双子と弁当屋の娘
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「・・・・・・は、」
壁がぶっ飛びました。
警察で事情聴取を受けて結局拘置所に入れられた私ですがその直後、拘置所内の壁がものの見事に吹き飛びました。
え?何で?
訳が分からない。
コンクリートの壁が吹き飛んでも見張りのジュンサーさんは来てくれません。
というか檻の向こうも何やら騒がしい。
「君が警察に捕まってるって人から聞いたんだ」
舞う土埃の向こうから声が聴こえた。
此方に向かってくる足音は壁に空いた大穴の向こうから、小石を踏み鳴らしながらこちらへ向かってくる。
「君は只、プラズマ団から人間を守っただけなのに
ついてないね」
同情するかの様な憐れむ様な、それでいてサクラを嘲笑うかの様な声。
舞う粉塵の向こうから現れた男を見て、サクラはあからさまに嫌な顔をした。
現れたのはおとぎ話に出てくる王子様などではなく
昼間のストーカー野郎。
「何でここに貴方がいるんですか。
警察署の壁を壊して、最悪逮捕されますよ」
「それは大丈夫。彼等は僕が壁を壊した事を気にしている暇もないよ。
彼等はそれどころじゃないからね」
「それどころじゃないって・・・」
「昼間は君に逃げられたけど此処ならゆっくり話が出来る」
そこで今、自分がどういう状況に置かれているのか気付いた。
自分の前には昼間のストーカー野郎と何か大きなポケモンが、後ろは冷たい鉄格子。
ジュンサーさんは壁に大穴が開いても来てくれ無かったので途中でここに駆け付けてくれる期待は薄いし、手持ちは今取り上げられていない。
これはかなりまずいのではないだろうか。
何がって私の身の安全とか
思わぬ人物の登場で困惑せずにはいられないサクラを前に男は冷たい拘置所の床に腰を下ろした。
「今度は逃げられないよ」
「みたいですね」
前も後ろも塞がれて、助けも期待出来ないこの状況に腹をくくったサクラは目の前の男と同様に床に腰を下ろす。
「で、私に話ってなんですか」
相手を見据え「手短にお願いします」と言ったサクラは何かあった時にすぐ攻撃出来る様、拳を膝に置く。
男は相変わらず濁った目をしていて薄ら寒い笑みを浮かべている。
「僕はもう一度問いたい」
問いたいとはきっと昼間の質問。
"モンスターボールに閉じ込められたポケモンは果してシアワセか否か"
昼間にどちらともとれぬ答えを返したが、彼はその答えに納得していないのであろうわざわざ拘置所の壁を破壊して迄聞きに来た。
問いからして、彼はポケモンが"幸せ"か"不幸"のどちらかを聞きたいのだろうがサクラの答えは変わらない。
「ああいう質問はポケモンに聞いてみないと」
「僕は答えを二択でしか求めていない。君の答えが聞きたいんだ」
「人間の私にポケモンの気持ちを聞いても仕方ないですよ。
ポケモンがどう思ってるのかはポケモンに聞かなきゃ分からない」
人間でも互いの気持ちを汲み取る事が出来ない時があるのに、ポケモンの気持ちを人間が汲み取る事が出来るとは思えない。
だったら直接、ポケモン達から聞いた方が早いとサクラは思うのだが
「聞いても分からないから君に聞いたんだ。僕の前に表れるポケモンはみんな不幸だった。悪いトレーナーに利用されるだけ利用され、傷付いていた。そんな彼等を僕は助けたい」
いくら問われてもサクラの答えは変わらないのに男はそれを受け入れず、二択の答えを求めてくる。
「ボールから解放し、人間達と区分してポケモンはそこで完全な存在になれる」
「貴方がボールに入れられたポケモンが皆不幸だと思うのならそうなんじゃないんですか?」
「随分、投げ槍な答えだ」
「じゃあ、どんな答えをご所望で?生憎人の考えを真っ向から否定する趣味はないの」
「否定はしていないけどそれは君の答えじゃないよね」
確かにサクラが答えたのはあくまでも男の意見を尊重したものでサクラの個人の意見ではない。
「僕は始めに言った筈だ。
君の答えが聞きたいと」
「答えは二択のみですけどね」
サクラは嫌味たらしく言ってみたが男は無反応だった。
寧ろ真剣な面持ちで見つめてくる彼にサクラは居心地の悪さを感じながらも頬を掻く。
あまりにも彼が真剣な顔をしていたのでちゃんと答えなければいけない気になってきたのだ。
「さっき貴方な答えに乗っかる感じでポケモンは不幸だって答えたけど、あれは半分くらい私の答え」
「半分?」
「そう、半分。悪いトレーナーに出会って不幸なポケモンもいれば良いトレーナーに出会って幸せなポケモンもいる」
結局、二択どちらかを選んだわけではないがサクラはこれ以上どう迫られても答える気はない。答えられない。
「私は全てのトレーナーとポケモンを見てきたわけじゃないからどっちの割合が多いか何て分からない。もしかしたら不幸なポケモンが多いかもしれないし逆に幸せなポケモンが多いかもしれない。
貴方はどちらが多いか知りたいみたいだけどそれなら自分の目で確めた方が良いよ。見て、聞くのとじゃ全然違うから」
「僕の、目で」
「そう貴方自身の目で」
ぐにゃりと、一瞬だけサクラの視界が歪んだ。
それと同時に目眩が起きてサクラの体が微かに傾く。
「・・・調子が悪いのかい」
サクラの体が微かながら傾くのを見ていた男はまるでサクラの身を案じる様な言葉をかけてくる。
「ちょっと目眩がしただけですから」
大丈夫、大丈夫とサクラは男におどけて見せたが確かに自身の体が重くなるのをサクラは感じていた。
体が重いだけではない、服装のせいかもしれないが体を這いずる様な寒気。
「君をここから助けても良いよ。
丁度壁に穴を開けたばかりだから、僕が君を警察の手が届かない様な場所に連れて行ってあげる」
差し出されたのは色白の大きな手。
それはサクラなりに彼の質問に答えたお礼だとでも言うのか突然の申し出に思案する隙なくサクラは首を横に振った。
「どうして、君は覚えもない罪でここに入れられているんだよ」
「それは私が疑われるような態度をとったから、私がここにいるのは自業自得なんです」
「君がここに入れられたのはプラズマ団が仕掛けた事だって聞いても出る気はないのかい?」