視界いっぱいの白い天井に

薬の匂い、

腕に繋がれた点滴を見て

｢何でこんな所にいるんだろ｣

呆ける頭でサクラは思った。

腕に刺さる点滴が抜けないよう、ダルい体を起こしサクラは部屋中を見渡す。
ベット側の棚には小さなテレビが、枕元にはよく医療ドラマに出てくるナースコールと呼ばれる長いコードの付いたスイッチ。
それにベットの壁には自身の名前と街で一番大きなの病院の名が記された札が下げられていた。

自分がいるのが病院だと理解したサクラは再度、布団へと潜り込む。
警察署で渡された堅い毛布とは違い病院の布団はふわふわふかふかで、何故自分が警察署でなく病院にいるのか不思議に思ったが今はどうでも良い。

｢病院も用があったら起こすだろうし｣

それまではこの布団で眠っていようとサクラはふわふわふかふかの病院布団にくるまり目を閉じた。




｢・・・う～ん｣

サクラが眠って暫くが経ち、急に外が五月蝿くなりだす。
バタバタと誰かが走り騒ぐ音、それを止めようと叱る声。
そしてその二つを止めさせようとする声。

部屋の扉を閉めている筈なのにそれでも聴こえる騒がしい声にサクラはうっすら目を開ける。
『院内ではお静かに』が共通ルールの病院で騒ぐのは何処の馬鹿だと悪態をつきながら寝返りをうつのだが、サクラは聞いてしまった。

｢サクラちゃん何処ーっ｣

｢いい加減その大声は止めなさいクダリ！！｣

｢二人とも此処は病院ですのでお静かにお願いします｣

聞き覚えがありすぎる知り合いの声にサクラの頭はだんだんとはっきりしてくる。
それどころかはっきりを通り越え痛み出す頭を押さえながらベットを下りたサクラは刺さる点滴に構わず部屋の扉を開けると、部屋の丁度手前にいた黒白に声をかけた。

｢ノボリさん、クダリさん｣

さきにサクラに気付いたのはクダリで、主人を見つけ駆け寄るガーディーの様に近付いてきたクダリの腕を引き込み部屋へ放り込み追い付いたノボリも中へと招く。
最後に二人に懸命に注意し続けたナースに頭を下げて扉を閉めた。

｢先生！201号室の患者さんが目を覚ましました！！｣

壁を挟んでも聴こえるナースの声を聞き流しながらサクラは部屋に押し込んだ二人の前に立つ。

｢クダリさん！｣

｢はい、｣

サクラの低い声にクダリは慌てて床で足を組み正座をする。

｢病院内で静かにするのはルールでありマナーです！なのにあんなに大きな声を上げて、クダリさんも良い大人何ですから確りして下さい｣

｢そうですよクダリ。貴方は病院に入るなり大声でサクラ様の名前を何度も連呼して｣

サクラが何か言わなくても自主的に正座をしていたノボリは何時もの様にクダリの説教をし出す。
サクラはその説教をぼんやり見ているのが常なのだが、サクラにはまだ言い足りない事がある。

｢ノボリさんも、大声を出すクダリさんを説教するのは良いんですが説教する声が大き過ぎます｣

その声の本人も気付かない大きな音量に二人の後ろを付いて追っていたナースは声を上げる者、それを叱る者、を同時に疲れきった表情で注意し続けていた。

｢私の声、そんなにも大きかったのでございますか？｣

一人驚くノボリにサクラもクダリも頷く。

｢此処は病院何ですからお二人共静かにお願いします｣

｢申し訳ございません｣

｢分かった｣

分かったらしい二人を見てサクラは布団に潜り直す。

｢じゃあ、おやすみなさい｣

と声かければ普通に返事が返ってきたので目を瞑ったのだが、その直後サクラはクダリに布団を剥かれ起こされた。