刀剣乱舞
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「蜻蛉さまと村正さまは寒くないの?」
木々が鮮やかに色付く季節は終わり、本丸は本格的に冬を迎えようとしていた。
本丸の季節は好きな様に変更出来るのだが、この本丸の主である審神者の意向から季節は暦通りに進む為、庭木や畑はこれから降り積もるであろう雪に備えて着々と冬支度が進められている。
審神者も、男士達も来たる冬に備え、普段着に防寒具を足すなどして寒さ対策をしていた。
蜻蛉切と村正に問いかけた少女、審神者の娘であるななしも冬を迎えるにあたり、この間から蜂須賀虎徹手製の半纏を身に付けている。
対してななしに寒くないのかと尋ねられた蜻蛉切と村正はと言うと何時もの戦装束、両腕を晒していた。
幼いななしから見ても寒々しく感じる二人の姿。
しかし二人はななしの問いに否と答える。
「私共は日頃鍛えているのでこの程度の気温でしたら平気です」
「なんなら今すぐ脱いでも良いくらいデスよ」
「村正、頼むから御息女の前で脱いでくれるな」
隙あらば脱ごうとする村正に蜻蛉切はそうはさせまいと苦言を差した。
「寒くない?」
「ええ」
「大丈夫デス」
本当に、本当に寒くないのかと気にするななしに二人は笑みを浮かべ頷いた。
実際に二人は強がりでもなく寒いと感じていない。
二人は見て分かる程に筋肉が付いているし近頃は出陣も多い為、めいいっぱい身体を動かす機会が多く、何なら冬であっても暑く感じるぐらいなのである。
しかし当人ではないななしにはいくら二人が言っても暖かそうには思えない。
二人に遊んで貰う事が多いななしは心の中で彼等が風邪をひかないよう、暖かな格好をしてもらおうと決心した。
「二人に贈り物を?」
日中の業務が終わり、夕食を済ました審神者とななしは親子水入らずの時間を過ごしていた。
審神者は娘が一日何をしていたのか聞くのを日課にしているのだがその話の途中でななしは蜻蛉切と村正に贈り物をしたいと言ったのだ。
どうして急に、仲が良いとはいえその二人に贈り物なのか理由を聞いて納得する。
「大丈夫だって言ってもあの二人の格好は見てて寒いもんなー」
「そうなの!」
別に腕を晒しているのは二人だけでは無いのだが二人以外は大抵、この時期になるとそれぞれ本丸にいる間は何かを羽織ったり巻いたりしているのだ。
短刀も一年通して膝小僧を晒しているが彼等の場合、子供は風の子理論で片付く。
しかし明らかに子供の形をしていない二人の格好は審神者から見ても寒々しかった。
そんな二人へ上着を贈りたいという娘の成長ぶりに感動を覚える審神者。
さっそく通販で上着を注文しようとした審神者であるが、端末で通販ページを開いた所で動きを止めた。
「パパどうしたの?」
何時もならば日中に構ってあげられないからと、ななしにおねだりされれば何でも買ってしまう審神者。
しかしそれではななしの教育に良くないと蜂須賀虎徹や他の者達から苦言を受けていたし、確かにこのままでは良くないと審神者自身も思っていた。
そこで折角の機会だからと、審神者はななしに提案をする。
「折角ななしが二人に贈りたいと思ってるのに贈り物をパパが買っちゃうのはどうかと思うんだ」
「ダメ?」
「うーん駄目じゃないけどパパが買って贈るよりななしが買って贈る方が二人も喜ぶと思うよ」
二人が喜ぶと聞いて俄然やる気を見せるななし。
しかしななしはすぐに自分には二人の上着を贈るだけのお金がない事に気がつく。
「お金ない」
話を持ちかけられてすぐに自身の資金不足に気がつくななしの姿に日頃、ななしへお金の教育を施している博多藤四郎に審神者は感謝の念を送った。
「そこでパパに一つ提案があるんだけど」
「なあに」
「ななしがパパの言ったお仕事を幾つかする代わりに二人への贈り物を用意するのはどうだろう」
つまりはななしの労働の対価として二人への上着を購入するという。
「これだったらななしが買ったのと変わりはないから二人もより喜ぶと思うよ」
そう言われればななしの返事は一つである。
「私、お仕事する!」
そうしてななしは二人へと上着を贈る為にお仕事を始めた。
お仕事と言っても未就学児のななしに出来る事には限りがある。
その為、内容といえばお仕事と言うよりはお手伝いに近い。
食事前に全員の箸を並べたりお茶を配ったり、男士に混じって掃除に洗濯、畑に馬のお世話。
後は審神者の代わりに男士達へ書類を届けたり。
けれどこれまでななしがたまに手伝う事はあっても短刀達の遊びや古刀達のお茶のお誘いを断る事はなかった。
しかし今回は
「いま、お仕事中なの」
