三日月本丸
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離れの外は酷く荒れていた。
辺りは硝煙の匂いが立ち込め、投石により投げ込まれた石が幾つも地面にめり込み、矢は地面や庭木、母家の柱や壁に突き刺さっていた。
戦場と何ら変わりない惨状に玉は見るからに困惑し、視線を彷徨わせながら三日月宗近の狩衣の裾を強く握った。
戦場を知らない箱入りの三日月宗近にも状況が芳しくない事が分かる目の前の有様。
やはり己が主を離れに隠し、自分だけ探索に出た方が良いのではと三日月宗近は玉に問うが、玉は頑なに頷こうとしない。
「玉も行く」
それだけは決して譲らぬという気の籠った返答。
玉自身は気づいていないが、彼女の持つ膨大な霊力は彼女の言葉に乗り、三日月宗近への強制力となっていた。
玉の気持ちが揺り動かない限り三日月宗近も玉の言動には逆らえない。
「ならば主よ、けっして俺の側を離れるな」
三日月宗近の言葉に頷きで返す玉。
玉は三日月宗近と離れぬ様先程よりも掴む力を込めて裾を握った。
二人の歩みは遅い。
辺りを警戒しているのもあるが幼い玉の歩幅に三日月宗近が合わせると歩みはどうしても牛歩並みとなってしまう。
それでも一歩、また一歩と二人は母家に向けて歩いた。
進むにつれて地面にキラキラと光る物が落ちている。
三日月宗近はそれが何なのか一目見て分かった。
「それに触れるなよ主。それは刀の破片、触れれば手に傷を負うかもしれん」
しかし玉は三日月宗近の忠告も聞かず、足元に落ちていた破片を拾い上げた。
怪我する前に取り上げ様とした三日月宗近であるが、玉の破片に触れる手付きは流石、審神者の子供と言うべきか、三日月宗近が危惧する様な事は無かった。
暫く破片を見つめていた玉は深々と息を吐き出し、破片を地面へと戻した。
「違う」
そう零した玉。
刀の破片は玉が知るどの刀剣達とも違った。 けれどその言葉は安堵ではなく悲しみに満ちていた。
玉は本丸を襲撃した敵であれ、刀が折れた事に悲しみを抱いていた。
「主、やはり離れに戻ろう」
きっと母家に踏み入ればこれ以上の惨事が広がり、敵も味方も沢山折れている筈である。
その光景を見ればこの幼く、心優しい主が深く傷つくのが三日月宗近には分かる。
けれど玉は頑なに頷かない。
自身に言い聞かせる様に何度も「大丈夫、大丈夫」と口にする玉。
「私は大丈夫だから、お願い」
瞳に涙が浮かぶ程に辛いというのに無理に気丈に振る舞い懇願する玉に三日月宗近も逆らう事は出来なかった。
進めば進む程に折れた刀は増えてくる。
必死に抵抗したのだろう。
母家の周辺は大太刀や槍、太刀に薙刀が多く散っていた。
敵も味方もただの物言わぬ鋼のかけらと化しており、玉は数歩進む度に足を止めては一点、一点を見つめていた。それでも進む事は止めない。
危ないからと土足のまま母家に上がる三日月宗近と玉。
母家の中はより酷い物となっていた。
襖や障子戸は蹴破り蹴破られ、壁や家具、畳にはいくつもの刀傷が走っている。
少し前まで人が住んでいたとは思えない有様。
玉の父親はどこか、誰か生き残った男士はいないのか、三日月宗近と玉は一部屋ずつ覗き込み探した。
しかし此処は大人数の男士が生活していた本丸である。
部屋数も多く一つ一つ虱潰しに探すのはかなり骨の折れる作業であった。
三日月宗近は幼い自身の主は大丈夫かと、ちらちらと何度も様子を伺っていた。
精神は勿論体力も、これまで何も飲まず食わずで歩き続ける玉が心配で仕方がない。
せめて一度、休憩を挟むべきかと考えていた時である。
突如として玉が走り出した。
