はひゃんっ


そんなおかしな声が聴こえて居間にいた幼いポケモン達は何事かと廊下に出ようとするのだが、そこを自分達より大きな腕に止められる。
何にも化けていないゾロアークに居間へ引き戻されたポケモン達は駄々を捏ね様子を見ようと廊下に出ようとするのだが『教育に悪い』とカビゴンに化けたゾロアークに廊下への入り口を塞がれ叶わなかった。

『だったら廊下の様子を教えてよ！』

そう言ったミミロップにゾロアークは気乗りがしないのだがこのままでは何としてでも廊下に出そうな幼い子達に渋々廊下の様子を覗いて

｢もう！この扉どうしてくれるの！｣

怒るサクラに説教を受けるトウコとトウヤ、金具が外れ傾いた扉の向こうで浮かぶノボリとクダリにゾロアークは訳が分からんと頭を傾げた。


｢どうして扉に体当たり何てしたの？！お陰で家の扉が外開きから内開きになっちゃったじゃない｣
何処かの地方のお説教を受ける姿勢、正座を強いられサクラの叱責を受けるトウコとトウヤは慣れぬ姿勢に苦悶の表情を浮かべている。

｢す、すいません。外からサクラさんの声を聞いてたらすぐにでも突撃しなくちゃいけない気分になりまして｣

そんなに厚くはないサクラの家の扉。
その扉から何時もの彼女の声が聴こえていたのならトウコもトウヤも扉に突撃する事等無かっただろう。
しかし薄い扉から聴こえた彼女の声は二人じゃなくても色々と邪推してしまう悩ましげな声。
その声に混じる荒い吐息に、男の声まで聴こえては二人もじっとはしておれず

｢突撃！隣の朝ごはん！｣

｢すみません。ただ今帰りました！｣

扉の向こうで起きている事を予想し、その予想が当たった場合のダメージを考え明るくまっすぐに突っ込んだのはまずかった。
何時もなら引いている筈の扉に突っ込んでしまい金具が音をたてて壊れ傾き、自分達が扉を壊す所をサクラにばっちり見られてしまったのだ。

二人が気にしていた事は何も起こっておらず扉越しに聴こえた声はＮに脇腹を擽られたサクラの声と判明。
気にしていた事は杞憂となり、二人は扉を壊した事で彼女に叱られる羽目になった。

｢だいたい朝早くから置き手紙もなく何処かにでかけて、｣

｢サクラさん｣

お説教モードのサクラに片手を上げ、トウコは発言権を求めた。

｢あの、お説教も良いんですがノボリさんもクダリさんもあの状態のままは辛いと思うので下ろしても良いですか？｣

ギアスステーションからトウコのランクルスの使う"テレキネシス"で宙に浮きっぱなしのノボリとクダリの存在をようやくそこで気付いたサクラは二人の姿を見て顔を真っ赤に染める。

｢誰？｣

訝しげにノボリとクダリを見たＮはサクラに二人が何者か、彼女の袖をひき尋ねるが彼女は答えようとしなかった。
説教する自分の姿を他人に見られたサクラは始めこそ恥ずかしさに顔を赤く染めたのだが今は顔色を真っ青に染めている。

｢・・・どうしてお二人が此処に｣

トウコのランクルスに浮かされているのを見る限り彼女が二人を連れて来たと考えて良いのだが、サクラにはそれを考える程の余裕は無かった。
顔を青く染めたサクラの頭を今、占めているのは入院していた病院の出来事ばかり。

一歩後ろに下がったサクラはそのまま踵の向きを変えて逃げる様に居間へと飛び込む。
サクラが居間にＮはそんな彼女を追って消えて正座をする意味を無くしたトウコとトウヤは痺れる両足を何とか崩し、トウコは宙に浮かんだままの二人を地に下ろすようランクルスに命じた。

｢サクラさん逃げちゃいましたね｣

地に下り、足が痺れて立ち上がる事も出来ないトウコにノボリが自身の手を差し出し彼女はその手を握りふらつきながらも立ち上がる。
側ではトウヤが痺れた足をクダリにつつかれ悶絶しているがトウコは構わず、ここまでノボリとクダリを運んだランクルスに礼を言ってランクルスをボールに戻す。

｢どうします？

サクラさんあんな様子でしたし今日は諦めてギアスステーションに帰りますか？｣

トウコの問いにノボリは否と首を横に振るう。

｢いえ、せっかくトウコ様やトウヤ様が私共の背中を後押しをして此処まで私共を連れてきていただいたのです。

今更引き返す事など出来ましょうか｣

先程迄の弱腰が嘘の様に真っ直ぐな目をしたノボリにトウコは笑い、彼の背中を勢いよく叩いた。

｢頑張って下さいね。

私も応援だけはしてますから｣