何が悲しくて他人を自分の部屋に寝させなくてはいけないのか、サクラは深々と溜め息をつきながらクダリを自分の部屋に案内した。

｢サクラちゃんの部屋って

何にも無いんだね｣

クダリの言葉通り、サクラの部屋には何も無かった。
部屋には箪笥とベッドと机という必要最低限の家具のみで他は何も無い。
しかも家具は白基調の物ばかりで部屋の印象を寂しくさせた。

｢女の子の部屋ってもっと明るくて可愛いものだと思ってた｣

｢たぶん一般的女子はそのイメージでも問題無いかと｣

｢わーベッドふかふか！｣

｢ベッドの上で暴れ無いで！下はおじいちゃんの寝室何です！｣

サクラが叱れば、意外にも従順でクダリはあっさり大人しくなった。

｢じゃあ、私はこれで｣

ゾロアークを抱いてサクラは部屋を出ようとすると、クダリがサクラの腕を掴んで動きを止める。

｢え、何でサクラちゃん部屋から出ちゃうの？｣

｢今からおじいちゃんの部屋に寝に行くんです｣

そう言えば｢何で｣と返された。
何でとは何だ。
本人としては特に変な事を言った自覚もなかっただけにサクラはただ首を傾げる。

｢サクラちゃん、僕と一緒に寝てくれないの？｣

産まれたばかりのポケモンみたいな事を言ってきてサクラは目眩を感じた。

｢・・・ベッドは狭いんです。クダリさんが使えばベッドは満員です。勿論、布団も

ですからクダリさんはお一人で寝て下さい｣

分かりましたね？と言えば｢えー｣なんて声が聞こえるがサクラは無視を決め込む。

｢それではおやすみなさい｣

｢うんおやすみ｣

意外や意外に手を振ったクダリにサクラは少し驚いた。
もっと駄々を捏ねると思ったんだけど、やはり冗談だったのか。
あっさりし過ぎて拍子抜けだとサクラは部屋を出た。

自分しかいない部屋にクダリはベッドに体を沈める。

少し前から体が重いと感じていた。

まさかね、と笑うクダリの口から咳が溢れる。

｢まさか、｣

まさか

まさか

クダリの視界が、世界が回った。





｢根菜は体を暖める作用があるからいっぱい持ってきなよー｣

丁度、飛行機の整備をしていた友人に会い｢今家に風邪引きさんがいるの｣と軽い世間話のつもりで話したら本気で心配されて両手から溢れ落ちる程の大根をもらってしまった。
それを落とさないようカイリュー君と共に運び、仕入た食材を厨房に運ぶのだが

｢おじいちゃんただいまー｣

何故かおじいちゃんは厨房にはいなかった。
上着をハンガーにかけ、ゴーグルを外していれば珍しく神妙な顔をしたおじいちゃんが階段の上に立っている。

｢おい、大変な事になったぞ｣

｢ふえ？



二人揃って39.9度・・・｣

｢すみません｣｢ごめん｣

頭が痛くなったのはきっと気のせいじゃない。
顔を赤くしたノボリとクダリはサクラに謝った。

｢坊主が呼んでもおりて来ないからまた引きこもりかと思って様子を見に行ったら真っ赤な顔をしてたんだ。
まさかと思って熱を計ってみたら｣

｢熱があったんだね｣

一度、溜め息をつきライブキャスターに耳を当てる。

｢というわけでサブウェイマスターが二人共、高熱何ですが｣

そう言えば電話の無効からは駅員達の絶望に満ちた声が聴こえた。

｢皆様本当にすみません。私達がちゃんと体調管理を行っていなかっただけに皆様に大変ご迷惑をお掛けしまして何と言ったらいいのやら｣

｢大丈夫！僕が仕事に行く！だから皆、心配しないで｣

皆の不安を吹き飛ばそうと勢いよく立ち上がったクダリであったがその足はふらついていて酷く危なっかしいものだった。

｢クダリさんは今日、一日安静でお願いします｣

｢なんで？！僕、すっごく元気！｣

｢足取りがもう千鳥足になってるじゃないですか。そんなんじゃ電車の中で転倒しますよ｣

｢でしたら私が・・・！｣

｢ノボリさんもクダリさんと同じです。高い熱があるんですから二人は今日、ここで大人しく休んでいて下さい｣

｢ですが｣｢だけど｣

二人がサクラを相手に身を乗り出した所で老人が口を挟んだ。

｢今、坊主らの上司・・・ギアスステーションの所長だな。そいつに事情を話したら坊主達は休んどけだと｣

｢え、所長がですか？｣

｢坊主達が抜けた穴は所長の方で代わりを見付けとくと｣

おじいちゃんの言葉に自分の代わりなど見付かるのだろうかと二人は話していた。

｢僕達と同じ位、もしくはそれ以上でしょ｣

｢バトルサブウェイの始発までもうそんなに時間は無いですしね｣

うーんと考え込む二人を眺めていたら部屋の外にいたおじいちゃんが私を手招きしていた。

面倒臭い予感しかしない。