サリバン邸のメイドさん
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悪魔であるサリバンの孫となって早幾日、入間は常に賑やかで厄介な日常を送りながらも気になっている事があった。
「もしかしてこのお屋敷、おじいちゃんやオペラさん以外にも誰かいるんですか?」
今日も次から次へと出される料理に舌鼓を打っていた入間はふと手に持つナイフとフォークの動きを止めてサリバン達に尋ねた。
二人は顔を見合わせて、再び入間を見るとどうしてそう思ったのかサリバンは笑顔で尋ねる。
大した証拠や確証がある訳では無いのだと前置きをして入間は話した。
例えばベッドメイキング。
入間がオペラに呼ばれて部屋を出る前に乱れていたシーツが再び部屋に戻ると綺麗に整えられていた。
オペラは部屋に戻る迄ずっと側におり、彼が入間の隙を見て整えたというのはあり得ない。
勿論屋敷の主人であるサリバンが直したとも思えず、それだけであれば何か自分の知らない魔法か何かでベッドは整えたのかと入間は思っていた。
けれど入間は少しずつ魔界という環境に慣れ、余裕が出来ると屋敷のあちこちで不思議に思う事に遭遇する。
サリバンでもオペラでもない足音が聞こえた。
まるで自分の様にツノも立ち上がった耳もない影を見かけたとか、明らかにこの屋敷に入間が知らない、客人でもない存在を感じていた。
「そっか、入間君気付いてたか」
何故か微笑しげな表情で入間を見つめるサリバン。
「それで入間君はその誰かに会ってどうしたいの?」
「どうしたいというか何時もお世話になっているので挨拶とかお礼とか言いたいです」
あくまで相手が快く応じてくれるので有れば、と入間は付け加える。
というのも確証はないが屋敷内で誰でもない存在を感じてはいた入間であるが姿を一切見せない事からその誰かは何かしらの事情があって自分を避ける様に仕事をしているのではとも思っていた。
だったら入間の希望で無理に会うのは不味いかとも思う。
「別にあの子は入間君に会いたくないからという理由で隠れて仕事をしてる訳じゃないんだよ」
少しばかり頑固な子なのだと言ったサリバンは徐に手を叩いた。
「聖君ちょっと来てくれる?」
それなりに大きな声で入間の知らぬ名を呼ぶサリバン。
話の流れから聖と呼ばれる人物が自分の感じていた存在なのだろうと入間は推察する。
けれど大きくはあるがそれなりの声の大きさであった為こんな大きな屋敷の何処かにいる聖にその声は届いているのだろうかと入間は思った。
「お呼びですか。サリバン様」
己の背後から突如聞こえたその声に情けない声を上げた入間は思わずナイフを落とす。
すぐさま受け止め様とした入間であるが、入間の手は空を掴み、くるくると回転して落ちるナイフは床に張られた絨毯目掛けて落ちていく。
と、思われたがナイフは絨毯へと刺さる事もなくやはり背後から伸びた手にキャッチされた。
「驚かせてしまい申し訳ありません入間様」
床に落ちはしなかったナイフであるが入間の手に返ってくる事はなかった。
代わりに清潔なテーブルナプキンに包まれ、一切の曇りなく磨かれたナイフがテーブルへと置かれる。
「彼女が入間君の気にしていたもう一人の使用人だよ」
サリバンから自己紹介される様促された彼女は入間の見易い位置まで下がると長いロングのスカートを軽く摘み上げてお辞儀をした。
「斎藤聖と申します。サリバン様のご好意によりこちらのお屋敷でメイドをさせていただいております」
畏った挨拶に一度は恐縮した入間であるが先程確かに聞こえた耳馴染みのある言葉に動きを止める。
「斎藤?」
「はい」
まるで人間界で良く聞いた苗字の様な響きに懐かしさを感じた入間。
そんな入間にどうかしたのかと聖が首を傾げて尋ねるので慌てて釈明する。
