辺りに鳴り響く電子音。

嫌な予感がするとクダリは思った。
側に立っていたサクラが自分のライブキャスターが鳴っているのか確かめているが違う様で

｢クダリさんのじゃないんですか？｣

と言われて、見れば確かに音を出すのは自分のライブキャスターだった。
相手は非通知で益々嫌な予感がする。

今だ鳴り止まない電子音にゾロアの姿をしたゾロアークがサクラの肩に乗りクダリを見る。

『さっさと出ろよ』

と言わんばかりの視線にクダリは観念してライブキャスターの通話ボタンを押した。

瞬間の怒声である。

ノボリの怒声をBGMに慌てた駅員が何か言っている。

ダブルで、客が、13勝、

今、14勝しました、

すぐに、早く、

『帰ってきて下さい！！』

そこでブツリと消した。
クダリはどうしようと顔を青ざめる。

｢急いでいるんですか？｣

｢うん、挑戦者が勝ち進んでて！
ああ、どうしよう！14勝目じゃ今からアーケオスに乗って帰っても間に合わないよ！！｣

どうしよう、どうしようと言っているクダリを見てサクラはゾロアークに何か話していた。

｢クダリさん、落ち着いて下さい｣

｢無理だよ。落ち着いてられない、このままじゃダイヤが乱れて｢落ち着いて下さい｣はい｣

落ち着くようクダリに指示したサクラはクダリの目を見て言い聞かせる様に、催眠術師が術をかけるかの様な落ち着いた声でいう。

目を瞑って、

貴方が行かなければならない場所を頭に浮かべて、

念じなさい。

そこで肩に何かが乗せられた。
乱れる集中、乱れる意識をやはり落ち着いた声で

｢集中しなさい｣

と言われる。


｢ケーシィ、テレポート｣


体を一瞬の浮遊感が襲った。
目を瞑っていて今、何が起こったのか分からない。
だが、地が揺れていて耳にはガタゴトと聞き慣れた音が聞こえていた。

ここは、

｢電車の中？｣

しかも目を開き辺りを見れば自分の仕事場であるダブルトレイン。
肩に感じる重みに視線を移すと見た事のないポケモン、だがその姿はゾロアの姿に変わった。

｢ゾロアークのイリュージョン？｣

そうだと言わんばかりに肩に乗ったゾロアは頷く。

｢"挑戦者が20戦目を勝利しました"｣

そんなアナウンスが車内に流れた。
クダリの肩から床へと降りたゾロアの姿がまた見た事のないポケモンへと変える。
それを見てクダリはゾロアークが帰るんだと分かった。

｢帰ったら君のご主人に伝えてありがとうって｣

ゾロアークは霞んだ姿で鳴くと消えた。
それと入れ換わる様に入ってくる挑戦者にクダリは何時もの笑みを浮かべる。



｢僕クダリ。

サブウェイマスターをしてる。
ダブルバトルが好き、２匹のポケモンのコンビネーションが好き。
そして勝利するのがなにより大好き。

じゃ、それぞれのポケモンがさまざまな技を繰り広げるすっごい勝負はじめる｣







｢珍しいな｣

煙草の煙を吐き出す彼の呟きを拾ったサクラは｢何が？｣と尋ねた。

｢お前が人とあんな楽しげに話すのだ。
何時ぶりだ？わしの記憶が正しけりゃあのトウヤとトウコとかいう双子が来て以来か｣

｢おじいちゃん、もう呆けたの？
私がおじいちゃん以外の人と楽しく話したなんて今も無ければ前もないよ｣

そうだったかな？と彼はにやにやとサクラを笑い眺めた。
その視線から逃れる様に畳み終わった洗濯物を持って部屋を出ていってしまう。

｢あんな事言いながら先生を使って相手を送らせた｣

素直じゃないな、と溢した彼の呟きは煙草の煙りと共に何処かへ消えてしまった。