位置から降りかかっているがユメは発言の撤回をしようとはしない。
ユメは此処で高尾の圧力に屈してしまっては放課後の悠々自適な趣味の時間が永遠、とまではいかなくも高校三年間は失われてしまう。
そんな気がしていた。
頭上から高尾の溜息が聴こえる。
俯いていても分かる。
高尾はズボンのポケットから携帯電話を取り出し「ほれ」とユメの前に差し出す。
携帯電話の液晶に写っていたのはよくよく存じている人物の横顔。
ユメの口から発せられたのは只の奇声であった。
「くぁwせdrftgyふじこlp???!」
「何言ってるか分かんねぇ」
先程迄の威圧感は何処へやら、
完全に混乱しているユメに対して高尾は指を指し腹を抱えて笑っていた。
「これ、私っ?!
何これ、何で、こんな写真」
液晶に写し出されていたのは本屋で立ち読みをしていたのであろうユメが酷くだらしない顔をして本を一生懸命読んでいる姿。
「俺もよく行くのよ、
その本屋。ちょうどユメちゃんが見えたから後追ったらさ」
本を相手に恍惚の表情を浮かべるユメの姿がそこにあった。
うっとり、なんて可愛らしい姿なら良まだ良い。
写真のユメは何方かというとちょっと危ない薬を常用していると疑われても仕方がない顔だ。
消そう
そう思い立った所で携帯電話はユメの手からすり抜けてしまう。
携帯電話は持ち主、高尾の元へ
電話から連なるストラップの輪に指を入れてくるくると回して見せる。
「そう恐い顔をするなよ」
高尾は今だ笑っていて、余裕綽々といったところだろう。
対してユメは写真のデータを消したいがその携帯は高尾の手の中で奪おうにも奪えない。
「消して下さい」
「やだね」
即答で切り捨てられるユメの訴え、だが一度切られた程度じゃユメも諦められ筈もなく再度申し入れるも高尾の答えは変わらず。
「 い や 」
「消して下さい。
お願いします!」
頼んでも駄目ならばとユメ頭上の携帯を撮ろうと手を伸ばす。
携帯迄の足りない距離を何とか埋めようと足や腕の筋という筋を伸ばし高尾の手から携帯を奪おうとするがそれでもほんの僅かに足りない。
爪先立ちの足では身体の安定が保てず、高尾に身体を預ける様な姿勢になっているのだがユメは構わない、と言うより構う余裕がなかった。
「ちょっ、ユメちゃんいくらなんでもくっつき過ぎなんじゃ」
ユメの身体の至る所が自分に密着しているこの状況には高尾も動揺せずには要られない。
「後ちょっと・・・!」
「俺の話聞いてる?!」
届きそうで届かないその距離にユメは堪らず教室の床を蹴った。
「あ、」
ユメの指が高尾の携帯を弾き彼の指を離れた携帯は宙を浮く。
それに慌てて手を伸ばすユメの身体も浮遊し、重力に引っ張られるがままに教室の床に向かって落ちていた。
「やった!取れた!」
「危ねぇっ!!」
自分の身体が今に床とぶつかろうとしているというのに高尾から携帯を奪えた事を喜ぶユメの背中に高尾の腕が回る。
回された腕に抱きとめられた
ユメの身体に小さな衝撃。
伏せた瞳を僅かに開けば目の前には高尾の顔があった。
「・・・ったぁ」
携帯を奪う事ばかり考えていた為かまともに受け身を取らず倒れた筈なのに身体は不思議と痛くない。
「ユメちゃん大丈夫?」
自身の頭を痛そうに押さえたにも関わらずユメには優しい笑みを向ける高尾。
そこでユメは倒れる自分を高尾が庇い受け止めた事に気付いた。
身体を起こした高尾の頭をすかさず掴み傷はないか腫れて無いか見て触れて、また見てと確認する。
「私は大丈夫ですけど、高尾君の頭が心配です」
「ちょっ!その言い方だと俺の頭が可哀想みたいじゃん」
「・・・・・・」
「お願いだから何か返してくれよ」
触診する限り何もおかしなところはない。
元気そうに喋って、
「どうしたんですか。急に黙って」
彼との会話にしては珍しく間が出来た。
此方が話さなくても話しを途切れさせない彼が今、沈黙に徹している。
まさか、やはり何処かが悪いのか。
顔色をよく見ようとユメの手が高尾の頬に触れたところで彼の顔が赤く染まっている事に気付いく。
「あのさ、ユメちゃんって
結構天然?」
「え、」
高尾の言葉をいまいち理解出来ぬまま瞬きを一回、二回したところで身体が宙に浮いた。
勢い良く引っ張り上げられてユメの足はぷらぷらしている。
「お前ら良い度胸してるじゃねぇか」
高尾は見上げ、ユメは声のする方へ顔を向ける。
そこには青筋を浮かべた恐ろしい形相の宮地が立っていた。
「部活に来ねぇで教室でいちゃついてるなんて
高尾、お前轢くぞ」
「俺だけっすか?!」
そりゃあんまりですよーと何とも緩い返し。
流石と言うべきか、高尾は宮地が怒っていようと何時もと変わらず飄々としていた。
寧ろ嬉しそうにも見える。
「え、宮地さんから見て俺達そんな風に見えます?」
そんなとは自分が言った「いちゃついている」の事か?
