足元が揺れる。

｢絶対無理だって言ったのに｣

ガタガタと車体が揺れている。

｢サブウェイのルールも電車も何も知らないのに

私が車掌だなんて絶対おかしいよ！！｣

『叫んでも今さら遅いけどな』

｢そうなんだよね｣

一度も了承をした覚えはないのにおじいちゃんの相棒である姐さん(ルージュラ)のテレポートで無理矢理所長さんの所に運ばれて服を着替えさせられてトレインに乗せられてしまった。

｢"サクラちゃん、初めての電車はどうだい？"｣

耳に着けたインカムから所長さんの声が聴こえた。
そう、私は今まで電車を利用した事がない。
幼い時はライモンを出る事が無かったし、旅を始めた時は歩きかポケモンだった。
多分これからも電車を利用する機会はないんだろうなーと思っていたらこれだ。

｢気分最悪です｣

素直に答えたら所長さんはただ笑っていた。
他人事だと思ってくそっ！

｢"じゃあ、サクラちゃんが少しでもやる気がでるおまじないをかけてあげるよ"｣


｢・・・え、嘘っ！そんなに？！そんなに貰って良いんですか｣

突然大きな声を出したサクラにゾロアークは驚いてサクラの肩から落ちかけた。
何事かと見れば、サクラの表情が珍しく輝いている。

｢はい、はい、私頑張ります！！｣

会話が終わったサクラの表情を見ればかなりにやけていた。

『何か良いことがあったのか？』

別に聞かなくてもゾロアークは分かってはいる。
サクラが、彼女が、こんなにやけた顔をしているのはだいたい大金が絡んだ時なのだ。

｢あのね、所長さんが今日のバトル頑張ったらバイト料くれるんだって！金額が、｣

ぼそっと小さな声でゾロアークに伝えた。
教えられた金額にゾロアークの目が丸くなる。

『それはかなりテンションが上がるな』

｢でしょでしょ！これだけもらえれば半月は生活に余裕が出るよ

よーし頑張るぞ｣

｢『おーっ！』｣

やはり世の中お金だと思う。
だってお金が絡んだだけで底辺を這っていた私のやる気が右上がりになったのだ。

やる気が出て気合いを入れていたら

["挑戦者が20戦目を勝利しました"]

車内にそんなアナウンスが流れた。

朝一番の挑戦者が私の前にやってくる。
彼はバイトサブウェイの常連なのだろうか私を見てあれ？何て顔をしていた。

｢赤色の、サブウェイマスター？｣

思わず呟いた彼に私はにやりと笑った。
お客さんに対して失礼かも知れないがこの意表を突かれたちょっと間抜けな顔が私は大好きだ。
自分で一から仕掛けた悪戯が成功したみたいで嬉しくなる。

『赤色のしかも女もののコートとスカート何てよくあったよな』

｢前にアイドルが此処の一日車掌を務めた時のらしいよ｣

『地下のしかも廃人向けバトル施設のくせに意外に俗物的な所もあるんだな』

｢廃人なんて言ったら駅員さんにもお客様にも失礼よ。それに私達だって人の事は言えない｣


｢あの、バトルは何時になったら｣

何時までも誰かと話すサクラに挑戦者の男はおずおずと話し掛ける。
彼の存在をうっかり忘れかけていたサクラは赤色の制帽を深く被り直すと、長いコートの裾を掴み恭しく頭を下げた。


｢これは大変失礼致しました。

私は本日、サブウェイマスターの代理を務める事になった者にございます。

まだまだ若輩者ではありますがお客様とのバトル、誠心誠意戦いますのでどうぞ



よろしくお願いします｣