赤ちゃん本丸
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「いや、無理でしょ」政府から帰ってきたこんのすけの話を聞いてななしは言った。
「顕現させた刀が五振とも赤ちゃんなのに戦場に行けとか無茶苦茶だよ」少し前迄、空腹に泣き喚いていた赤ん坊達は満腹となってぐっすりと眠っていた。「まだ歯も生え揃ってない乳幼児何だよ?」眠りが深いのかななしが声を荒げても起きる様子はない。「私もそう訴えたのですが聞き入れてもらえず」耳が垂れ、項垂れた様子のこんのすけにななしは言葉を詰まらせた。「せめてこの子達がもう少し大きくなる方法はないの?」元の姿とは言わずとも、せめて歩いて話せる様にならないのだろうか。子供が戦場に出るなど恐ろしい事であるが、短刀も幼い子供の姿をしている。せめてあれぐらいの成長が欲しいとななしは思った。「分からないの一点張りです」申し訳なさげに首を振るうこんのすけ。ななしは何てこったいと頭を押さえて畳の上に倒れ込んだ。「分からないって、調査してもないんだからそりゃあ分からないでしょうよ」そもそも調査する気があったらこんのすけが政府の者を連れて来た筈である。しかしこんのすけは一匹で帰って来た。ならば、後日調査員でも来るのか、という事もない。つまりそういう事である。「担当の役人は忙しいと言うばかりで話もしっかりと聞いて来れたというと怪しいもので」ななしのお腹の上で不機嫌な声が聞こえた。食事後もすっかりと寝入ってしまった山姥切国広は相変わらずななしから離れない。そのななしが体勢を変えた事で体勢なり収まりが悪いのだろう、寝ながら文句を訴える山姥切国広の小さな背中を優しく撫でた。「流石にこんな小さな赤ん坊を戦場になんて無理だよ」彼等は刀は持てないし、戦装束を着込めば重くてその場から動けず、二足歩行どころかハイハイすらまだの赤ん坊である。そんな彼等を戦場に行かせようものなら無為に敵から嬲られるだけである。「こんのすけもそう思います」こんのすけはうんうんと頷いた。「どうにか戦場へ行くのは先延ばしにならないかな?」行くにしても彼等を元の大きさ迄成長させて欲しい。「もう一度、担当の者と相談してみます」こんのすけも流石に赤ん坊では無理だろうと理解しているからかそう言ってななしの目の前から消えた。「担当、担当か」ななしは目を閉じて審神者になる前の事を思い出した。担当、ななしを審神者にスカウトした役人は酷く悪い顔色をしていた。あまり外に出ていないのか顔色は青白く、頬はこけ、目の下にはくっきりと隈が浮かんでおり、その酷い顔付きにななしは内心驚いた程である。スーツは酷く草臥れて、何日かお風呂に入れていないのか頭には不毛が付き、何とも言えない匂いがしてお年頃の妹達は皆、一様に顔を顰めていた。足取りも時折ふらつくと言うのに何故か語気だけは強く、まだ未成年の兄妹を残して審神者になる事に渋るななしに担当は暴言混じりに審神者になるよう勧めて来た。最後には審神者にならなければ兄妹諸共どうなるか、と脅し紛いの事も言われもした。担当が席を外した際に同席していた長男、次女は何処に埋めようかと物騒な事を言うのでななしは慌てた。席を離れた担当はなかなか戻ってこず、トイレに行くついでに担当の様子を見に行ったななしは家の庭で、電話の相手は彼の上司であろうか。その相手に電話だと言うのにぺこぺこと頭を下げる担当にななしは驚いた。先程までなかなか頷いななし相手に権力を振り翳し言いたい放題であったのに、彼も結局、上司に振り回されていた。兄妹の世話ばかりで余り長い事働いた事のないななしはその光景に驚き、うっかりと兄妹達に話してしまった。すると弟の一人がきっとお役人さんは社畜なのだと、勤め先はきっとブラック企業なのだろうと言った。だからあんなに草臥れ、ぼろぼろなんだね、と兄妹は皆、納得していた。けれど誰も同情はしていなかった。彼等の大切な姉を彼は侮辱していたのである。対してななしは社畜やブラック企業と、これまで縁の無かった言葉を聞いて呆けていた。