創作刀剣男士
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青江派の一振である青江次直。
実装と共に始まった鍛刀キャンペーンに思いを馳せるのは何も青江派の男士だけではなかった。
「みっちゃん、みっちゃん、みっちゃーん!!!」
どたどたと、騒がしく音を立てて厨にやってきた太鼓鐘貞宗に名前を呼ばれていた燭台切光忠は何事かと、絹さやの筋を取る手を止めて瞳を瞬かせた。
同じく絹さやの筋を取っていた歌仙兼定は太鼓鐘貞宗の騒がしさに雅でないと眉を顰めている。
そんな彼に謝りを入れて燭台切光忠は何事かと太鼓鐘貞宗に尋ねた。
次いで少々、小言を、と思ったのだが太鼓鐘貞宗は燭台切光忠の腕を掴むと無理矢理に引っ張ると走り出した。
「ちょ、ちょっと貞ちゃん!」
本当に何事かと、燭台切光忠は何度も尋ねるが太鼓鐘貞宗は行けば分かると答えるばかりで一体何があったのか訳が分からない。
そんな燭台切光忠を何処かへと引っ張る太鼓鐘貞宗は見るからに興奮していた。
顔色を赤らめ、鼻息は荒い。
その様子から何か問題が、例えば鶴丸国永が驚きを求めてまた何かをやらかしたという感じではなさそうなので燭台切光忠は内心、安堵した。
そうこうしている間に二人は鍛刀部屋の前に来ていた。
そこに何があるのか燭台切光忠が思案する前に太鼓鐘貞宗は鍛刀部屋の扉を勢いよく開ける。
「次直!みっちゃんを連れて来たぜ」
この本丸の近侍は日替りの当番制である。
鍛刀部屋には本日の近侍である大倶利伽羅と、小柄な体躯から短刀と思わしき少年がいた。
「待って貞ちゃん。次直って、もしかして」
その名前にはらりと一瞬、燭台切光忠の脳裏に昔の記憶が蘇った。
自身が伊達の家を出る少し前、徳川からやってきた短刀があった。
その短刀は伊達政宗の孫にあたる光宗に贈られた短刀で、彼が伊達家に来て暫く燭台切光忠は伊達家を出てしまった為に接点は少ないが太鼓鐘貞宗が彼を気に入りよく一緒にいたのを思い出す。
そして自身の傍らに立つ太鼓鐘貞宗の興奮様に納得がいった。
「光忠様、お久しぶりでございます。微力ながら皆様の手伝いをすべく参じました」
燭台切光忠に気が付いた彼、青江次直は床に座り姿勢を正すと、深々と頭を下げた。
これが他の男士がしたならば畏まってくれるなと燭台切光忠は慌てた所だが、昔の彼を知る燭台切光忠はその様に懐かしさを覚える。
「ああ、本当に次直君なんだね」
元々、生真面目な質なのか燭台切光忠が伊達家にいた時も青江次直は今の様に丁寧過ぎる態度をとっていた。
懐かしいとも思える次直の態度に燭台切光忠は笑みを浮かべる。
「何、他人行儀な態度をとってるんだよ」
「太鼓鐘様、ですが」
床に正座する青江次直を太鼓鐘貞宗は無理矢理に立たせた。
そんな太鼓鐘貞宗に戸惑いを見せる青江次直。
彼に名を呼ばれた太鼓鐘貞宗は笑顔で距離を縮めると青江次直の薄い肩を掴んだ。
「貞だろ?」
「太鼓が「貞ちゃんって呼んでくれても良いんだぜ?」」
「・・・貞君」
「うーん、まあそれならいっか!」
太鼓鐘貞宗の名を畏って呼びたい青江次直と親しげに名を呼ばれたい二人の攻防、それを呆然と見ていた燭台切光忠は大倶利伽羅の腕を掴み今の二人のやりとりは何事かと問うた。
「え、あの二人ってあんなにも仲が良かったっけ?」
燭台切光忠の記憶では二人はそこそこに仲が良いがどちらかというと新入り、加えて自身と同じ短刀という事で太鼓鐘貞宗が興味を持って一方的に構っているという印象。
対して青江次直はぐいぐいくる古株の太鼓鐘貞宗に恐縮しっぱなしで振り回されている感が凄かった。
しかし今は本当の意味で仲が良く、気の知れた友人同士に見える。
二人仲の代わり様に驚く燭台切光忠に「色々あったんだ」と応えて一度は口を閉じた大倶利伽羅であったが何か閃いたらしい。
彼にしては珍しく、見て分かる程に愉快そうな顔をした。
「その昔、貞が次直に泣きついたんだ」
「えっ」
「親しげに呼んでくれないと嫌だと駄々を捏ねてな」
かっこ良さに拘り、いつも身なりは勿論、言動にも気を遣う太鼓鐘貞宗が親しげに呼んでほしいからと青江次直に泣きついた。