そう言ってななしがお誘いを断るものだから断られた者達も、その周りの見守っていた男士達も皆一様に何事かと頭を傾げる。
理由が気になってななし本人に尋ねるのだが「ナイショ」と答えるばかりで教えてはくれない。
となるとますます訳を知りたくなる。
そんな者達はあの手この手、尋ねる者を代えては聞き出そうとするのだがななしは幼いわりに大層、口が硬かった。
「蜻蛉切さま、村正さま」
「どうかされましたか」
皆で囲む夕食が済み、各々後片付けであったり自室に戻ろうとする中、やはり自室に戻ろうとしていた蜻蛉切達をななしは呼び止めた。
ななしが少しでも話しやすい様にと屈む二人。
「あのね、えっとね」
ななしは気恥ずかしそうにもじもじと身体を小刻みに動かす。
「明日から小雪だってお父さんがね」
この本丸は実際の暦に合わせて審神者が本丸の景色を変える。
小雪、つまり本丸は寒椿と雪の景色へと変わる。
「それでね。きっと明日からうんっと寒いからね」
これ、とななしはやけに大きな包みを二人に差し出した。
パステルカラーの包装紙に、やはりパステルカラーのリボンを巻いた、一見してプレゼントと分かる包みに蜻蛉切逹は驚きながらも笑顔で受け取る。
「これを私達に?ありがとうございます」
「大切にしますネ」
お礼を言われてななしは嬉しそうに、笑うと今すぐ開けて見て欲しいと強請った。
可愛いおねだりに二人も応え、その場で丁寧に包装を解き、そして固まった。
それまで三人のやりとりを微笑まし気に見守っていた者達は何事かと頭を傾げ、二人の手元、包装が解かれた中身を見てすかさず顔を背ける。
「可愛いでしょ!」
満足気なななし。
ななしが二人に送ったのは主に女性審神者の間で人気の部屋着メーカーが作るくま耳フード付きのもこもこパーカーであった。
色は二人をイメージしたのだろう。
白字にパステルピンクとパープルの可愛らしい縞模様である。
蜻蛉切は綺麗に畳まれたパーカーを持ち上げ、広げた。
実は中身が間違いだと言う事はないのかと淡い期待を抱く蜻蛉切であるが
「これね、もこもこであったかいの!」
間違いではないらしい。
この愛らしい防寒着を自分が身につけなければならない事に困惑する蜻蛉切。
既に複数名の男士が笑いに耐えきれず床に突っ伏し震えていた。
「どうでショウ。似合いますか?」
いつもは脱ぎたがる村正が今回は珍しく着込みポーズをとる。
それにやられてまた複数名が床へと倒れた。
「村正さま似合うー!」
ぱちぱちと拍手するななし。
そしてその視線が蜻蛉切へと向けられる。
「蜻蛉切さまもはやくはやく」
「何をしているのデス。はやく着るので
デス」
何時もならばすぐ脱ぐ村正に蜻蛉切が服を着る様迫るのに、今は逆転して迫られていた。
ななしが期待する手前嫌とも言えず蜻蛉切は従った。
「蜻蛉切さまも可愛いねー」
「ありがとうございます」
ななしの賞賛の言葉に蜻蛉切は小さな声で答えた。
「おー二人共似合うじゃないか」
これまで男士達に混じって遠巻きに様子を伺っていた審神者は二人に近付くとその肩をバシバシ叩いた。
「通販サイトでお前達にも合うサイズがあるのを知った時は我が目を疑ったが、」
そこで言葉を切った審神者は蜻蛉切をまじまじと見つめた。
その視線に耐えきれず蜻蛉切はくま耳の付いたフードを深く被り込む。
「うん、悪くないな!」
「これは主人のチョイスですか?」
「いんや、選んだのは娘だ。お前達にそのパーカーをプレゼントするために頑張ってお手伝いしたんだよなー?」
「お手伝い頑張ったの」
えっへん!と腰に手を当て得意気に胸を張ったななし。
そこで漸く男士達はななしが急にお手伝いに目覚めた訳を知った。
「蜻蛉切さま、村正さま、何時もありがとう。これからもよろしくね」
「御息女殿」
「もちろんです」
感極まってななしを抱きしめる蜻蛉切。
そんな蜻蛉切とななしをまとめて腕で包み込む村正。
ななしの思いに感動して床に倒れていた者達も起き上がり、ぱらぱらと拍手が上がる。
そしてこのまま感動のフィナーレを迎え、話はそこで終わる筈であった。
のだがその後パーカーがななしもお揃いだと分かり同じ者が欲しいと言う者、プレゼントされたい者が急増した。
そも、今回は二人が見るからに寒そうな格好をしていたからというのが事の発端と知ると、本丸は空前の薄着ブームとなる。
その結果、風邪をひく者が急増したため、審神者は呆れて皆のご希望通りに本丸全員分のもこもこくまさんパーカーを用意した。
「皆の者、喜べー。お望みのもこもこくまさんパーカーだ」
備品同様、雑に配られたパーカーを前にそうじゃない!と男士達が悔しがる姿が本丸各所で目撃された。