赤ちゃん本丸
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出陣前に単騎で桜付けに出ていた堀川国広が戦場から女と赤ん坊を連れて来たものだからベテランの審神者である山桜の本丸は右も左も大騒ぎである。
しかもその女が審神者で、腕に抱いた赤ん坊は刀剣男士が内の一人である山姥切国広であるというのだからより混乱を極めた。
加えて山桜は男で未婚、これまで女性と縁のない本丸は突然やってきた女性にどう対応すれば良いのか皆が混乱していた。
山桜の担当である役人も女性であるのだが彼等曰く彼女は女性と分類しないとの事、とにかく本丸はお祭り騒ぎであった。
「すいーつはようふうとわふう、どちらが好みだろうか?」
「お、お構いなく」
「女性に冷えは禁物だよ」
「ありがとうございます」
「主、赤ちゃん用に布団を持って来たよ」
「すみません」
次から次へとやってくる刀剣男士にななしは恐縮しっぱなしであった。
「ねえねえ」
「はい」
「お姉さんって人妻?」
いつのまにかななしの横にいた包丁藤四郎は何ともな質問をしてきた。
「え、えーと未婚です」
「なーんだ」
ななしの返答に至極残念そうな包丁。
そんな包丁藤四郎を押し退けて毛利藤四郎がななしの前に出る。
やはりいつのまにか気配もなく現れた毛利藤四郎にななしは驚いていた。
しかしそんなななしに構わず鼻息を荒くさせた毛利藤四郎は手を伸ばした。
「そちらの赤ん坊を抱かせていただいてもよろしいでしょうか!」
これまでこの本丸ではご縁のなかった赤ん坊の登場に毛利藤四郎は浮かれていた。
困惑を極め、固まったななしに毛利藤四郎はにじりよる。
「一期!!!!」
その始終を見ていた山桜は大きな声で彼等の兄である一期一振を呼んだ。
「お呼びでしょうか、主」
「げぇ、一兄」
すぐさま現れた一期一振に包丁藤四郎は慌てて退散しようとしたがそこは短刀と太刀のリーチ差によりすぐさま御用となる。
毛利藤四郎も包丁藤四郎と同じく首根っこを掴まれたが彼の頭はななしの腕に抱かれた赤ん坊に夢中である。
「待って下さい!一兄、僕はまだ赤ん坊を抱いてません!!」
弟の抵抗も何のその、巷ではロイヤル顔と呼ばれる爽やかな貴公子面で「うちの弟達が失礼しました」とななしに謝罪するとそのまま暴れる二振を連れて退出した。
「鶯丸」
「どうした主」
「しばらく彼女と話がしたいから他の奴らには此処に来ないよう言って来てくれ」
「分かった」
静かに山桜の側にいた鶯丸はそう言われて立ち上がるとこの場から退席した。
そのおかげかこれまで部屋の外から感じられた気配がなくなる。
「うちの者達が失礼した」
頭を押さえて溜息をついた山桜にななしは首を横へと振るい応対する。
「そんな、見ず知らずの私達にこんなにも良くしていただいてありがたい限りです」
「そうか、ありがとう。それでは早速、本題なのだが何故君が赤ん坊を連れて戦場にいたのか。その訳を聞かせてもらえるか?」
ななしは山桜にこれまでのあらましを伝えた。
顕現させた刀剣男士が赤ん坊として顕現された辺りは山桜も同席していた堀川国広も不思議な顔をしていたが証拠として彼女の腕に赤ん坊となった山姥切国広がいたので意外にも話は進んだ。
その後、赤ん坊ばかりの本丸に出陣を促したななしの担当役人に山桜は頭を押さえた。
「赤ん坊とはいえ彼等は刀剣男士、戦場に送っても大丈夫なのでしょうか?」
担当に出陣を促された時はつい彼等の見た目に引きずられて感情的になり無理だと断じてしまった。
しかし目の前に先輩であたる山桜がいたのでななしは尋ねた。
「初めて聞く事例だが、多分無理だろうな」
「こんな小さな手じゃ刀は握れないですしね」
堀川国広は兄弟の柔らかく小さな手を握って苦笑いを浮かべた。
彼等の返答を聞いて、自分の判断は間違いではなかったのだとななしは内心安堵する。
「しかし、幾ら担当に訴える為とはいえ君が直接戦場に言ったのはいかんな」
