バタンと休憩室の扉が飛ばされる勢いで開いた。

｢クダリ！！貴方という人はまた彼等に迷惑をかけて｣

開いた扉から入って来たのはクダリと瓜二つな顔に黒い制服を着た男と、先程クダリが暴れていた際に先輩命令で休憩室を飛び出した駅員だった。
明らかに怒り心頭と言った男にクダリは｢ノボリ！丁度いいところで来た｣と彼の名を呼び笑顔を向ける。

｢？クダリ、貴方は今から私に怒られる事を分かっているのですか｣

｢うん、分かってる。でもノボリのお説教を聞いてる程僕も暇じゃない｣

｢はぁ？｣

ノボリが漏らした短い言葉には｢おい、ふざけんじゃねぇよ｣と言う彼の心の声が含まれているのだが当の本人は知ってか知らずか、笑い｢じゃあ、出掛けてくるね｣と手を振り休憩室を出る。
パタンと扉が閉まると同時にそこにいた駅員達の視線がノボリに向けられた。
まるで"オーバーヒート"しているかの様に彼の周りには蒸気の熱が上がっている。

ノボリもクダリの様に"あばれる"のかと周りは一歩二歩と技が発動するのも時間の問題であろうノボリから距離を取った。

そんな時に休憩室の扉が開き、そこから顔を出したのは先程出て言った筈のクダリで彼は｢あのさ、｣とノボリに声をかける。

｢・・・・・・何でしょう｣

｢それ、｣

とクダリが指差したのはノボリがもっていたお弁当。

｢ああ、また貴方家に忘れていたので持ってきたんです。どうせ今日もタブルの車両で食べるので｢うん、そのお弁当。僕今日は要らないから｣は？｣

用件を伝えるとクダリは｢じゃ、｣と今度こそ消える。
クダリの言葉に立ち尽くしていたノボリは突然片手で顔を覆うと笑い出す。
渇いた笑い声に駅員達は只成らぬ恐怖を感じた。
ノボリの笑い声しか聴こえない休憩室に誰かが生唾を飲み込む音が聞こえる。
先程、ノボリが"オーバーヒート"していたせいだろうか、熱の籠った休憩室に駅員達の額からは汗が出た。
ひたすら笑っていたノボリであったが笑う声と声の間隔が長くなって来ていた事に気づいたクラウドは覚悟を決めて


｢総員退避や！！｣


と駅員達に指示をし自分も休憩室から脱け出す。
皆が必死に逃げ出し最後の一人が出た直後、休憩室の屋根や窓、扉が吹き飛び黒煙が立ち込める休憩室から｢クダリィィィィイッ！！！｣とノボリの怒りの声が聴こえた。



｢何があった？！｣

｢職員用の休憩室でボスが暴れて！｣

バタバタとすれ違う駅員達は走りながら情報交換をしていた。
緊急の為かクダリとすれ違っていても誰も気付きはしない。

｢慌ててるのもあるけど変装して正解だったかも｣

サブウェイマスターの証である白いコートを脱ぎ、頭には制帽の変わりに白いキャスケット帽を被ればお手軽に変身。
駅の中に沢山いる駅員に誰一人と気付かれず地上に出れば青々とした空に太陽が燦々と輝いていた。

｢うーん、お弁当日和！｣

クダリは胸ポケットからクラウドに描いてもらった地図を眺めモンスターボールを一つ宙に投げる。
赤い光と共に出てきたのはカラフルな羽を持つアーケオス。

｢昼休みももうそんなに時間がないし、アーケオス頼むよ｣

クダリの言葉に答える様にアーケオスは一鳴きすると背中に彼を乗せて大空に舞い上がった。