じゃんけんに負ける事が出来、私はレジで会計を済ましていました。
どちらが会計をするか決めかねていた私たちにじゃんけんで決めては？と妙案を授けてくれた店員に礼を言えば彼女は笑い｢可愛らしい彼女さんですね｣と言われてしまいます。
サクラ様とはそういった関係ではないのですが・・・私はきっぱり否定すべきなのにそうは出来ませんでした。

会計を済まして店を出ようとした時、窓際に座っておられたお客様達がざわつきました。
何事かと私もレジにいた店員も外を見ればサクラ様が男にナイフを突き付けられていたのです。

ああ、なんという事でしょう。





大丈夫かと心配して抱き締めてくれていたノボリの表情は何時も以上に険しかった。
ノボリの側には幾つもの歯車が付いたポケモン。
ナイフ男とズルズキンに歯車をぶつけたのはこのポケモンのようだ。

先程迄はナイフ男に脅されて身動き出来なかったゾロアークはサクラの頭から降りて肩に移ると『ごめんな』と言って頬擦りしてくる。

｢何でゾロアークが私に謝るの｣

『お前を助けられなかったから』

そう言ったゾロアークは余程落ち込んでいるのか、日常的にゾロアに化けているのも考えものだとも言った。
確かにゾロアークの姿のままでいれば威嚇も様になるし、頼もしいが

｢大きいと頭や肩に乗せられないよ｣

流石に自分とそう変わらない身長のゾロアークを頭や肩に乗せるなんて無理だ。
下手をすればこちらが潰れる。

『・・・それは嫌だ』

首を振り、ゾロアークは私の服に潜り込む。
さっきの事が合ってかゾロアークは妙に甘えてくる。

｢サクラ様、申し訳ございません｣

｢何でノボリさんまで謝るんです｣

まして、ノボリはサクラを助けてくれた人物なのに
尋ねれば今だ抱き締めていた腕の力が強まった。

｢私が近くにいながらサクラ様をあの様な目に遇わせてしまいました｣

｢いや、元々の原因は私にありますし｣

ナイフ男を思いっきり蹴り飛ばしたなんて言えず、サクラはあやふやに説明。
だが、ノボリの気はそれでも晴れないのか今だ彼の腕から解放されない。
それどころか締まる腕に、先程服に潜ったゾロアークの苦し気な声が胸の所から聴こえる。

｢それでも私はこんな近くにいながらサクラ様をすぐにお助け出来なかった。

私はそんな自分が怨めしい｣

顔を上げたサクラがその冷やかな指でノボリの唇に触れた。

｢噛まないで

傷がつくから｣

そう言えば唇を噛んでいた力が弱まる。
灰色の瞳がサクラを捉え、サクラを覆い隠すかの様にノボリは凭れ、彼女の首に顔を埋めた。


今日は甘える日なのだろうか

普段の彼からは想像出来ないスキンシップの多さにサクラがぼんやり考えていれば遠くにパトカーのサイレンが聴こえた。
何故か近付くサイレンに、喫茶店にいる誰かが通報したのだろうと考える。

このままでは不味い。

ここにいればナイフを突き付けられた被害者として警察に事情聴取されるのは必須。
事情聴取となればこちらの身元が調べられ最悪、彼処に今回の事を連絡される。
と、なるときっと彼等はまた五月蝿く連絡を寄越す。

先の見えた未来はサクラが嫌いな面倒臭い事ばかりで、ノボリの腕から離れたサクラは｢逃げましょう｣と彼に告げた。

｢何故、逃げるのです？｣

サクラは被害者でやましい事など一つも無い、ならば警察が来ても逃げる必要なない筈なのだ。
なのに何故かサクラは警察から逃げたがった。

｢警察に掴まって貴重な休日を無駄にはしたくないですから｣

ノボリの疑問にサクラはそう答えた。
半分は嘘だが半分は本音であるのでノボリの目からはサクラが嘘をついている様に見えない。

｢ノボリさんも一緒に逃げましょう｣

サクラの"一緒"という言葉にノボリは言い様のない魅力を感じる。
だが、周りから真面目だと評されている彼にはこの場を放置する事など出来なかった。
サクラの申し出に答えを渋るノボリ、パトカーのサイレンはすぐそこにまで聴こえている。

｢ですが、｣

返答に悩むノボリにサクラは手を差し出す。

｢私と、一緒に｣

そこでサクラの言葉が止まった。
ノボリがサクラの手を握ったからだ。

｢逃げましょう！｣

｢・・・はい！｣