幼い子供にしては立派な走りに気を取られて三日月宗近は出遅れた。
慌てて我に返ると後を追いかけてとある部屋へと入る。
そこは大きな広間であった。
それこそ本丸にいる男士全てが入ってもまだ余裕がありそうな広間であった。
顕現したばかりの三日月宗近は知らなかったがその広間は昨晩、玉の誕生日会を開いた場所であった。
そこがこの本丸の審神者が籠城していた場所であったのだろう。
広間のある一点を囲む様に多くの刀が折れていた。
玉が声を上げる泣いている。
広間の上座、その奥で何かにしがみつきわんわんと泣いている。
「お父さん!お父さん!」
玉がしがみついていたのは腹に風穴を開けた男の死体であった。
側には最後まで主君を守ろうと奮闘したのであろう折れた短刀がある。
やはり、と三日月宗近は思った。
離れを出た時から三日月宗近は不思議に思っていた。
妙に静かなのだ。
敵も、味方の気配を感じない。
息遣いを感じられない静寂に満ちた母家。
そんな気はしていた。
けれど玉の手前、その様な憶測を口にする事は出来なかった。
「っう、」
三日月宗近は目眩を感じて膝を付いた。
力が入らない。
というよりは力が抜けていく感覚。
一体、自分の身に何が起こったのか。
玉を見れば玉が自身の霊力を父親の骸に流していた。
刀剣男士の怪我を修復する際、審神者の霊力を流す事で修復を促す。
それを玉は無意識に父親の骸に行っていた。
しかし父親は人間で、既に事切れている。
いくら霊力を流したところで父親の傷は癒えないし生き返りもしない。
それでも玉は霊力を注ぎ続けている。
三日月宗近を顕現する分の霊力までもそちらに回して
「駄目だ主、それ以上は」
報告書
本丸 第〇〇〇〇〇〇号
遡行軍の襲撃により壊滅
審神者:死亡
刀剣男士:登録された全刀剣男子の破壊を確認
生存者を1名発見するも発見時、既に昏睡状態に有り。
意識が戻り次第、聴き取りを行う。
辺りは硝煙の匂いが立ち込め、投石により投げ込まれた石が幾つも地面にめり込み、矢は地面や庭木、母家の柱や壁に突き刺さっていた。
戦場と何ら変わりない惨状に玉は見るからに困惑し、視線を彷徨わせながら三日月宗近の狩衣の裾を強く握った。
戦場を知らない箱入りの三日月宗近にも状況が芳しくない事が分かる目の前の有様。
やはり己が主を離れに隠し、自分だけ探索に出た方が良いのではと三日月宗近は玉に問うが、玉は頑なに頷こうとしない。
「玉も行く」
それだけは決して譲らぬという気の籠った返答。
玉自身は気づいていないが、彼女の持つ膨大な霊力は彼女の言葉に乗り、三日月宗近への強制力となっていた。
玉の気持ちが揺り動かない限り三日月宗近も玉の言動には逆らえない。
「ならば主よ、けっして俺の側を離れるな」
三日月宗近の言葉に頷きで返す玉。
玉は三日月宗近と離れぬ様先程よりも掴む力を込めて裾を握った。
二人の歩みは遅い。
辺りを警戒しているのもあるが幼い玉の歩幅に三日月宗近が合わせると歩みはどうしても牛歩並みとなってしまう。
それでも一歩、また一歩と二人は母家に向けて歩いた。
進むにつれて地面にキラキラと光る物が落ちている。
三日月宗近はそれが何なのか一目見て分かった。
「それに触れるなよ主。それは刀の破片、触れれば手に傷を負うかもしれん」
しかし玉は三日月宗近の忠告も聞かず、足元に落ちていた破片を拾い上げた。
怪我する前に取り上げ様とした三日月宗近であるが、玉の破片に触れる手付きは流石、審神者の子供と言うべきか、三日月宗近が危惧する様な事は無かった。
暫く破片を見つめていた玉は深々と息を吐き出し、破片を地面へと戻した。
「違う」
そう零した玉。
