よし、とトウヤは自身の手を叩く。

｢今から皆でサクラさんの家に行きましょう！｣

トウヤのその提案に賛成したのはトウコ。
彼女はお腹を擦り

｢お腹も空いたし｣

と笑って言った。
そんなトウコに対し反対意見を述べたのはノボリとクダリ。

｢今からサクラ様と会うと言うのは｣

｢顔、合わせづらい｣

トウコとトウヤには何だか聞き覚えのある二人の反対理由。
しかし、トウコもトウヤも｢はいはい分かりました｣と引き下がれるわけがなく食らい付く。


｢二人がサクラさんと顔が合わせづらい何て私達にはどうでも良いんです｣


と言うかトウコもトウヤもサクラの家に行こうと言って二人が難色を示すのは予想済みだった。
二人にはノボリとクダリの事情等どうでもよくて、あくまでも目的はバトルサブウェイでサクラと共にバトルする事。

その為ならば


｢なので、力づくでいきますね｣


強行策も厭わない。
トウコが手にして構えたのは一個のモンスターボール。
中から出てきたのは透き通る緑のゼリーの様なボディと印象的な二本の腕で、ランクルスを召喚したトウコはボールから出たばかりのランクルスに"テレキネシス"を命じる。

重力を受けていないかのかのような浮遊感に

｢わ！僕達浮いてる！｣

｢トウコ様下ろして下さいまし！｣

二人の反応は異なっていた。
自分達の体が浮く今の状況を楽しむクダリ。
それに対しノボリは自分達を地に下ろすようトウコに頼むのだが、彼女は構わずトウヤとこの後の相談を始める。

｢トウコ、この後はどうする？｣

｢どうするって私の手持ちにはサクラさんとこのラルトス君みたいなテレポート持ちはいないし｣

｢じゃあ、やっぱり｣

トウヤは顔を歪めトウコは意地の悪い笑みを浮かべた。

｢このままライモンの街を歩くしか無いでしょう｣














ピンポーン

まだ早い朝のチャイムにサクラは返事をして立ち上がった。
彼女につられてか同じく立ち上がるＮ。

｢何でついてくるんですか？｣

｢何となくだよ｣

わざわざ自分の後に付いて歩くＮがコアルヒーの雛に思えサクラは小さく笑った。

｢どうして今、笑ったんだい｣

小さく笑ったつもりだったのにＮには聞こえていたらしい。
今こそ怒っている様子は無いが怪訝に思っているのだろうまっすぐにこちらを見つめるＮの視線がサクラの背に刺さる。

｢ねえ、｣

｢気のせいです｣

｢どうして｣

｢気のせいですって｣

｢今笑ったの？｣


｢だから、｣


気のせいです！とサクラは玄関の扉を開けた。

｢うおっ｣｢あ、｣

サクラが勢いよく開けた扉の前にはほんのり顔を赤くした老人の姿。

｢何だ何だ。扉を開けてくれたのはありがたいが急に開けたら危ないだろう｣

｢ごめんなさい｣

扉の事を注意しながら家に入った老人はルージュラに肩を支えてもらいながらサクラ達の前を通り過ぎ、家の奥へと向かう。
老人はサクラの後ろにいたＮに気付かない程酔っているのか彼の側を素通りするが、老人を支えていたルージュラは目敏く彼に気付いて

『あら、可愛い坊やね』

ウインクする。

『お姉さんがたっぷり可愛がってあげる。後で私の部屋にいらっしゃい』

去り際には投げキッスを送り、老人と共に家の奥に消えたルージュラ。
大抵の人間は分からないルージュラの言葉なのだが、ポケモンの言葉が分かるＮにはばっちり聞き取れていて

｢姐さんに誘われましたけど｣

自分の服の袖を確り握るＮを見れば余程恐いものでも見たかのような顔をして震えていた。

｢彼女みたいな友達は会ったこと無い｣

｢無いでしょうね。姐さんは見た目普通のルージュラですけど中身は必死に婚活する結婚適齢期を越えた人間の女性ですから｣

しかしルージュラにとって先程のは只の挨拶。
酷い時には相手に無理矢理のしかかって襲いかかるのでＮはまだましな方なのだ。

｢姐さんはＮさんの事が気に入ったみたいですし、お付き合いしてみてはどうですか？｣

何て意地悪に提案すればＮは驚いた顔をする。

｢え、｣

嫌とは言わないがサクラの服を握る彼の手の力は強まった気がした。
顔に困惑の色を強く出したＮにサクラは｢冗談ですよ｣と一言。

今、自分がからかわれているのだと理解したＮは体の力でも抜けたかの様にサクラの肩に凭れかかった。

｢・・・酷い｣

｢軽い冗談のつもりだったんです｣

Ｎにとっては笑えない話だったらしい。
サクラの首に自身の腕を回したＮは彼女の白い首筋に顔を埋めた。


｢Ｎさん、くすぐったい｣

｢首、弱いの？｣

Ｎの吐く息や長めの髪がサクラの首に当たり緩やかな刺激を与える。
まるでぽけじゃらしで首の辺りを撫でられているような擽ったさが嫌でサクラはＮの顔を首から離そうとするのだが、彼は自身に伸ばされたサクラの手を掴むと再度彼女の首筋に顔を埋めた。

｢首が弱い何て意外。

じゃあ此処は？｣

とＮが手を伸ばしたのはサクラの脇腹で、彼女は笑い声を我慢しながら首を横に振るのだがＮは構わず彼女の脇腹に触れた。