そんな話を燭台切光忠はすぐには信じられなかった。
しかしそれを話すのが大倶利伽羅という事もあり信憑性は高い。
だが、まさか、と信じ切れていない燭台切光忠の耳に太鼓鐘貞宗の大きな声が届いた。
「あー!加羅!!それはみっちゃんには内緒だって約束しただろ」
「お前が一方的に約束を迫っただけだ。俺は了承していない」
「それでも黙ってるのが仲間ってもんだろー!!」
この野郎、と太鼓鐘貞宗は大倶利伽羅へと飛び掛かる。
このやりとりから燭台切光忠は大倶利伽羅の話が本当なのだと理解する。
照れ隠しにしては本気な太鼓鐘貞宗の攻撃に的確に、けれど受けては流す大倶利伽羅。
微笑ましいとは言い切れない二人のやりとりを眺める燭台切光忠と青江次直。
互いに知った仲とはいえ、この本丸に来たばかりの青江次直を放置したままな事に気付いた燭台切光忠はこのままではいけないと仕切り直す為に大きく手を叩く。
「こら!戯れ合うのも良いけど先ずは次直君にこの本丸の案内しないと」
と、そこで燭台切光忠はこの本丸の主である審神者がいない事に気が付いた。
青江次直が顕現している以上、彼が顕現した際にはいた筈なのだ。
けれどその主の姿は鍛刀部屋を見渡しても見当たらない。
燭台切光忠の視線に気付いてか、大倶利伽羅は溜息混じりに審神者の所在について答えた。
「あいつなら会議を忘れていたと慌てて出掛けていった」
「またかい?!」
燭台切光忠が『また』と言った通りこの本丸の審神者は日頃からそういう所があった。
何時もで有ればそんな審神者をカバーするべく初期刀がスケジュールの管理を行っているのだがその彼も今は修行の旅に出ている。
近侍となる男士達も審神者のスケジュールの把握に努めているがそもそもその会議がある事自体を審神者が役人から聞いたままにして誰にも伝えず忘れるという事が多々あり、今回はそのパターンであった。
すっかり会議の事を忘れていた審神者は呑気に青江次直を顕現し、その後、役人からの連絡を受けて鍛刀部屋に駆け込んできた初鍛刀の刀である平野藤四郎と共に慌てて会議の会場向かったのだという。
「あいつから次直の事は一任されている」
会議で帰りが遅くなる事に加えて担当の役人から今回の遅刻についてお説教を受ける事を予期した審神者は本日の近侍である大倶利伽羅に青江次直の事は任せると言って出ていったのだ。
裁量権が大倶利伽羅にあると聞いて太鼓鐘貞宗は瞳を輝かした。
「じゃあ、じゃあ、次直の部屋は俺の隣にしてくれよ!」
現在、彼等は伊達家に由来する刀として集まり部屋はそれぞれ隣接している。
そして太鼓鐘貞宗の部屋の隣はちょうど空いていた。
確かにそこを青江次直の私室にする事は可能だが燭台切光忠は難色を示した。
「この本丸は基本、同じ刀派で固まるようになってるからどうだろう」
三条、来派など、2名以上集まった刀派は基本的に隣接した部屋割りとなる。
というのも刀派=家族ないし親戚と、ここの審神者は認識しており、ならば離れ離れはよくまいという心配りで同じ刀派で固まった部屋割としている。
ただ、これには例外も存在し、例えば伊達家の縁で固まる彼等や新撰組の縁で集まる者達。
こちらは顕現当初、殆どの者に同刀派の者がいなかった。
しかし彼等が顔馴染みなのならばとその括りで部屋を振られている。
それから暫く経って燭台切光忠も太鼓鐘貞宗も同刀派の刀がやって来たが今更部屋の移動も大変だろうからという理由で部屋を移らず今の部屋割りのままでいる。
しかし青江次直にはこの本丸に同刀派の刀が既に二振顕現している。
ならば青江次直は通例の通り彼等と隣接する部屋に入らなければならない。
「次直の部屋は貞の隣で良いだろ」
大倶利伽羅は静かに告げた。
「勝手に決めちゃって良かったのかな」
先ずは青江次直の私室となる場所を案内すべく、太鼓鐘貞宗はご機嫌に青江次直の手を引っ張り廊下を歩いている。
引っ張られる側の青江次直も昔馴染みである太鼓鐘貞宗に会えて嬉しいのか幾分表情が柔らかい。
そんな二人の微笑ましい姿を後方から眺めながら燭台切光忠は小さく零した。
幾ら裁量権を審神者から大倶利伽羅に与えられてあるとはいえ少しは青江派二振の意見も聞くべきだったのではと思えてならない。
