雨女な審神者
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見習いは担当が褒めるだけあって優秀であった。
正直、教える事がない程に彼女は何でも出来、器用にこなした。
流石に本丸の内情が分かる様な事務作業を見習いにさせる訳にもいかず、やる事が済んだら後は自由時間であった。
これで良いのかとななしは思うが何せさせる事がない。
その為か、本丸内からはよく男士達と見習いの楽しそうな声が聞こえた。
今も短刀達と見習いの楽しげな声が聞こえる。
そういえば見習いが来てから短刀達からの誘いがぱったりとない事にななしは気付いた。
少しばかり寂しさが心を掠めるが、誘われた所で応える事は出来ないのでななしは身勝手な己の心境を笑った。
見習いは短刀以外とも親交を深めているのか縁側で男士達とお茶を啜ったり、畑を手伝ったりと外で過ごす姿をよく見かけられた。
正直にななしは羨ましいと思った。
自身が一歩でも日向に出ればそれは叶わないだけに太陽の元、楽しげに彼等と親交を深められる見習いが羨ましかった。
ああ、いけないとななしは思う。
昔の事を夢に見てから度々この様に気分が落ち込むのだ。
まるで雨の日の様なじとじとと、湿っぽい感情が胸に渦巻く。
「審神者様も一緒にどうですか?」
ななしは気分を改めるべく渋いお茶を飲もうとしたがお茶っ葉が切れていた。
仕方がないとお茶っ葉を貰いに執務室を出たななしに見習いが声をかける。
きらきらと眩い表情で声をかけてきた見習いの後ろで短刀達の暗い表情をしていた。
それは諦観の表情であった。
期待もない、どうせ断られる、といった彼等の表情にななしは胃をつかまれた様な気になった。
そうだ、彼等の期待には応えられない。
自分には無理なのだと、断りを入れるべく口を開いた所で短刀達が見習いの服を引いた。
「主様はお仕事がお忙しいので」
「邪魔しちゃ駄目だよ」
それはいつものななしの断り文句だった。
そうやってななしはいつも彼等の誘いを断っていたのだ。
見習いは少しぐらいと、なおも食い下がるが今度こそななしは断りを入れる。
「まだ仕事が残っていますので」
そう言ってななしは急足で厨に向かった。
仕事と断る以上、執務室に戻りたかったが部屋を出た手前何もせず戻るにも戻れなかった。
ならばさっさと当初の目的を済まし執務室に戻ろうと足を急がせる。
厨に入ると厨係の者達が夕飯の準備をしていた。
そんな厨にななしがやってきて皆が一様に驚く。
「あるじさん、どうしたんですか?」
珍しいですね、と駆け寄ってきたのは和物を混ぜていた堀川国広であった。
「お茶っ葉を貰いに来ました」
「言ってくれればこっちで詰めて持って行ったのに」
そう言って堀川国広はななしの持っていた空の茶筒を手に取った。
「流石にそこまで頼めません」
「でも、あるじさんお仕事が忙しいでしょ?」
だったらそれぐらい頼んでくれても良いと堀川国広は善意で言ったのだろうが、ななしは素直にそう受け止められずにいた。
仕事だとななしは何でも断るから彼等はななしが仕事で忙しいと思っているが実際はそれほど詰まっていない。
断る口実を作る為に先のある仕事をななしが詰めているだけ、いわば忙しいと装っている。
今更になって彼等を欺いている気分になり、ななしは罪悪感から顔色を悪くさせた。
「あれ?あるじさん、何だか顔色が」
悪い様な、と堀川国広が言う前にななしは茶葉が詰め終えられた茶筒を手に取るとお礼を言って厨から逃げる様に退散した。
「お、主!今度、みんなで花火をしようか話してるんだけど主もどうだ?」
廊下を駆けるななしに声をかけてきたのは獅子王であった。
聞けば先程、万屋に出かけた際に福引で当てたらしい。
本丸向けの景品と言う事で彼等の足元にはかなりの量の花火があった。
突然の誘いにななしは戸惑う。
しかし惹かれもした。
花火は体質のおかげでこれまで出来た試しもなければ見た事もない。
家族もそれが分かってて花火を話題にした事がなかった。
したい、けれど出来ないのだ。
「ごめんなさい。仕事が「終わったタイミングじゃ駄目なのか?」」
そう言ったのは和泉守兼定であった。
「あんたも流石にずっと働き詰めって事もねえだろ。だったらこっちはあんたの都合に合わせるからたまには」
「すみません」
頭を掻き、照れ臭そうにしながらも譲歩しようとする和泉守兼定にななしは頭を下げてその場から逃げ出した。
後ろからは引き留める様な声が聞こえてたがななしは止まる事はなかった。
ななしは限界だと思った。
彼等の誘いを断り続けるのはもう限界だと。
しかしどうすればいいのかななしは分からない。
それから程なくしてななしは執務室に引き篭もる様になった。
引き篭もると言っても何もしない訳ではない。
寧ろ仕事を理由に執務室から出なくなった。
ただ、見習いがいた為、ななしの仕事は事務が殆ど、刀剣男士達と顔を合わせる頻度が減った。
加えて食事も自室で取ると言うななしに歌仙兼定などは頷かなかったが見習いがきっとお忙しいのだと後押しをした。
財務に関しては多少刀剣男士の手伝いが入るものの事務仕事はほとんどがななしの領分である。
実際、ななしがどの様な仕事をしているのか把握しきれていない彼等はななしや見習いが忙しいと言うのならばそうなのだろうと無理にでも思うしかなかった。