宮地はよくよく高尾を観察し、察した。
「お前なぁ、俺はそんな話しをしよと思ってきたんじゃねぇんだ
・・・と、」
言葉が途切れる。
今の今まで宮地の腕に収まってきたユメが突然暴れ出したからだ。
宮地の腕の中で暴れたユメは彼の腕の力が緩んだ所で机にぶつかりながらも抜け出す。
「お、おい大丈夫か?」
それまで大人しかっただけに驚く宮地はユメの肩に触れた。
一連の動作で疲れたのかユメは肩で息をしている。
「あ、」
ユメは小さく反応した。
そしてゆっくり、幾つか間を開けて振り向く。
なんだよ、その顔は
彼女が宮地に向かって振り向いた時、床に座り込んだままだった高尾はそう思った。
不健康で日に焼けていない白い肌は赤く紅潮している。
普段に見られる死んだ魚の様な淀みはなくキラキラと、それでいて潤んでいた。
四月に出会って、今まで見たことのないユメの表情は体調の変化から来るものでなく
恋する乙女
そのものである。
「あ、
あの、
私・・・」
途切れ途切れに漏れる彼女の声に混じり過呼吸染みた音が紛れていた。
高尾の携帯を胸に、酸欠の金魚の様に口をぱくぱくとしては黙りを何度か繰り返す。
「帰ります!!」
宮地の側を突き抜けて、ユメは自分の机に置いたままの鞄を掴む。
「おーそうしろ
今日は調子悪そうだし、明日は出せたら部に顔出せよユメ」
宮地の言葉は届いているのかいないのか、ユメは駆け足に教室を出て行った。
いや、きっと聞こえている。
高尾の見えすぎる“鷹の目”は困惑しながらも綻ぶユメの口元を捉えていた。
これはつまり、
「・・・あんまりっすよ
宮地先輩・・・」
明るく元気で、何処か楽しげな声にユメの体は震えた。
あまりに大袈裟な反応かもしれない、と自分でも思うのだがこの後の展開を想像するにむしろ適当ではないかとも思えてくる。
「・・・なん、ですか?」
訝しげに俯きながら、地を這うような低い声でユメは尋ねた。
自分の顔も見ようともしないユメに対し高尾の表情は先程の声の明るさと同じく、眩しささえ感じる。
初めは気のいい隣人
というのがユメの高尾に対する印象だった。
だが、そんな印象を受けた三ヶ月後にユメはそれが全て間違いだと思い知らされる。
「早く部活行こうぜ。
真ちゃんも廊下で待ってる事だしよ」
此処だけ聞けばただ
一緒に部活に行きましょう
というお誘いだ。
こんな見るからに根暗な女子に声をかけて流石高尾だなとちょうどユメの側を通ったクラスメイトの目が言っていた。
余計なお世話だ。
此方の事情も知らないくせにこの童て・・・
とユメは名前も覚えていないクラスメイトに心の中で悪態を付くのだがそのクラスメイトはユメに何も言っていないし目線すら交わっていない。
全てユメの被害妄想である。
「・・・」
「ん?なになに」
ユメは自身の被害妄想から名無しのクラスメイトに対し悪態をついてはいるが現実の彼女は人に耳を傾けて貰わなければ聞こえない程の小さな声でしか自分の言いたい事も言えない陰弁慶な性格だ。
今も高尾がユメの小さな声に耳を傾けている。
「・・・どうしてバスケ部員でもない私が貴方と一緒に部活へ行かなくてはならないんですか」
「だってお前、男子バスケ部のマネージャーだろ」
お前は今更何を言っているんだと言わんばかりの返答にユメは違うと返す。
自分は帰宅部であり、バスケ部のマネージャーになどなった覚えはない。
「昨日も一昨日も、マネージャー業に励んでたじゃん」
「あれは貴方が私を無理やり体育館に連れてきて仕事を押し付けたんじゃありませんか」
思わず彼女にしては大きな声が出たがそれでも常人のする会話に適した音量程度。
