不老不死な審神者
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目の前に広がる悲惨な光景にこんのすけは疲れ切っていた。
布に包まり転がって滂沱する山姥切国広に床に膝を付いて泣きじゃくる五虎退。
五虎退の虎達は彼を泣かしたであろうななしを敵と認定したのか、ななしへと向かって唸り声を上げている。
ななしが自身を不老不死と言った為、それが真か政府に確認するのにこんのすけが席を外したほんの僅かな時間。
そんな短い時間、目を離した隙にこんな事になっていた。
しかしこうなった元凶であるななしは目の前の光景に何とも思わないのか袂から煙草を取り出し、呑気に吹かしている。
「付喪神とはいえ、幼い姿の短刀もいるのですから喫煙はお控え下さい」
「あら」
こんのすけが苦言を呈せばななしはおざなりな返事を返しながらも素直に携帯灰皿を取り出して煙草の火を消した。
ななし自身、見た目は15、6歳の少女の形をしているというのに煙草を咥えるその姿は様になっていた。
その見た目から乖離した様は彼女がこの世を永く生きる不老不死なる者であるという事へ妙に説得力を与えている。
こんのすけが政府に確かめたところななしが不老不死であるというのは自称等ではなく事実だと言う。
実年齢は現在、顕現可能な刀剣男士達よりも遥かに年上。
そして驚く事に彼女に審神者になる様進めたのは刀剣男士の内の誰か、その本霊だという。
政府としては付喪神とはいえ、神である男士の推薦ならばと、最早人間とは言い難い彼女が審神者になる事を認めたらしい。
勿論、ななしの望みを知った上で
その結果が目の前の惨状である。
「って、何をしているのです」
端末を操作して資材の数に触れたななしにこんのすけは声を荒げた。
「鍛刀を少々」
こんのすけに問われたななしはなんでもない様に鍛刀をするのだと答える。
「鍛刀の前にする事があるでしょう!」
こんのすけの口調は荒っぽくなってしまったが仕方がない。
未だ泣き続ける彼等を泣き止ませるとか、とこんのすけはななしに訴えるが彼女はどこ吹く風でこんのすけに構わず妖精へと資材を渡した。
それも先程の鍛刀とは比にならない程の資材の量である。
「だけど坊やから審神者に就任したらすぐにでも呼ぶ様にと言われているの」
「坊やって誰ですか」
外見年齢からそう呼ばれても何らおかしくない男士は数多くいる。
興味本意に思わず、尋ねたこんのすけであるがななしから答えは返って来なかった。
鍛刀の終了する時刻が表示され、それにななしもこんのすけも気を取られたからである。
「4時間!!!!」
そのあまりにも長い時間にこんのすけは大きな声を上げた。
対してななしはその時間の長さが持つ意味を理解していないのか、変わらぬ様子で五虎退を鍛刀した時と同様に妖精へと手伝い札を預けた。
札を預けた途端にどういう理屈か、妖精パワーとでもいうのか刀どころか拵までも整えられた刀剣がななしの前へと差し出される。
「そ、それは」
黄金色の拵、鞘に刻まれた月の満ち欠けを表す紋様。
目の前の刀が何であるか瞬時に理解したこんのすけが声を震わす。
その聞いて分かる程に動揺したこんのすけに何事かと山姥切国広も五虎退も泣くのを止めて顔を上げた。
ななしが刀に触れた瞬間、辺りは眩い程に光る。
「三日月宗近。打ち除けが多い故、三日月と呼ばれる。よろしくたのむ」
顕現した三日月宗近は桜吹雪が舞う中できまりの口上を述べた後、笑みを浮かべた。
「いやはや、いつになったらそなたに呼ばれるか待ちくたびれたぞ」
「文句は政府のお役人に言って下さいな」
天下五剣が内の一振り、三日月宗近を前に気安い言葉で返すななし。
「貴方に勧められて審神者に立候補をしたのは良いけどそれから暫く隔離されて調査だ検査だ審査だの流石の私でも気が遠くなる程調べられたのよ」
その時の事を思い出したのかななしは深々と溜息を零した。
「それは難儀であったな」
そう言いつつも三日月宗近は当時を思い出し、草臥れた様相になるななしを見て愉快だと言わんばかりに笑っていた。
「それで、俺はそなたが審神者に就任した際、真っ先に俺を一番に呼ぶ様に言った筈だが」
先程まで笑っていた三日月宗近は山姥切国広と五虎退を視界に入れるや否や瞳を細めた。
三日月宗近の纏う気配の鋭どさと言えば氷の様に冷たく、それでいて触れれば切れてしまうかの錯覚を起こす程に鋭利である。
最早殺気と言っても過言でないその気配にこんのすけや虎達は毛を逆立て、山姥切国広と五虎退は石のように身を固くした。
「彼等は私の初期刀と初鍛刀で迎えた刀です。三日月の先輩になるのだからちゃんと敬いなさい」
この場で唯一、三日月宗近の剣呑な気配に動じていないななしはそう言って三日月宗近の脇腹を小突いた。
「痛いぞ」
ななしにそれなりの勢いがあった事から痛かったらしい。
よろめき、何とか持ち堪えた三日月宗近は脇腹を押さえながらななしを恨めし気に見つめた。
「三日月が変に拗ねるからでしょ?」
「元はと言えばそなたが俺との約束を破ったのではないか」
「新任の審神者はまず初期刀選びと短刀を迎える事が定められているの。文句は初心者に不向きな自分自身に言いなさい」
容赦のない言葉に三日月宗近は数拍おいてから笑い出した。
続いてななしも笑い出すので二人と一匹は呆然と眺めていた。
「やはりそなたと話すのは実に愉快だ。数いる分霊達を押し退けて来た甲斐があったぞ」
「ご苦労な事で。ところでちゃんと先輩達にご挨拶しなさい」
ほら、とななしは三日月宗近の背中を叩いた。
それはまるで挨拶をするよう子供に促す母親のようである。
対して三日月宗近も先程までは剣呑な気配を纏っていたというのに今は子供の様にななしの言う事を素直に従うものだから山姥切国広達はもう何が何だか分からない。
「あ、あの、あるじさまと三日月さまはどの様なご関係なんですか?」
意外にも二人の関係に切り込んだのは山姥切国広でもこんのすけでもなく五虎退であった。
五虎退の問いに三日月宗近は笑顔で、ななしはうんざりとした顔で同時に答える。
「一番の友、所謂親友というやつだな」
「腐れ縁という奴ね。お互いなまじ長生きなだけにずるずると今に至るという訳」
「そなたは相変わらずつれないな」
三日月宗近はななしの返答に不満なのか彼女の頬を指先で突つく。
「事実を述べただけです」
「むぅ」
己の指を払い淡々としたななしの物言いに頬を幼児の様に膨らませる三日月宗近。
そんな三日月宗近の前にななしは手を掲げて言った。
「このように威圧的なのは外見だけなので怖がらず互いに仲良くして下さいね」