刀の破片は玉が知るどの刀剣達とも違った。 けれどその言葉は安堵ではなく悲しみに満ちていた。
玉は本丸を襲撃した敵であれ、刀が折れた事に悲しみを抱いていた。
「主、やはり離れに戻ろう」
きっと母家に踏み入ればこれ以上の惨事が広がり、敵も味方も沢山折れている筈である。
その光景を見ればこの幼く、心優しい主が深く傷つくのが三日月宗近には分かる。
けれど玉は頑なに頷かない。
自身に言い聞かせる様に何度も「大丈夫、大丈夫」と口にする玉。
「私は大丈夫だから、お願い」
瞳に涙が浮かぶ程に辛いというのに無理に気丈に振る舞い懇願する玉に三日月宗近も逆らう事は出来なかった。
進めば進む程に折れた刀は増えてくる。
必死に抵抗したのだろう。
母家の周辺は大太刀や槍、太刀に薙刀が多く散っていた。
敵も味方もただの物言わぬ鋼のかけらと化しており、玉は数歩進む度に足を止めては一点、一点を見つめていた。それでも進む事は止めない。
危ないからと土足のまま母家に上がる三日月宗近と玉。
母家の中はより酷い物となっていた。
襖や障子戸は蹴破り蹴破られ、壁や家具、畳にはいくつもの刀傷が走っている。
少し前まで人が住んでいたとは思えない有様。
玉の父親はどこか、誰か生き残った男士はいないのか、三日月宗近と玉は一部屋ずつ覗き込み探した。
しかし此処は大人数の男士が生活していた本丸である。
部屋数も多く一つ一つ虱潰しに探すのはかなり骨の折れる作業であった。
三日月宗近は幼い自身の主は大丈夫かと、ちらちらと何度も様子を伺っていた。
精神は勿論体力も、これまで何も飲まず食わずで歩き続ける玉が心配で仕方がない。
せめて一度、休憩を挟むべきかと考えていた時である。
突如として玉が走り出した。
幼い子供にしては立派な走りに気を取られて三日月宗近は出遅れた。
慌てて我に返ると後を追いかけてとある部屋へと入る。
そこは大きな広間であった。
それこそ本丸にいる男士全てが入ってもまだ余裕がありそうな広間であった。
顕現したばかりの三日月宗近は知らなかったがその広間は昨晩、玉の誕生日会を開いた場所であった。
そこがこの本丸の審神者が籠城していた場所であったのだろう。
広間のある一点を囲む様に多くの刀が折れていた。
玉が声を上げる泣いている。
広間の上座、その奥で何かにしがみつきわんわんと泣いている。
「お父さん!お父さん!」
玉がしがみついていたのは腹に風穴を開けた男の死体であった。
側には最後まで主君を守ろうと奮闘したのであろう折れた短刀がある。
やはり、と三日月宗近は思った。
離れを出た時から三日月宗近は不思議に思っていた。
妙に静かなのだ。
敵も、味方の気配を感じない。
息遣いを感じられない静寂に満ちた母家。
そんな気はしていた。
けれど玉の手前、その様な憶測を口にする事は出来なかった。
「っう、」
三日月宗近は目眩を感じて膝を付いた。
力が入らない。
というよりは力が抜けていく感覚。
一体、自分の身に何が起こったのか。
玉を見れば玉が自身の霊力を父親の骸に流していた。
刀剣男士の怪我を修復する際、審神者の霊力を流す事で修復を促す。
それを玉は無意識に父親の骸に行っていた。
しかし父親は人間で、既に事切れている。
いくら霊力を流したところで父親の傷は癒えないし生き返りもしない。
それでも玉は霊力を注ぎ続けている。
三日月宗近を顕現する分の霊力までもそちらに回して
「駄目だ主、それ以上は」
報告書
本丸 第〇〇〇〇〇〇号
遡行軍の襲撃により壊滅
審神者:死亡
刀剣男士:登録された全刀剣男子の破壊を確認
生存者を1名発見するも発見時、既に昏睡状態に有り。
意識が戻り次第、聴き取りを行う。