兄妹を育てる事に追われたななしはしっかりと働いた事がない。あっても新聞配達や数時間のパート位である。そしてそれらで彼の様に草臥れた事はない。余程大変なお仕事なのだろうと思った。そして、お国の為とはいえせめて彼の顔色が少しでも良くなれば良いのにとも思った。「審神者様、審神者様」ぺちぺちと柔らかな何かに頬を優しく叩かれる感触にななしは眉を顰めた。「審神者様、起きて下さい」薄く開かれた視界いっぱいに映り込んだこんのすけにななしは飛び起きた。「嘘っ、私寝てた?!赤ん坊達は、」「山姥切国広様は相変わらず審神者様のお腹に、他の皆様はベッドでぐっすりお休みになっております」「良かった。いや、良くない。赤ん坊がいるのに居眠りする何て信じられない」失態だとななしは額を押さえた。そんなななしにこんのすけは慌てる。「仕方がありません。これまでと変わった環境に移り住まわれただけでなく、本来する筈のない子育てもしているのですから」ちなみに寝いたのはこんのすけが帰って来るまでに数分だと言う。数分と聞いてななしはこんのすけに担当と上手く話せたのか尋ねた。「それが、まともに話を聞いてもらえず」聞いてもらう同じ話をするこんのすけにくどいと引き離したらしい。「それで、その、担当から伝言を預かっておりまして」「伝言?私に?」「はい」てっきり何度もこんのすけを送った苦情かと思いきや「今すぐ戦場に行かないと本丸への必要物資、その他の供給を止めると」戦場へ行けという催促であった。資材、食料、ライフラインといったものは全て政府からの供給である。ななしがオンラインで買っていたミルクも審査は必要であるが本丸に必要な物と認められれば政府の支払いとなる。勤続が何十年にもなる審神者で有ればそれなりに蓄えがあるが本日、着任したばかりのななしにはその様な蓄えはなかった。供給を止めると言うのは飢え死にしろという同義である。ななし自身は空腹でも耐えられる。幼い兄弟達と数日、公園の水だけで過ごした経験もあったしどうしても空腹ならばそこら辺に生えている雑草だって食べれる。ななしは視線を自分のお腹へと落とした。しかしいくら刀剣男士といえど、今は赤ん坊である彼等は同じくそれで耐えられるかも分からない。ようは脅しである。ななしは過去、見るからに疲れ切った担当を心配した己を恥じた。こんな赤ん坊に戦場へ行けと言うなんて血も涙もない、両親に次ぐどうしようもない奴だと思った。歩く度に小指を角にぶつけろと念じる。念じている内にふと、気がついた。「こんのすけ、担当さんは戦場に行けと言っただよね」「はい」「でも、刀剣男士に行かせろとは言ってないよね?」「そうです」そうだが、戦場に行くのは刀剣男士である。だから担当はわざわざ言葉にせず、省いた。何故、今そんな事を尋ねられたのかこんのすけは少しばかり考えて気付く。「まさか」「じゃあ、お望み通り戦場に行って来ますか」立ち上がり、軽い柔軟を行うななしにこんのすけは確信した。「駄目でございます!駄目でございます!」こんのすけはななしに飛びついた。「審神者自ら戦場に行くなど何を考えているんですか?!」「赤ん坊を戦場に行かせるよりはましだと思うけど」「そ、それは」「それに担当さんの言う通り供給を止められたらどっちみち飢え死にだしね」飢え死にと言われてこんのすけは力なく、畳の上へと落ちた。「申し訳ございません。こんのすけがもっと担当と話し合えれば」「こんのすけはもう十分やってくれたよ。ありがとう」感謝の言葉を伝え、撫でてやればこんのすけは小刻みに震えた。大きな瞳には涙が溜まり、溢れた雫が畳を濡らした。「大丈夫。別に戦場に行くからって死ぬ気じゃないし。取り敢えず現状、戦場に行くのは難しいのを証明する為に行くだけだから」死ぬ気はないが多少、怪我でも負って見せれば己がどれだけ無茶な事を言ったのか理解してくれるだろうとななしは考えていた。ななしは楽観視していた。まさかこの後戦場に言って死にそうな目に遭うなどこの時のななしは知らなかった。