「光忠はあいつの癖を覚えているか」
「次君の癖?ああ、あの我慢している時に左の袖を小さく掴む癖かい?」
「部屋割りの話題が出た時、あいつはずっと左袖を掴んでいた」
「それって」
ちらりと、燭台切光忠は青江次直を見た。
真面目な青江次直は誰か他人に頼まれ事や無茶振りをされても笑顔で受ける性格である。
内心では嫌だと思っても笑顔を取り繕える。
だからこそ、その癖だけが青江次直の本心を知る事が出来る。
そして青江次直は今、その癖は出ていない。
「次君ってあまり家族仲が良くないのかな」
部屋割りの話題でその癖が出ていたというのならつまりそういう事である。
燭台切光忠が視線を向け、大倶利伽羅に何か知らないか問えば、彼は目を細めて知らんとそっけなく応える。
「次君が喜んでいるなら僕も文句は言わないよ」
寧ろ顔馴染みが増えて燭台切光忠は嬉しいのだ。
「けど、もし青江派の二人や主が部屋割りについて言って来たらどうする?」
実際青江派の関係性は他人の燭台切光忠にも分からない。
部屋割に向こうも受け入れてくれれば良いがそういった事態も想定される。
燭台切光忠は青江次直の気持ちを優先してあげたいが刀派という確固たる関係性のある青江派相手では幾ら縁があるとはいえ自分達に分が悪いのが分かっていた。
そうなった場合、どうすればと悩む燭台切光忠に大倶利伽羅は静かな声で答える。
「それなら国永の介助役が必要だから次直にはこちらにいてもらわないと困るとでも答えれば良い」
すればとりあえず審神者は問題がないと大倶利伽羅は言った。
道行先で会う男士達に挨拶をしながら本丸の案内を一通り終えると四人は燭台切光忠の部屋で一休みする事にした。
四人がお茶を飲んでいると騒がしい足音が廊下から聞こえる。
その足音は燭台切光忠の部屋でぴたりと止まると襖が勢いよく開かれた。
「次坊が顕現したって本当か!!!!」
襖を開けたのは出陣していた筈の鶴丸国永であった。
戦場から帰ってきてすぐに青江次直が顕現した話を聞いたのだろう。
鶴丸国永は戦装束のままで、白い羽織には土埃や返り血と思われる赤い斑点も散っていた。
その姿のまま部屋に入ろうとする鶴丸国永に燭台切光忠は悲鳴を上げ、制止を求めるが彼は青江次直の姿を探すの一生懸命で聴いちゃいない。
「そのお声はもしや鶴丸様でございますか?」
大倶利伽羅に隠れる様にして奥側の席にいた青江次直。
身体を傾けた事で漸く現れた青江次直に鶴丸国永は表情を輝かせて部屋へと押し入った。
「本当に次坊がいるじゃないか!久しぶりだな。よしよしその顔をもっとよく見せてくれ」
遠方に住む孫に久方ぶりに再開した爺よろしく嬉々と大股歩きで青江次直に近付いた鶴丸国永は彼を抱き上げた。
鶴丸国永は青江次直のまろい頬に頭、そして再び頬を撫でくり回した。
「ひゅひゅまるひゃま!」
「ははっ何を言ってるのか分からんぞ」
ならばその頬を捏ねくり回す手を止めてやれと大倶利伽羅辺りが思うのだが誰もそれを口にはしないし止めもしない。
これが以前の彼等にあった日常だったからである。
「いやーまさか次坊に会えるとはなぁ」
散々、青江次直を撫で回して満足した鶴丸国永は漸く燭台切光忠の声が聞こえたらしく、少しばかり手遅れではあるものの汚れた羽織を脱ぎ、大倶利伽羅と青江次直の間に収まり座っていた。
その間も青江次直の頬を撫でたり顎を撫でたりしている。
本当はこの本丸の一期一振が弟達にする様に膝に乗せたかったのだがそれだけは、と青江次直が固辞しための代替である。
「しかしそんな小さな体に幾つもの刀の思いを抱えては大変だろう」
労わる様な優しい眼差しと共に告げられた言葉に大倶利伽羅も太鼓鐘貞宗も目を見開く。
「鶴さんどういう事?」
「鶴丸様!!!」
燭台切光忠は机から身を乗り出し青江次直は慌てて鶴丸国永の袖を掴む。
「おっと、何だ。この事は秘密だったか」
「秘密ではないのですが、まだ」
話していないのだと俯いて体を小さくした青江次直は言った。
「そうだったのか。すまんすまん」
全くすまなくなさそうに鶴丸国永は謝り、青江次直の頭を撫でた。
「次直」
