雨女な審神者
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「ななしちゃんは明日、絶対に来ないでね」
懐かしい同級生の顔にななしはこれが夢だと悟った。
ななしは正面に立つ同級生と同じく小学生の姿になっていた。
「どうして?」
ななしの口が勝手に喋る。
それは子供の時のななしの声だった。
声が震えている。
だって明日は待ちに待った遠足で隣りの県にある大きなキャンプ場に皆で行く。
そのキャンプ場には遊べる川や公園があるのだ。
そこで遊んでみんなでご飯を作って食べる。
同級生が皆、楽しみにしている様にななしだって楽しみにしていた。
なのに明日は来ないでと言われれば幼いななしは戸惑うしかない。
「だってななしちゃん、雨女だもん」
そうだそうだとクラスメイト達が口を揃えて言う。
幼い言葉がぐさりとななしの胸に刺さった。
そうだ、ななしは雨女。
これまでも散々、イベント毎に雨を降らせてイベントを潰して来た。
天気予報は晴れているのにななしがイベント当日、一歩外に出ると雨が降るのだ。
遠足や野外活動はいつも予定が変更になり、運動会は何度も延期になった挙げ句に体育館で行われる事となった。
ななしが体調不良で休んだ際は問題なく行われたがそれ以外は全て雨。
そして明日の遠足は雨天決行であるが雨が降ると川や公園では遊ぶ事は出来ない。
代替え案は用意されているが子供にはつまらない物である。
だから遠足に来ないでという同級生の言葉は大人のななしには理解出来た。
しかし子供のななしには理解が出来ないし同級生の言葉にショックを受けている。
結局、この後自分はどうしたのだろうかと思っていると場面が切り替わった。
遠足翌日、授業で皆が遠足の感想を書いてる中、ななしだけは担任の教師が用意したプリントの問題を解いていた。
結局、ななしは同級生達の言葉がショックで遠足当日に腹痛を起こしたのだ。
ななしが休んだお陰で遠足当日は晴れだった。
クラスメイト達が楽しげに遠足の話をしている中、ななしだけは惨めな気持ちでプリントの問題を解いていた。
それから小中高と、同級生達はイベントがある毎にななしに欠席を求めた。
課外学習に遠足、運動会、修学旅行でさえ来てくれるなと言われた。
イベントの当日になる度に腹痛を訴えるななしに両親は困った顔をしていたし、事情を知らない高校の担任教師はズル休みではないかと訝しんでいた。
そしてとうとう内申点が下がると言われてななしは体育祭の日に登校した。
雨だった。
珍しくイベントの日に出てきたななしにクラスメイトは驚いていた。
ななしが雨女と知る小学校からの同級生等はななしを睨んでいた。
「雨女の所為で体育祭が中止だよ。最悪」
教室の空気は最悪だった。
担任教師はななしに悪態を吐く生徒を諌めるものの次の体育祭予備日も雨であった。
天気予報は晴れなのに何故か学校がある地域だけが雨。
ななしは担任教師に呼び出され、言われた。
「次の予備日は休んでくれ」
担任教師の言う通り休むとその日は晴れであった。
それからななしはイベントに参加しなくても文句を言われなくなった。
昔からの同級生が喧伝でもしたのかいつの間にかななしが雨女という事は高校でも周知されていた。
別にいじめられていた訳ではない。イベント当日に外にさえ出なければそれ以外の扱いは真っ当だった。
友人もいた。
けれどイベントが近づくにつれて誰からとなく無言の圧力を感じるのだ。
雨を降らすなと、来てくれるなと
だからななしは皆が行事やイベントを楽しんでいる間は引きこもった。
自分が我慢すれば皆は明るい太陽の元めいいっぱい楽しめるのだ。
自分さえ我慢すれば
暗闇の中、目を覚ましたななしは身体を起こした。
嫌な夢だ。
夢というよりは記憶の再現である。
ななしは這いずる様に部屋を出て、空に浮かぶ満月を見上げた。
結局、ななしは大学に進学してもイベント事は避けた。
地元を離れて知り合いのいない大学にしたが自分が外に出て雨を降らし、イベントを台無しにしてしまうのが恐ろしかった。
あんたの所為で、といない筈の同級生に文句を言われそうで嫌だった。
そして在学中に審神者としての適性が判明し、卒業後は審神者へとなった。
現世ではない空間を拠点とする審神者ならば自身が雨女であっても関係ないと思ったのだ。
それがまさか、本丸の方がななしの雨女の影響が強いとは予想外であった。
お陰でななしは少し外に出るにも傘が手放せない。
それに刀剣男士達が催し物が好きなのも驚きである。
ななしは溜息を吐いて放り出された誰かの下駄を履いて外に出た。
空に浮かぶ満月に突如として雲が掛かる。
そしてポツポツと雨が降り出した。
これは現世よりも酷い、体感時間三分も掛からぬ内に雨に打たれたななしは笑うしかなかった。
これでは催しものどころではないだろう。
あんなにも熱心に宴や遊びに誘う彼等もことごとくそれらを雨で台無しにされてはどうだろう。
すぐに嫌になるに違いないとななしは雨雲に覆われた空を見上げて笑った。