雨女な審神者
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桜の花が散り、藤の花の盛りも過ぎた頃にその連絡は来た。
「見習い、ですか」
宙に浮かぶ担当の姿を前にななしは頬に手を当てて呟く。
ななしの勤続は五年を過ぎ、若手の域を抜けようとしていた。
刀剣男士の数も増え、戦場で敗北を喫することも少なくなった。
そんなななしの本丸に見習いの受け入れの話が来たのだ。
「見習いを受け入れろと言いますが、もっとベテランさんの本丸では駄目なのですか?」
自身が見習いであった際には既に着任している審神者の本丸に滞在などという話はなかった。
聞けば見習いの中でも優秀な者に限りの話であるらしく、見習い時、全ての成績がほぼ並であったななしには縁のない話であったのは分かった。
けれどだったらなおさら優秀な見習いはベテランの、もしくは戦歴が秀でた本丸へと実習に行くべきなのではとななしは思う。
「いやー私もそう思うんですけどね」
明らかにななしを見下した視線、口調に、後方に座していた歌仙兼定が帯刀していた刀を手にした音が聞こえた。
ななしはすかさず担当には聞こえぬ小さな声で歌仙兼定を宥める。
「ななしさんの本丸程度の方が都合が良いと言いますか、まあ先方の希望もありまして」
先方の希望と聞いて一体、誰の事なのかとななしは思った。
きっと担当の上司であり、まさか見習いの希望ではないだろうと考える。
「もう、決まった事なので受け入れ準備をお願いしますね」
一方的に通信を切られたななしは呆然とした。
「いつも思うが何なんだ。あの担当の態度は」
歌仙兼定が怒気混じりに呻いた。
そう、担当の態度は今のに限らずいつもななしに対して横柄である。
「君は何とも思わないのかい?あの様に軽んじられ、面倒事を押し付けられて」
「流石に五年も経つと慣れてしまいあまり気にはならないですね」
「僕達の主は優し過ぎる」
歌仙兼定は嘆く様に声を上げた。
そんな彼にななしは苦笑いを浮かべながら内心、謝りを入れる。
担当があの様に自身に対して横柄でいるのが己の所為であるからとななしは知っていたからである。
担当はななしが雨女という特異体質である事を知る数少ない人物であった。
それは自分の体質により本丸の天候が左右される事に困ったななしが担当に相談して露見した。
それから担当はななしを妖怪混じりと言って嘲る様になった。
雨女という体質は祖先に妖怪の血でも混じっているに違いない、穢らわしいと口汚く責めた。
実際のところはななしにも分からない。
ななし自身は一般家庭の生まれで、両親からは先祖に妖がいたなどという話を聞いた事がない。
担当の言う妖混じりはあくまで推測。
しかし自身の体質が疎まれ、責められる事に慣れきっていたななしは担当の言葉を鵜呑みにはしないものの受け入れていた。
こんな私だから、こんな主であるから皆に迷惑をかけるのだと。
「それで見習いの件はどうするんだい?」
「そうですね。部屋は空いている部屋を見繕って」
決まっているのは仕方がない。
気分を入れ替え、見習いを受け入れるに当たっての打合せをしていると担当からメッセージが来ている事に気づいた。
何か言い忘れでもあったのだろうかと、ななしは歌仙兼定に謝りを入れてメッセージを開き、固まった。
ななしが固まっている事に気付いた歌仙兼定は何事かとななしの背後へと移動して担当からのメッセージを覗く。
メッセージには見習い様に離れを作る様書かれていた。
作るのは簡単だ。
科学と不思議な技術により、申し込めばすぐに建ち上がる。
それははいい。だが、その下に書かれた経費はこの本丸持ちで、という一文に歌仙兼定の沸点は限界を迎えた。
「主に相談もせず、話を一方的に決めた上、見習いにかかる経費はこちらに払えだと?」
「歌仙兼定様、この離れの代金については私の財布から出します。だから、ね?」
ななしには審神者になってから貯まるばかりの貯金があった。
離れの建設は決して安い物ではないが本丸の財政の為なら私財を投じるぐらい平気である。
それで何とか怒れる歌仙兼定を宥めようとするが「代金を誰が出す出さないのではないのだよ」歌仙兼定に笑顔で返された。
「一体どれ程、主を愚弄すれば気が済むんだ」
不気味な笑い声と共に刀に手を添えて立ち上がる歌仙兼定。
「あのような担当、叩き切ってくれる」
聞こえた物騒な発言にななしは咄嗟に歌仙兼定へとしがみつくも彼は止まらない。
ななしは叫んだ。
「誰か歌仙さんを止めて!!!!!」
助けを求める声を聞きつけた者達により、歌仙兼定が担当を切り付けるという最悪の事態は免れた。
見習いを受け入れられる件について、殆どの者が難色を示していた。
彼等は歌仙兼定と同様、ななしに対する担当の横柄で粗雑な振る舞いに日頃から苛立っていた。
しかし、ななしが一人一人に頼み込む事で、渋々といった様子で納得を得られた。
離れの建設については歌仙兼定は勿論、博多藤四郎やへし切長谷部など財務に関わる者達が一向に認めなかった為、ななしの私財からではなく、本丸の予算から捻出される事になった。
離れの建設、見習いを迎えるため備品の調達などをしている間にも藤の花の盛りは終わり、ななしの本丸は一年でも雨の多い季節を迎える。
そんな季節の貴重な晴れ間に彼女はやって来た。