双子と弁当屋の娘
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「この度は本当にありがとうございました」
「僕達、すっごく助かった!」
深々と頭を下げていたノボリはクダリの頭をがっちり掴むと、クダリが痛いと声をあげるも容赦なく頭を下げさせた。
「ノボリ痛い痛い痛い!首が折れるよ」
「貴方はちゃんとお礼を言うことも出来ないのですか!」
「ちゃんとお礼を言うから頭の手をどけて」
凄く痛いから!と言われてノボリが手を離すと、クダリはサクラの手を握る。
「サクラちゃん本当にありがとう。凄く助かっちゃった」
「それ程の事はしていないですよ」
私は何もしていないと、サクラは笑った。
サクラはこの双子には話していないが、双子が全快し仕事に戻れる様になる迄の間、朝から晩までバトルサブウェイのマスター代理としてやってくる挑戦者を叩き潰していたのだ。
二人の面倒を見たと言えば倒れていたノボリを見付けた日の半日とギアスステーションに行く前後のちょっとした時間位。
それ以外は全ておじいちゃんに任せていた。
「でも、サクラちゃん凄く急がしそうにしてたのに合間を見付けては僕達の面倒見てくれた!」
「私はサクラ様に感謝をしてもしきれない程のご恩があります」
「そんな、ご恩なんて」
寧ろ此方は二人が休んでくれたおかげで素晴らしい日給のバイトにありつけましたから本当、
「ありがとうございました」
『あ、』
「「え?」」
サクラはすかさず自分の口を手でおさえた。
まさか、今ここで心の声が漏れてしまうなんて
ちらりとゾロアークを見れば大きな瞳が私を『馬鹿』と責めている。
「サクラちゃん変なのー僕達にお礼を言うなんて」
「お礼を言うのはサクラ様ではなく私達の方ですからね」
「私ったら何を言っているんでしょうね、あははは」
取敢えず笑って誤魔化せ。
「それでは私達は仕事がありますので」
「サクラちゃんまたねー!」
歩きながらこちらに手を振ってくれているクダリさんに手を振り返し、二人の姿が見えなくなると私もゾロアークも家に駆け込んでクッションの海にダイブした。
「疲れたー」
『流石に相手が弱いと言っても全トレインを一人に任せるのは無理だな』
「日給は最高なんだけどね」
だが、やはりバトルは当分したくない。
「バトル好きのお前らが疲れたと言うんだから、余程大変だったんだな」
「うん、バトル自体は楽しかったんだけどお客さんの数がさ、容赦ないの」
とにかくお客が多かった。
いくら手前の車両で強さの篩にかけても挑戦者は車両にやってくる。
その度にそれっぽい口上を言って、バトルをして、を延々と繰り返す。
「なんちゃってサブウェイマスターをやってみて、私分かった」
いくらやっても果ての無いバトル、止まらない客足、
「あの二人って凄い」
私が少しやって草臥れる仕事を彼らは毎日、毎週、毎月、と延々に繰り返すのだ。
「本当、サブウェイマスター何て凄い仕事だよ」
「そう言うのは本人達に言ってやれ」
「それは嫌」
『白いの辺りは調子に乗りそうだしな』
「それね」
だから、サブウェイマスターを務める二人が凄いと思った何て絶対本人には言わない。
だってもしあの二人に言って
「そんな事ない」
と謙遜されてしまったら
私は
「うわぁぁぁぁあっ!!」
『五月蝿い!離せ!』
ちょっと二人をカッコイイと思ってしまう自分が恥ずかしくて私はゾロアークを思いっきり抱き締めた。
「あ、ボス。おはようございます」
久し振りにあった駅員達に挨拶していれば廊下の向こうから緑の固まりが此方へ向かって来るのが見えた。
「ノボリ、あれ」
「ボス~!!」
此方へ向かって来る緑の固まりは鉄道員達。
バタバタと慌ただしく廊下を駆ける彼等にノボリは頭を押さえ、一喝。
「貴方達は駅ホームは勿論、この廊下も走るのは禁止だと言うことはご存じですか!」
「知ってます!」
「でしたら「でもそんな事より」そんな事?」
ですって?
鉄道員の言葉にノボリの口がひくついた。
それを見てクダリが「あちゃー」とでも言わんばかりに頭をおさえる。
だがノボリの微妙な表情の変化に気付かない鉄道員達は興奮気味に双子に迫った。
「あのサブウェイマスターの代理の方は何者何ですか」
「バトルヲ見タケドボス達グライ強イ」
「何度か捕まえようとしたんやけど悉く逃げられましたわ」
逃げられたと言うのに何処か嬉しそうなクラウドの手には魚釣り用の大きな網。
他の鉄道員達の手にも虫取網やらロープやら手錠が握られていた。
これでは只単に人を捕まえるというより、動物か極悪人でも捕えにいく様だ。
「何で僕達にマスター代理人の事聞くの?」
それはノボリも疑問に思った事だった。
代理人は所長自ら連れて来ると彼等は聞いていて、自分達は代理人について何も関与はしていない。
それなのに彼等は自分達を見付けるなりまるで"知っている"と断定した状態で詰め寄って来た。
「え、だって所長に聞いたら詳しい事は二人に聞けって言われた」
そう言ったのは手錠を持ったトトメスで隣にいたシンゲンも頷いている。
「所長ハ二人ガヨク知ル人物ダ、トモ言ッテイタ」
「そんな事を言われましてもね、クダリ?」
「僕達ずっと寝てたから分かんない!」
ごめんねーと思ってもいないがクダリが笑顔で謝ると鉄道員達はガックリと分かりやすく肩を落とす。
「ノボリ?」
何か思案する顔で落ち込む鉄道員達を見るノボリに気付いてクダリは声をかけた。
まだ調子が悪いのかと自分の片割れに心配していれば、そんな事の無い顔でノボリは「その代理人の方はバトルがお強いので?」と鉄道員達に尋ねる。
すると尋ねたのも束の間、返って来たのは称賛の波。
「そりゃもう強いですよ!」
「ポケモンのレベルはマスターも挑戦者も揃えて調整されているのにさ」
「全試合圧勝ダッタ」
「何度かバトルする車両に自分も忍び込んで見とたけど凄かったで!」
「特にラッキーのはかいこうせん」
あれは忘れられないと興奮気味に話す彼等に尋ねたノボリも聞いていたクダリも少し引く。
だが、それと同時に他人のバトルにこれほど熱く語る彼等の姿は珍しく、二人に興味を湧かせるのには充分だった。
「僕もその代理人のバトルがみたい!」
「多分、記録は残っている筈ですから後で探してみましょう。
ですが、その前に仕事です」
そこで鉄道員達は己が仕事を途中で放置したまま二人の元に来たのを思い出す。
「貴方達、仕事はどうしたのですか?」
普段より低いノボリの声に慌てて鉄道員は「持ち場に戻ります」と告げ、まるで軍隊の様に揃い回れ右をした彼等はノボリがいる手前走ることも出来ずに自分の持ち場へと速足で戻った。
「では、私達も仕事に向かいますよ。休んでいる間に溜まった書類を片付けなければ」
「僕、バトルは好きだけど書類は嫌い!」
「仕事を好き嫌いで選んではいけません。書類業務もマスターの仕事なのですから」