５番道路はライモンシティーとホドモエシティーを結ぶ跳ね橋の手前にある道路で、昔からホドモエより向こうの街の人々がライモンへと向かう交通の要所であった。
それは地下鉄が普及した現代でも変わらず、特に沢山のトレーナーがライモンとホドモエの間を行き来するために通っている。
そこは人が沢山行き来するため何時からか腕試しに自分のパフォーマンスを行き交う人々に見てもらおうとパフォーマーが多く集まる様になった。
演奏、マジック、絵描きにとジャンルは様々、己が腕をふるう彼等の中で一際人目を引いているのが

｢ラルトス！"マジカルリーフ"｣

ポケモンバトル。
いくら凄いパフォーマンスが見れてもトレーナー達はついついバトルの方へと足を向けてしまう。

ラルトスがサクラの命令に両手を上げると地面に落ちていた落ち葉が浮かびだす。

まるで落ち葉に己が意思でもあるかの様に襲ってくるので男は避けさせるのに必死だった。

｢ヒヤッキー何とかかわせ！！｣

当たれば効果抜群の技。
既にラルトスから"どくどく"を受けており、身体を侵食する毒にふらふらなヒヤッキーはここで技を受けると瀕死は確実だった。
避けても避けてもヒヤッキーを狙う落ち葉が迫ってくる。

｢"れいとうビーム"だヒヤッキー｣
もう避ける事を諦めたらしい男はヒヤッキーに"れいとうビーム"を命じた。
冷気を帯びた光線が迫る落ち葉を凍らせて地面へ落とす。
"絶対"に当たる筈の葉っぱの攻撃を見事撃ち破った男に周りからは称賛の拍手。

観客は｢今度こそ｣と互いに囁き合う。

｢彼ならあの子供に勝つ事が出来るかもしれない｣

そう話す観客の中には、少し前にサクラに負けて泣く泣く全財産を取られた者もいた。
高まる周りの期待にバトルをしていた男にも気合いが入る。


｢あの様子じゃ気付いてないな｣

バトルを遠巻きにジュースを飲んでいたトウヤが口を開く。

｢気付いてないんじゃない。
あの人もサクラさんに全財産取られちゃうね｣

トウコは机に置かれたクッキーを摘まみ、ご愁傷さま！と笑った。

｢よし、ヒヤッキー後少しだ

"シャドークロー"｣

技の選択に観客の誰かが｢効果抜群だ｣と声をあげる。
駆け出したヒヤッキーの手から爪が伸びるもサクラは何も命令しない。
防御も攻撃も、避ける事すらも
禍々しい力を帯びた爪がラルトスの目の前で振り上げられた。
男の勝利を本人が観客が確信した瞬間。


どくん、

とヒヤッキーの体が跳ねる。
振り上げた腕を下ろせぬままヒヤッキーの体が前へと傾く。
此方へと倒れてくる水色に瞬時でサクラの腕にテレポートしたラルトスは倒れたヒヤッキーを見下した。

｢ヒヤッキー、戦闘不能｣

頼んでもいないのに何時の間にか審判をしていた手品師は審判が旗を振り下ろす様に持っていた万国国旗を地へ振り下ろす。

｢ヒヤッキー・・・どうして｣

理由も分からず倒れた相棒に男は呆然としている。
ヒヤッキーは徐々に体力を削る"どくどく"を受けてはいたがそれほど重い状態では無かった筈なのに

倒れてしまった。

｢"みらいよち"よ。

ラルトスが貴方のヒヤッキーに対して攻撃を予知したの
この技は相手のタイプを無視して攻撃をする｣

｢だからヒヤッキーが倒れたのか｣

サクラから説明されてやっと分かった男は地面に倒れたヒヤッキーをボールに戻すと彼女に近付いて握手を求める。
出された手に答えて手を握れば周りからは男の健闘を讃えてか、またも拍手が起こった。
｢残念だったわね｣｢惜しかったな｣と観客から声をかけられて男は苦笑いを浮かべる。

｢バトル楽しかったよ。

また僕とバトルしてくれないかい？｣

｢喜んで｣

握手を終えた男は鞄から財布を取り出し、中を覗く。

｢・・・あの｣

何やら様子のおかしい男にサクラは首を傾げる。
どうしたのか聞こうとしたその時、男は此方へと顔を向けて何かぼそぼそと言うのだが何を言っているのか全然聞き取れない。

意を決して、男は大きな声で言う。

お金が足りないと

昨日、友人と飲みに行ったままうっかりお金をおろし忘れてたみたいだと男は話した。
男の財布には千円札が三枚と小銭が少々、どうしようと視線を送る男にサクラは微笑みを向けて肩を掴む。

｢おろす金があるならさっさとおろして来て下さい｣

有無を言わせない笑顔と肩に込められた力に男の返事は｢はい｣しかなかった。
回れ右をした男は慌ててお金をおろしに走り出す。
その光景は観客も見慣れた物だ。
｢今度はイケると思ったんだけどな｣と彼のバトルを惜しむ声。
そんな観客にサクラは声をかける。


｢ポケモンバトル負けたら３万勝ったら十倍

誰か挑戦しませんか｣