「はい、危うくまんばちゃんを危険な目に合わす所でした」
「それもだが君が迂闊な行動をする事で君の本丸に残った他の赤ん坊も危険だった」
山桜に言われてななしははっとした。
残りの四振はこんのすけに預けて来たがこんのすけにも限界がある。
それこそななしがあのまま堀川国広に助けられず戦場で死んでいれば彼等はななしを待ち続け、
「私が軽率でした」
頭をよぎった嫌な想像にななしは俯いた。
ななしの瞳からポロポロと涙が溢れる。
殺されるかと思った恐怖や助かった安堵、己の浅はかさから情けなく思ったりと様々な感情によりななしは涙をこぼした。
「あーあー、女の子を泣かせましたね」
「俺は決して君を責めたい訳では!」
親子程歳の離れた女性の涙に山桜は狼狽えた。
しかしこれまで女性と付き合った経験に乏しい山桜にはどう慰めたら良いのか分からない。
「女性を泣かせるとは俺達の主は酷い奴だな」
部屋に入って来たのはお茶と菓子を持ってきた鶯丸であった。
「鶯丸」
もうどうしたら良いのか分からない山桜の情けない顔に鶯丸は笑った。
「すみません。すぐに泣き止みますから」
「泣き止む必要はない。君が泣いていてくれると主の情けない顔が長く見れる」
「鶯丸!!」
山桜は思わず叫んだ。
そんな情けない主に鶯丸は愉快そうに笑う。
「ふ、ふふっ」
二人のやりとりにななしは涙を零しながら笑った。
「ごめんなさい。何だかお二人のやりとりが面白くて」
謝りながらもななしの笑いは治らない。
理由はともあれ泣き止んだななしに胸を撫で下ろした山桜は理由はどうあれ鶯丸に感謝の言葉を伝えた。
「うん?なんだ」
「お前はこうなる事を予見してあんな事言ったんだろ?」
「いや、俺は率直に希望を述べただけだ」
「鶯丸!!!!」
ななしも落ち着き、四人は鶯丸の持ってきたお茶とお菓子で休憩を取る事にした。
お菓子の好みを聞いて来た小豆長光は結局、和洋どちらのお菓子も出す事にしたらしくお皿には大福とマドレーヌが乗っていた。
大福を口にしたななしは瞳を輝かせる。
「美味しい!」
「それは良かった。小豆に会ったら直接伝えてくれ。喜ぶだろうから」
そうして和やかに休憩の時間は過ぎていたが唐突に山姥切国広が泣き出した。
それに驚くのは赤ん坊の泣き声に慣れていない山桜と二振で、ななしは慣れた様子でお腹が空いたのだろうと自身の鞄を漁った。
部屋の外では「小さい子が!僕を呼んでいるんです!!」と毛利藤四郎の心からの叫びが聞こえたが皆は無視した。
ななしはミルクの入った哺乳瓶を取り出すと蓋を外して飲み口を山姥切国広の元へと持って行く。
すると勢いよくミルクを飲み出す山姥切国広に堀川国広は興味深げにその様を眺める。
「よくお腹が空いてるなんて分かりましたね」
「もう慣れですね。これまで11人の弟と妹を育ててきたので」
ななしの返答に鶯丸と堀川国広は成る程と納得していたが山桜だけは顔を引き攣らせていた。
「11人、つまり君を入れて12人の兄弟か」「それがどうした」
普通だろうという二振に山桜は一人首を振るう。
「お前達の時代は当たり前だったかもしれないがこの国は21世紀から少子化だ。今や大家族など絶滅危惧種扱いだぞ」
それ故に苦労しただろうと労りの言葉をかける山桜にななしはハニカム様に笑う。
「初めは大変でしたが慣れればそれ程。それにその経験のおかげでこうして何とかまんばちゃん達のお世話も出来るので」
ななしの返答に今度は山桜が健気だと泣いた。
自分の父親程の年の男が泣く様にななしは戸惑う。
「気にしないで下さい。主さんってこう見えて涙脆いんです」
「何時もの事だ」
堀川国広と鶯丸に言われてそうなのかとななしは納得した。
ミルクを飲ませ、吐き戻し防止の為、ぽんぽんと山姥切国広にゲップを促したななしはふと、歯が生えている事に気が付いた。
「さっきまで歯なんて生えていなかったのに」
「成長しているという事か?」
「恐らく」