「いや、何だか故郷でよく聞いた苗字だったので」
内心魔界にも斎藤等と日本人じみた苗字があるのかと思った入間であったがそのやりとりを眺めていたオペラが口を開いた。
「彼女も入間様と同じ国の出身なんですよ」
「へー僕と同じ・・・ええっ!!?つまり、聖さんも僕と同じ」
「人間ですね」
そこで初めて微笑んで見せた聖は先祖返りであるけどもと付け加えた。
自分以外にもこの魔界に人間、ましてや日本人がいた事だけでも驚きだというのに加えて聴き慣れぬ単語に入間は酷く混乱する。
「先祖返り??」
「先祖返りって言うのはね」
そんな入間に対してサリバンは何処からともなく可愛らしいイラストと文字の書かれたフリップボードを取り出して説明してくれた。
その説明によると聖は正真正銘人間である。
しかし聖の血筋には悪魔の血が流れており、その悪魔の血は何世紀と重ねて確かに人間の血で薄められていたのだが聖の代で悪魔としての性質が出てしまったのだという。
それが先祖返り。
身体は人間である為尻尾も翼も無いが魔力を持ち、先祖の悪魔と同じ家系能力も得ている聖が普通の人として人間界に暮らす事は難しく特別な許可を得た後にこのサリバン邸へ預けられた。
サリバンとしては入間と同等と迄は行かなくても大切な客人として聖を迎えたのだが「何もせずサリバン様お世話になるのは申し訳ありませんので」そう言って客人としてのもてなしを受けずサリバン邸のメイドとして働いているのだと言う。
「僕は別に働かなくて良いって言ったんだけどね」
「そういう訳にはいきません」
「ほら、ずっとこんな調子だから僕折れたんだよ」
先程迄の微笑みは何処へやら、無表情に戻った聖と弱り果てた声のサリバンに入間は苦笑いを浮かべた。
聖はそこで仕事が残っているからと頭を下げて退室する。
始め同様に三人だけとなった部屋で入間は少し声を潜め、どうして聖が今迄自分に姿を見せなかったのか尋ねた。
「うーん本当は入間君を連れて来てすぐに紹介する筈だったんだけどね」
タイミングが合わなかった。
入間が魔界にやってきた時は聖が不在。
ならばバビルスの入学式を終えてからでも良かったのだが魔界に連れてこられてすぐの入学式で疲れてしまい入間はすぐに寝付いてしまった為その日の機会は失われてしまった。
ならばその翌朝にでも、と思ったサリバンであるが聖から自身の紹介は暫くしなくて良いと言われたのだという。
「聖君は魔界に来たばかりの入間君が慣れない環境疲れているだろうからせめて魔界での生活が落ち着く迄は自分の事は秘密しておいてほしいって言ったんだよ」
その尤もらしい理由に説得されたサリバンはこれまで聖の存在を秘匿していた事をオペラと共に謝った。
眉を下げたサリバンに入間は首を横に振るう。
「僕の事を考えての事だから全然気にしてないよ」
確かに魔界に連れて来られた入間の生活は慣れぬ環境、対人、学業と大変目まぐるしいものであった。
聖やサリバン達の気遣いに感謝する入間。
そんな入間を見つめるサリバンとオペラの心中は複雑である。
敢えて言わなかったが聖が入間の前に姿を見せなかったのにはもう一つ理由があった。
「少しでも吃驚した方が楽しいですし」
聖は身体の作りは人間であるが性質としては悪魔、しかも古い悪魔の性質が色濃く現れる元祖帰りに近いものがあった。
聖は何より楽しい事を好む質で、その為ならば労力は惜しまず秘密の一つや二つ、何なら十でも平気で持てた。
正直入間については建前で、驚く入間の反応が面白く楽しいから黙っとこう、が聖の本音だろうと思っているサリバンとオペラであるが表情を綻ばせる入間に余計な事は言えず、きっとその内に聖の事は付き合いをする内に理解するだろうからと結局二人は黙っていた。
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