暫くその場で二人とも無言となった。
今、教室に残っているのはユメと高尾。
緑間は廊下で待たされているのでこの教室内にはいない。
「で?」
教室に二人っきりだからか、少しずつ高尾の笑顔が剥げていく。
「マネージャー業は高尾君に無理矢理させられていただけなのでもうやりたくありませーん
てか?」
丁寧に声色をユメに似せての台詞。
要約すれば高尾の言葉のままだ。
「そ、そうです」
「ふーん」「へー」と気のない気のない返事をした高尾の表情に先程迄の好青年な彼は何処にもいない。
俯くユメは高尾の視線をひしひしと感じていた。
無言の圧力が自分より高い位置から降りかかっているがユメは発言の撤回をしようとはしない。
ユメは此処で高尾の圧力に屈してしまっては放課後の悠々自適な趣味の時間が永遠、とまではいかなくも高校三年間は失われてしまう。
そんな気がしていた。
頭上から高尾の溜息が聴こえる。
俯いていても分かる。
高尾はズボンのポケットから携帯電話を取り出し「ほれ」とユメの前に差し出す。
携帯電話の液晶に写っていたのはよくよく存じている人物の横顔。
ユメの口から発せられたのは只の奇声であった。
「くぁwせdrftgyふじこlp???!」
「何言ってるか分かんねぇ」
先程迄の威圧感は何処へやら、
完全に混乱しているユメに対して高尾は指を指し腹を抱えて笑っていた。
「これ、私っ?!
何これ、何で、こんな写真」
液晶に写し出されていたのは本屋で立ち読みをしていたのであろうユメが酷くだらしない顔をして本を一生懸命読んでいる姿。
「俺もよく行くのよ、
その本屋。ちょうどユメちゃんが見えたから後追ったらさ」
本を相手に恍惚の表情を浮かべるユメの姿がそこにあった。
うっとり、なんて可愛らしい姿なら良まだ良い。
写真のユメは何方かというとちょっと危ない薬を常用していると疑われても仕方がない顔だ。
消そう
そう思い立った所で携帯電話はユメの手からすり抜けてしまう。
携帯電話は持ち主、高尾の元へ
電話から連なるストラップの輪に指を入れてくるくると回して見せる。
「そう恐い顔をするなよ」
高尾は今だ笑っていて、余裕綽々といったところだろう。
対してユメは写真のデータを消したいがその携帯は高尾の手の中で奪おうにも奪えない。
「消して下さい」
「やだね」
即答で切り捨てられるユメの訴え、だが一度切られた程度じゃユメも諦められ筈もなく再度申し入れるも高尾の答えは変わらず。
「 い や 」
「消して下さい。
お願いします!」
頼んでも駄目ならばとユメ頭上の携帯を撮ろうと手を伸ばす。
携帯迄の足りない距離を何とか埋めようと足や腕の筋という筋を伸ばし高尾の手から携帯を奪おうとするがそれでもほんの僅かに足りない。
爪先立ちの足では身体の安定が保てず、高尾に身体を預ける様な姿勢になっているのだがユメは構わない、と言うより構う余裕がなかった。
「ちょっ、ユメちゃんいくらなんでもくっつき過ぎなんじゃ」
ユメの身体の至る所が自分に密着しているこの状況には高尾も動揺せずには要られない。
「後ちょっと・・・!」
「俺の話聞いてる?!」
届きそうで届かないその距離にユメは堪らず教室の床を蹴った。
「あ、」
ユメの指が高尾の携帯を弾き彼の指を離れた携帯は宙を浮く。
それに慌てて手を伸ばすユメの身体も浮遊し、重力に引っ張られるがままに教室の床に向かって落ちていた。
「やった!取れた!」
「危ねぇっ!!」
自分の身体が今に床とぶつかろうとしているというのに高尾から携帯を奪えた事を喜ぶユメの背中に高尾の腕が回る。
回された腕に抱きとめられた