「一体、原因は何か、成長するにはどうすれば良いのか調査しないと何ともならないな」
山桜の言葉にななしは顔を俯かせた。
「ですが、私の担当はその気がないようで」
その上、ライフラインを人質に出陣するよう脅されたのだ。
「君の担当が駄目ならうちの担当から上に掛け合おう」
山桜の言葉にななしは顔を上げた。
「後、幾ら本丸とはいえ君を守る刀もいないのは不用心だ。政府と話がつくまで君の刀共々ここに滞在すると良い」
「そこまでしていただく訳には」
山桜からの思わぬ提案にななしは身を乗り出し固辞しようとしたがそれを堀川国広が押し留めた。
「主さんの言葉に甘えた方が良いよ。兄弟も賛成みたいだし」
堀川国広が指差しと山姥切国広はそうだと言わんばかりの表情で頷いていた。
「君がここに滞在してくれた方が嬉しい奴らもいるしな」
そこで再び毛利藤四郎が小さい子を求める叫びとそれを嗜める一期一振の声が聞こえてななしは笑った。
「暫くよろしくお願いします」
きっちりとした姿勢で頭を下げたななしに山桜は慌てた。
「気にしないでくれ。これも同じ審神者のよしみだ」
折角だから今日は宴会など開こうかと鶯丸に言いかけた山桜に申し訳なさそうにななしは声をかけた。
「それで、あの大変申し訳ないのですが」
「いやーまさか赤ん坊が山姥切国広だけでなく後四振もいたとはな」
てっきり初鍛刀の刀が一振り残っているのだと思っていた。
女性と赤ん坊がいた為煙草を我慢していた山桜。
着物の袂から煙草を取り出すとライターで火をつけて蒸す。
暫く山桜の本丸に滞在する事となったななし。
申し訳なさそうに声を掛けてきたので何事かと思ったらまだ自本丸に赤ん坊の刀が四振もいるという。
幾らこんのすけが面倒を見ているとはいえ、あまり長く赤ん坊を置いておくのはいけないと戦場に行くはずだった堀川国広とその部隊の仲間達を護衛にななしの本丸へと送り出した。
「これからあの娘をどうするんだ」
「そりゃあ原因が分かる迄は預かるしかないだろ」
「しかし何時迄もそうしておく訳にもいくまい」
「分かってる。さっきも言ったがこっちの担当を通して上に通しておくさ」
山桜はななしと堀川国広達を見送った後、担当に連絡しておいた。
軽く説明しただけだが既に担当はこの件に関してご立腹であった。
と同時にこの件で無能な同僚を追い出させそうだと悪魔の様な笑いを浮かべていた担当を思い出し身震いした。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない」
頭に残る悪魔の高笑いを追い出した山桜。
ふと部屋の外が騒がしいのに気がつく。
「あいつら何を騒いでるんだ」
「彼女がこの本丸に暫く滞在すると聞いて掃除をしているそうだ」
「掃除」
刀剣男士も何だかんだ年頃の男と変わらないのだなと、山桜はしみじみ頬杖をついてこぼす。
鶯丸はお茶を啜った。
山桜も飲もうと湯呑みに手を伸ばすが空、急須も空である。
「ここに女人が滞在するのは初めてだからな。見栄なり、それこそ何かしら隠したい物があるのだろう」
恨めしそうに自身を見る山桜に鶯丸は微笑み掛けた
「ところで主は良いのか?」
「俺は特に部屋は汚れて「ベッドの右下」」
鶯丸の言葉に山桜は固まる。
「主の私室だ。置いてある物に文句は言わないがああいうものは何処か本人しか分からない所へしまっておいてくれ。平野が困っていたぞ」
「片付けてきます」
鶯丸に秘蔵の書物の場所が知られてショックであったがそれを平野に見られたという事のほが衝撃は凄まじかった。
これは後ほど、平野の保護者である一期一振からお覚悟されるなと自身の私室に向かいながら山桜は項垂れる。
「それと主」
「なんだ」
「娘と赤児が滞在する間は強制的に禁煙だぞ」
そう言われて山桜は力無く「分かってる」と答えた。
ヘビースモーカーにも関わらずあっさりと応えた山桜の背中を眺めながら鶯丸は笑みを零す。
「このお人好しめ」