｢ああ、この写真。

あいつが坊主等にって作ってた弁当だな。
しかし何でこんなぐちゃぐちゃなんだ？｣

写真を手に老人は確かにそう言っていた。



｢あー｣

と溜め息でも吐くように唸り声を上げたクダリをノボリは何事かと見つめる。
頬に手をあて、ぼんやりするクダリは何時もの様で何時ものクダリでない。
何か悩み事でもあるのか？まさかクダリが悩みを？と自分で考えあり得ないとその考えを一蹴りしたノボリ。

まさか自分を観察され失礼な事を考えられているとも知らずクダリは｢うー｣と唸り声を漏らした。


サクラのゾロアークに頭を蹴られ意識を失ったノボリの付き添いに部屋を出ようとしたクダリは老人の呟きを耳に拾ってしまう。
始めは意識を失いストレッチャーに運ばれるノボリに気が向いていて老人の呟きは聞き流す感じだったのだが後から思い返してみれば老人はかなり気になる事を言っていた。


"この写真"はきっとノボリがサクラちゃんに見せてた"ゴミ箱に捨てられた弁当の写真"

おじいさんが言う"あいつ"はサクラちゃんの事で"坊主等"は僕とノボリの事。

あいつが坊主等にって作ってた弁当って言ってたけどつまり、あの捨てられた弁当はサクラちゃんが僕達の為に作ってくれた弁当だった？


"僕達の為に"と自分で言ってクダリは嬉しくなるのだが謎は増えるばかり。
結局、ノボリが蹴られ意識を失なった騒ぎで何故サクラが弁当を捨てたのかもクダリは聞きそびれていた。

｢クダリ？｣

ノボリがクダリの肩を叩く。
用は何か、クダリが尋ねればノボリはクダリの様子が変なのを気にして声を掛けたのだと言った。

｢何かあったのですか？｣

ノボリは相談でも何でも乗るつもりで声を掛けたのだが当のクダリからは｢んー｣とか｢あー｣とかまともな返事が返ってこない。
そんなクダリにノボリはますます気になる。

｢一体昨日、私が気を失っている間に何があったのでございます｣

｢ノボリ、聞きたい？｣

クダリのその返しに当たり前だと答えればクダリは力ない笑みを浮かべ

｢きっと聞いたら今の僕みたいになるよ｣

と言った。













部屋の扉をノックする音に新聞を読んでいたサクラは顔を上げる。
扉の側には薄桃色の花束を腕に抱いた老人が立っていた。

｢あれ、おじいちゃんどうしたの？｣

ソレと指差した花束に老人は｢お前宛のもんだ｣と軽く、投げるようにその花束をサクラに渡す。
渡された花束は老人が持っていた時よりも大きく見えた。

｢わっぷ｣

一瞬、溺れるかと思う程の大きな花束にサクラは頭を傾げる。

｢おじいちゃんが買ったの？｣

普段、店の経営以外は口煩く節約を唱える老人が自分に花束を？
自分で考えた事ながらサクラはあり得ないと思った。

｢なわけないだろ｣

｢だよね｣

老人の否定にあっさり納得するサクラ。
しかし、花束を買ったのが老人でないのなら送り主は誰なのかサクラには疑問が残る。
まるで薄桃色の綿の塊にも見える花束の形を崩さないよう、下を覗き込むが目当てのメッセージガードなるものは見当たらない。

｢ねえ、おじいちゃん｣

と丁度、老人がサクラの額に何かを貼り付ける。
額に走る粘着テープ独特の感触にサクラは貼られたそれに触れて勢いよく剥がした。

｢？！！｣

貼られた時か剥がした時か、何時かは兎も角粘着テープがサクラの髪の毛を数本巻き込みそれを何も知らず剥がした瞬間にサクラは額に走る痛みにベットの上で悶える。

｢なにやっとんだか｣

呆れて見下す老人の視線にめげず顔を上げたサクラは何とか剥がしたそれを見た。

知らない名前。

覚えのない名前に頭を傾げていれば

『あの白黒じゃなくて残念そうだな』

｢ばっか！｣

余計な事を言ったゾロアークの背中をサクラは勢いよく叩いた。