そこに静かな、けれど有無を言わせない迫力のある大倶利伽羅の声が落ちる。
「どういう事か話せ」
「う、はい」
青江次直はその名の通り青江派の刀工、次直が作った短刀である。
徳川秀忠から伊達光宗へと贈られ、その際に伊達家にあった彼等とも縁が出来た。
そして時代は移り、幾つもの元号を迎えた未来、博物館所蔵となっていた青江次直は戦場に行く事を決意する。
自分が行って戦争が終わる等と思ってはいないがすぐに帰って来ると自身の頭を撫でて戦場に向かった博物館の仲間達がどうしているのか心配であった。
それに向こうなら昔馴染みに会えるかもしれないという邪な考えもあった。
青江次直の参戦は政府も喜んでくれた。
この時、青江次直は自分すらも喜ばれるとは余程戦況がよろしくないのかと思ったのは内緒の話。
政府の機関で様々な検査を受けた青江次直は現実を知る。
自身では本丸に顕現して戦場で戦う程の数値も逸話も無かった。
数値が低くとも伝説や逸話により補強は可能であるが青江次直にはそれが無かった。
自身が持つコンプレックスにより思いっきり殴られた気分の青江次直に政府の職員が一つ提案する。
「青江次直単体では無理でも末青江の刀の集合体ならば顕現も可能ではないかと言われまして」
青江次直はすぐさま同じ末青江と呼ばれた時代の刀達に相談し、彼等から了承を得ると政府の技術で顕現できるよう進めた。
つまり今の青江次直は彼だけではなく末青江と呼ばれる時代に作られた刀の集合体であるという。
「ただやはり集合しただけでは不具も生じますので僭越ながら私が表に立たせていただいているのです」
それで鶴丸国永の先程の言葉である。
不具合でもなく、本人が望んだ結果ならばと話を聞いた燭台切光忠達は安堵する。
「だけど鶴さんよくわかったね」
集合体として顕現したとはいえ見た目は彼等が知る青江次直のままなのだ。
「ん?ああ、対面した時に次坊とはまた違った懐かしさを感じてな」
鶴丸国永はこれまで過ごした長い刀生の内に出会った縁を感じ取ったらしい。
「俺だって!」
流石だと燭台切光忠が鶴丸国永を誉めていると太鼓鐘貞宗が声を上げその場で立ち上がった。
「次直がいつもの次直じゃないって分かってたからな!!」
別に気付いたのは鶴丸国永だけではないと主張する太鼓鐘貞宗に燭台切光忠と鶴丸国永は笑みを浮かべる。
その笑みの生暖かさに太鼓鐘貞宗は少しばかり後ずさった。
「嘘じゃないぜ。俺は次直と親友だから次直の様子が昔と少し変わってる事ぐらい分かってた」
そう主張する太鼓鐘貞宗だが二人の笑みは変わらない、どころか深まった様にも思える。
太鼓鐘貞宗は頬を膨らませる。
「何だよ!鶴さんも、みっちゃんも!」
二人の視線に自分の主張が疑われている取った太鼓鐘貞宗は声を張り上げる。
「貞君」
青江次直に呼ばれて太鼓鐘貞宗は拗ねているのか唇を尖らせながら振り向いた。
「次直まで俺を疑うのかよ」
「ううん。貞君は私が顕現してからずっと私が昔と違うのに気付いてた。けど、私が自分から理由を話すのを待っててくれてたよね」
それが嬉しかったと、と青江次直は太鼓鐘貞宗に微笑みかける。
すると太鼓鐘貞宗は表情を一転させ、はにかんだ笑みを浮かべた。
「そんなの当たり前だろ!俺達は親友なんだからな!!」
そんな二人をやはり生暖かい目で見守る鶴丸国永と燭台切光忠。
一人、廊下側へと視線を向けた大倶利伽羅は「遠征の連中が騒がしいな」と小さく零した。
確かに外からは複数人の賑やかな声が聞こえる。
大倶利伽羅の言う通り遠征に出ていた者達が帰って来たのかもしれない。
そして話し声が止んだかと思うと今度は騒がしい足音が聞こえ、それは何故かこちらへと近付いて来た。
「次直」
「大倶利伽羅様?」
名前を呼ばれて顔を上げた青江次直の視界は白に覆われた。
突然の事に青江次直は驚く。
だが、少ししてその視界を覆う白の正体が鶴丸国永の羽織りだと気付いた時、部屋の外から声が聞こえた。
「ちょっと良いかな?」
「ここに青江次直がいると聞いたのですが」
その声に青江次直の身体はびくりと跳ねるとそのまま硬直する。
部屋の外から聞こえてきたのはにっかり青江と数珠丸恒次の声、青江派二振の襲来である。