雨女な審神者
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それからななしは執務室からよく出てくる様になった。
御手杵が己の逸話を見せたから、という訳ではなく政府から監査官を名乗る謎の人物が派遣されてきたからである。
本丸の評定をすると聞いてはななしも執務室に篭ってばかりではいられず、その姿は本丸の各所で見られた。
そして監査官の指示に従い聚楽第の攻略に乗り出した本丸一同は監査官から優の判定を貰い、監査官改め山姥切長義を迎える事となる。
新人が入ったら歓迎会を開くのが常の本丸。
折角だから山姥切長義の好みや要望を聞こうと尋ねに向かった面々は彼の口から驚くべき事を聞いた。
「野外で歓迎会?この本丸でそんな事が可能なのかい」
「可能も何も恒例行事だよ」
同じ刀派と明言されないものの自身の系譜を汲む山姥切長義の歓迎会に張り切る燭台切光忠は笑顔で答える。
「だが、彼女、主は雨女の気が強いから野外行事の参加は難しいんじゃないのかな?」
「雨女?」
「一体、誰の事を言っているんだ」
山姥切長義の言葉に一同、騒めく。
そんな彼等を見て山姥切長義は不思議そうに頭を傾げる。
「政府からこの本丸の審神者は雨女だと聞いている。それも本丸の天候を操作する程に強い力を持っていると」
雨女というのは本人からの申告であった為にそう仮定付けられているが政府所属の有識者の見解は違った。
雨女と呼ばれる妖怪は存在するものの雨を降らす以外にななしとの共通点はない。
それどころか本丸の天候を操作する程の力を持っていて妖怪とは思えなかった。
その為、有識者の殆どはななしの力は妖怪の雨女ではなく龍神から来ているのではと考えていたりする。
そんな話を本丸着任前に聞いていた山姥切長義は目の前の彼等の反応にまさか、と思う。
「もしかして君達は彼女が外に出るのも儘ならぬ程強い力を持った雨女だと知らないのか?」
山姥切長義のその言葉に誰かが小さく、蚊の鳴くような声で「初耳だ」と応えた。
それから本丸中は大騒ぎであった。
山姥切長義のもたらした情報は本丸中を駆け巡り、ななしが頑なに本丸の行事へと参加しない理由を皆が悟った。
次から次へとななしの元へ誰かが事実を確認に向かい、実際ななしが外に出て雨を降らす様を目にするとこれまでの事を土下座する勢いで謝った。
これまでの不安に思っていた事もあり短刀達は嫌わないでと泣きついた。
身なりの大きい男士達は身に覚えがある者達が謝り、次はななしも参加出来るよう方法を考えようと約束していった。
その騒ぎも夕食時には沈静しつつあり、ななしは久方ぶりに短刀達に囲まれて夕食を食べた。
「ちょっと良いかい?」
お風呂上がりのマッサージをしていたななしは外からの声に応えた。
「どうぞ」
やって来たのは歌仙兼定だった。
座布団を出して座るよう勧めたななしはその向かいに座った。
「君は、どうして自身が雨女だという事を僕達教えてくれなかったんだい?」
山姥切長義の話を聞いた時、一番驚いたのは歌仙兼定であった。
歌仙兼定はこの本丸の初期刀で、どの男士よりもななしとの付き合いは長い。
だからこそその初耳である話には驚いたし誰もが歌仙兼定を見た。
初期刀も知らなかったのか、視線で彼等から確かにそう言われた。
「教えてくれなかったからと僕は君を責めたい訳じゃないんだ。ただ、どうして始めに言ってくれなかったのか」
例えば歌仙兼定が野外で催し事をしたいと言った時、例えば歌会のお誘いをした時、その時にでも事情を話してくれれば無理に野外でしなくても、ななしが参加出来る屋内で開く事も出来たのだ。
「僕は、君の秘密を話すには役不足だったのかい?」
悲しげな瞳で見つめられたななしは胸を押さえ、自身の唇を噛んだ。
視線を俯かせて小さく、頭を横へと振るう。
「そうじゃないんです。私は私が雨女だと告白して皆から見放されるのが怖くて」
怖かった。
昔から雨女と呼ばれ、蔑まれ、イベント事で雨が降る度に周りから憎らしげな視線を送られた。
流石に直線的な危害を加えられた事はなかったがあまりにも強い力に周りからは遠巻きにされた。
審神者になってからその力は益々強まり、担当の役人に相談すれば妖怪、化け物と罵られる始末。
蔑まれるのも罵られるのも昔からの事なので慣れている。
けれど
「私みたいな妖怪崩れじゃ皆に嫌われると言われて」
それだけは恐ろしかった。
嫌われたくなくて自身が外に出ると雨が降るなど言えなかったのだ。
けれど自身が雨女である事が山姥切長義から本丸の皆に伝えられてななしが危惧していた様な事は起きる事がなく。
それどころか気づかなくて悪かったと皆は口々に謝って来た。
ななしは彼等の事を見誤っていたのだ。
「言えなかったのは私の心が弱かったからです。ごめんなさい」
「僕はさっきも言ったが君を責めたい訳じゃない。でもそうか」
良かったと額を押さえて噛み締める様に小さく漏らした歌仙兼定。
自身の胸を掴みその姿を見てななしは覚悟を決めた。
「今度の歓迎会の時には私も参加しても良いですか?」
尋ねると歌仙兼定は勢いよく顔を上げて頷いた。
「勿論だとも!今度の歓迎会は君も参加出来るよう開催場所も練ろう」
気が昂っているのか早口に何処が良いかあそこが良いか料理は食器はと勢いのまま話す歌仙兼定にななしは笑みを零した。