｢寝ちゃ駄目！！｣


｢何なんですか？！

私は眠いんです寝かせて下さい｣


昨日は変わった訪問者のせいであまり眠っていられ無かったんだとサクラは言うのだがクダリは聞き入れず何度も眠ろうとする彼女の邪魔をする。

｢僕、僕、サクラちゃんが病院に運ばれたって聞いて｣

クダリの顔が歪んだ瞬間、サクラは彼が泣く！と思ったのだが

｢あー良かった。

やっと目が覚めたんだね！｣

調子はどうだい？とさっきまでノボリとクダリを追って注意していたナースを連れた医者の登場にクダリは泣かなかった。

｢あーちょっと君達邪魔だからそこ退いて｣

軽く診ると言った医者はベット側に立っていたノボリとクダリをそこから追い出し触診を始める。

｢サクラちゃんだっけ？君は昨日、此処に運ばれた時の事を覚えているかい｣

｢全然｣

そんな答えで返せば医者は｢そうだろう｣と笑った。

｢割れたガラスか何かを踏んだんだろうね。その傷が原因で、39度を越える高熱で意識を失っていたんだ｣

医者に言われてサクラは自分の足が怪我をしている事を思い出す。
遊園地でうっかり刺してしまった足を上げて見れば綺麗に包帯が巻かれている。

｢傷口は軽く膿んで来ていたから運ばれてすぐに洗浄し、手当てしておいたよ。
熱もさっき測って貰ったのをみたけど薬が効いてるみたいで一晩たてば平常に戻ると思う。

後は、｣

医者は外れた点滴の針を変えるとサクラの腕を掴み、針を刺し直す。

｢点滴が外れないよう安静にしておくだけだね｣

針を刺し直されたサクラの腕を布団の上に戻し、再度安静にしている事を念を押し医者は部屋を出ていく。

｢じゃあ、何かあったらそこのナースコールで呼んで下さい。
見舞いの方はくれぐれも

静かにお願いします｣

サクラは頷き、わざわざナースに念を押さえたノボリとクダリはサクラの説教も聞いて大人しく頷いた。
ナースが部屋を出ていくのを見届けてサクラは今度こそと布団に潜ろうとするのだが、肝心の布団が彼女の手元にない。
探せば探し物はクダリの手の内。

｢布団、返して下さいよ。先生も安静にしていろって言ってたじゃないですか｣

聞いて無かったんですか？と尋ねるがクダリの反応はない。

｢足、いつ怪我したの？｣

どうして今、そんな事を聞かれるのだろうか。
熱のせいなのかぼんやりしている頭を使うが分からない。

｢確か昨日の昼間は何ともありませんでしたね。もしかしてその傷はプラズマ団に・・・？｣

そうノボリが言った途端、言った本人であるノボリとクダリの目が厳しいものになった。

｢何なのあのプラズマ団。サクラちゃん事件に巻き込んだ上、怪我させたって｣

｢本当ですね。嫁入り前のサクラ様に怪我を負わせるとは私、今すぐにでもプラズマ団を潰したい気分にございます｣

｢ノボリ、さん？｣

｢それ良いね。今、プラズマ団ポケモンリーグに現れたってニュース入ってたし丁度いいから殴り込みに行こうか｣

｢クダリ、さん？｣

余りにも普段と違いおどろおどろしい彼等の姿にサクラは何とか二人から離れようとベットの端に移動するのだが、個室の病室とはいえベットはシングルサイズ。
そんなに幅のないベットにうっかり手を滑らせたサクラの体は後ろに傾く。
腕から上半身へと落ちて行き、足が天井へとまっすぐに伸びる。
床へと落ちていくサクラの体を支えようとノボリとクダリは彼女の腕を掴む。


｢吃驚した｣


｢それは、｣

｢私達の台詞にございます｣

ノボリはサクラをベットの中央に戻し、クダリは預かっていた布団を彼女の体にかけた。

｢お二人共、何か勘違いしてるみたいですけどこの怪我は私が不注意でガラスを踏んで出来た傷ですよ｣

｢プラズマ団は？｣

｢全然関係無いですね｣

そう言い切れば二人は安堵の表情を浮かべるのだがすぐにそれは変わる。

｢サクラ様、｣

｢何ですか？｣

まっすぐに此方を見つめる灰色の瞳。
ノボリが今から言おうとすることに気付いたのかクダリもノボリの様にまっすぐとサクラを見つめた。

｢私共、貴女様にお尋ねしたい事があるのです｣