ユメの身体に小さな衝撃。
伏せた瞳を僅かに開けば目の前には高尾の顔があった。
「・・・ったぁ」
携帯を奪う事ばかり考えていた為かまともに受け身を取らず倒れた筈なのに身体は不思議と痛くない。
「ユメちゃん大丈夫?」
自身の頭を痛そうに押さえたにも関わらずユメには優しい笑みを向ける高尾。
そこでユメは倒れる自分を高尾が庇い受け止めた事に気付いた。
身体を起こした高尾の頭をすかさず掴み傷はないか腫れて無いか見て触れて、また見てと確認する。
「私は大丈夫ですけど、高尾君の頭が心配です」
「ちょっ!その言い方だと俺の頭が可哀想みたいじゃん」
「・・・・・・」
「お願いだから何か返してくれよ」
触診する限り何もおかしなところはない。
元気そうに喋って、
「どうしたんですか。急に黙って」
彼との会話にしては珍しく間が出来た。
此方が話さなくても話しを途切れさせない彼が今、沈黙に徹している。
まさか、やはり何処かが悪いのか。
顔色をよく見ようとユメの手が高尾の頬に触れたところで彼の顔が赤く染まっている事に気付いく。
「あのさ、ユメちゃんって
結構天然?」
「え、」
高尾の言葉をいまいち理解出来ぬまま瞬きを一回、二回したところで身体が宙に浮いた。
勢い良く引っ張り上げられてユメの足はぷらぷらしている。
「お前ら良い度胸してるじゃねぇか」
高尾は見上げ、ユメは声のする方へ顔を向ける。
そこには青筋を浮かべた恐ろしい形相の宮地が立っていた。
「部活に来ねぇで教室でいちゃついてるなんて
高尾、お前轢くぞ」
「俺だけっすか?!」
そりゃあんまりですよーと何とも緩い返し。
流石と言うべきか、高尾は宮地が怒っていようと何時もと変わらず飄々としていた。
寧ろ嬉しそうにも見える。
「え、宮地さんから見て俺達そんな風に見えます?」
そんなとは自分が言った「いちゃついている」の事か?
宮地はよくよく高尾を観察し、察した。
「お前なぁ、俺はそんな話しをしよと思ってきたんじゃねぇんだ
・・・と、」
言葉が途切れる。
今の今まで宮地の腕に収まってきたユメが突然暴れ出したからだ。
宮地の腕の中で暴れたユメは彼の腕の力が緩んだ所で机にぶつかりながらも抜け出す。
「お、おい大丈夫か?」
それまで大人しかっただけに驚く宮地はユメの肩に触れた。
一連の動作で疲れたのかユメは肩で息をしている。
「あ、」
ユメは小さく反応した。
そしてゆっくり、幾つか間を開けて振り向く。
なんだよ、その顔は
彼女が宮地に向かって振り向いた時、床に座り込んだままだった高尾はそう思った。
不健康で日に焼けていない白い肌は赤く紅潮している。
普段に見られる死んだ魚の様な淀みはなくキラキラと、それでいて潤んでいた。
四月に出会って、今まで見たことのないユメの表情は体調の変化から来るものでなく
恋する乙女
そのものである。
「あ、
あの、
私・・・」
途切れ途切れに漏れる彼女の声に混じり過呼吸染みた音が紛れていた。
高尾の携帯を胸に、酸欠の金魚の様に口をぱくぱくとしては黙りを何度か繰り返す。
「帰ります!!」
宮地の側を突き抜けて、ユメは自分の机に置いたままの鞄を掴む。
「おーそうしろ
今日は調子悪そうだし、明日は出せたら部に顔出せよユメ」
宮地の言葉は届いているのかいないのか、ユメは駆け足に教室を出て行った。
いや、きっと聞こえている。
高尾の見えすぎる“鷹の目”は困惑しながらも綻ぶユメの口元を捉えていた。
これはつまり、
「・・・あんまりっすよ
宮地先輩・・・」
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