不老不死な審神者
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その時の私は確かにやらなければならない事があって、いつまでも寝たきりではいられない私は父親の持ってきた滋養があるという不思議なそれを食べずにはいられなかった。
一口目は生臭かった。
鼻につく生臭さに眉を顰めながら何とか飲み込んだ。
しかしそれを一口食べただけでは許されず、息を止め、涙を浮かべながら一口、二口と食べた。
食べている内に吐き気を催す生臭さも、脂っこさも嫌悪するどころか癖になり、少し食べる筈が私は夢中でそれを食べていた。
私は病人で、食欲など先程まで全くなかった筈なのに、気付くと山の様にあったそれを全て一人で食べ切っていた。
そしていつに間にか病人特有の気怠さは失せ、それどころかやつれた頬は丸みを取り戻し、最早死人と変わらぬ程に青く染まっていた顔色は血色を取り戻した。
最早、誰が見ても常人と疑わぬ健康な身体を取り戻した私。
理屈はどうあれ、私が健康になった事を喜ぶ私達家族であったが、私達は思い違いをしていた。
確かに普通の人と変わらぬ、以前よりも遥かに活力を取り戻してはいたが、私の身体は普通の人間では無くなっていた。
「山姥切国広だ。・・・・・・何だその目は。写しだというのが気になると?」
光の中から現れ、山姥切国広と名乗ったその男はななしと目が合うなり視線を逸らし、自身の被っていた白い布を掴むと深く被り込んだ。
身体を使って分かりやすく拒絶する山姥切国広。
であるが、ななしはそんな山姥切国広の態度に構わず瞳を輝かせて大きく一歩、二歩と前に出た。
前のめりに、互いの身体がくっ付き合う寸前という近さまで距離を縮めたななし。
その近過ぎる距離に気付いた山姥切国広は再びななしから距離を取ろうと後ずさるのだが、すかさずななしは逃すまいと言わんばかりに山姥切国広の手を取った。
取られ、握られた柔らかな感触、人肌と呼ばれる温かな温度に山姥切国広の意識は一瞬であるものの気を取られる。
その一瞬で彼の眼前まで顔を近付けたななしは期待に輝く眼差しで山姥切国広に語りかけた。
「私を斬って化け物切の地位を確固たるものになさいませんか」
山姥切国広は思わず自身の耳を疑った。
目の前のななしは己を顕現させた、いわば主である。
その、これから主となるななしが今なんといったのか反芻する。
するのだが聞いた筈の言葉が山姥切国広の脳内で繰り返し再生されない。
確かにはっきりと聞いた筈なのだが、その言葉の再生を山姥切国広の脳は頑なに拒否していた。
目の前で動きを止め、うんともすんとも言わない山姥切国広にななしは頭を傾げる。
至近距離で言ったにも関わらず聞こえなかったのか、はたまた顕現時の所謂バグという奴か。
具合によっては政府に言って聴力を始めとする精密検査をしなくてはいけないなどと考えながらななしは再びその言葉を口にした。
「私を貴方のその、腰の刀で斬って欲しいのだけれど?」
今度こそ聞こえただろうかと山姥切国広の様子を伺うななし。
ななしの言葉が耳を通り、脳内で処理された瞬間、山姥切国広は握られた手を振り解き、頭を抱えて叫べる限界の出せる声量で叫んだ。
「今の声は山姥切国広の声!何事ですか!!」
勢いよく部屋に入って来たのは別室にて政府に定時報告を行なっていたこんのすけであった。
てっきり審神者が着任したばかりで手薄のこの本丸が襲撃されたのかとこんのすけは思った。
それ程に聴こえて来た山姥切国広の声は絶望を含んでいた。
部屋に突入したこんのすけが見たのは棒立ちとなるななしと、その足元で泣きながら蹲る山姥切国広の姿。
それ以外に変わった様子はなかった。
念の為に辺りを索敵してみるものの敵性反応どころか気配もなにもない。
では先程の叫び声は一体なんだったのかと、こんのすけは棒立ちながらもそれ以外は至って普通のななしへここまでの経緯を尋ねた。
「な、何て事を刀剣男士に頼んでいるんですか?!?!?!」
本丸就任初日、初期刀相手にとんでもないおねだりをしでかしたななしにこんのすけは声を荒げた。
「見てください!山姥切国広などショックを受けているではないですか!!」
「斬られて死にたい程に、写しの俺は、嫌なのか」
膝を抱えたまま体を横たえ、嗚咽混じりに言葉を溢した山姥切国広。
その彼が自身の顔を覆う様に深く被った白い布はくっきりと涙などの液体で隠した顔の輪郭を描いていた。
刀剣男士といえばいずれも美少年、美丈夫の付喪神であるが、この隠された布の下は見なくても大惨事となっている事がこんのすけには易く想像出来た。
こんのすけは山姥切国広に同情せざるを得ない。
彼は顕現したてだというのに主人から自害の手伝いを請われたのである。
「分かりますか。この山姥切国広の気持ちが!!」
山姥切国広への同情からきつい口調でこんのすけが問えばななしは頬に手を当てて首を傾ける。
「あら、聞いた話だと彼は化け物切の刀の写しで、彼自身に化け物切の逸話がないからちょうどいい話だと思ったのだけど」
「何もよくありません。何、顕現直後にトラウマを植え付けているのですか!そもそも貴女はこれから審神者としてこの山姥切国広と共時間遡行軍と戦っていくのでしょう?!何の為に審神者になったのです」
「何の為にって、審神者になれば沢山の化け物切の刀と出会えると聞いてなったのよ。私、不老不死だから不死を殺せる刀を探しているの」
にっこりと、両手を合わせて、なんなら辺りに花を咲かせて微笑んだななしにこんのすけは言葉を失った。
ぐずりながらも話を聞いていた山姥切国広も泣くのを止めて、信じられないものでも見たかの様な表情でななしを見上げる。
「そうだ、誰か知らないかしら?不死殺しが出来る刀剣男士を」
知っていれば紹介してほしいと、それは愛らしく、恥じらう乙女の如く、頬を赤らめさせて強請るななしにこんのすけは自身の意識が遠ざかるのを感じた。
遠くなる意識の中、山姥切国広が俺を置いていくなとこんのすけの身体を必死に揺さぶり、縋る声が聞こえたがどうにもならない。
沈み切る意識の水底でこんのすけは思った。
誰だこの地雷どころか核弾頭のような審神者をスカウトした奴は、と