ある男の話だ。

ある地方のある街に住んでいたその男はその当時では珍しい料理男子だった。
男は片親で、母親と一緒に住んでおり、仕事で忙しい母親を助ける為に料理を始めたのが切っ掛けだ。
母親を助ける為に、と始めた料理は男の身に付き、何時しか男の趣味・特技になった。
友人を呼んでは料理を振舞い、美味い美味いと食べる友人達を眺め微笑む。

人に美味いと褒めてもらえるのが嬉しかった。

その時は趣味の範囲を越えないレベルでそれには本人も納得している。
料理が出来るのなら料理人になれば良いじゃない、と昔に軽く言われた事もあったがそれには金が掛かり過ぎるので夢のまた夢だと思っていた。
だが、ある日、親友の一言が男の人生を変えた。

『あーお前が弁当屋でも開いてくれたら美味い飯が何時も食べれて仕事を頑張れるのにな』

まだ男が年若かった時代、その街はまだまだ発展途中の街だった。地方最大の娯楽都市を作る為に街の何処かは何時も工事中で沢山の人間が働き汗を流していたのだ。


弁当屋か、ふむ。


そう思った。
弁当屋なら自分でも出来るかもしれないと思った男は母親に相談し、店を開く為の資金を集める為に働き出す。
朝から晩まで働いて質素な生活を送るのだが、いくら給料が良い土木の仕事をしても中々資金は貯まらない。

そんな時に彼は閃くトレーナーになればお金が貯まるかも。

ポケモンバトルをし、勝てば賞金が手に入る。
旅先の宿はトレーナーカードがあればポケモンセンターで泊まれた。

旅先の出費を切り詰め、バトルに勝てば地道に働くよりもお金が貯まるかもしれない。
それに旅先で色々な街の料理を知る事が出来る。
どちらかというとそちらの方が旅に出る理由としては大きかったのだがそこは気付かない振りをして相棒と共に街を飛び出す。


幸いな事に男は料理の他にポケモンバトルのセンスもあった。
行く行く先々でトレーナーを倒し、その土地の風土料理を学び、イッシュを飛び出す。

シンオウ、

ホウエン、

ジョウト、

カントー

と、各地方を周り学んでイッシュに帰った男は貯まったお金で店を始めた。

ビルとビルに挟まれて建つ一軒家の様なお店。
旅に出てイッシュだけでなく他の地方の料理を学んだ男は以前より料理の腕前を上げていた。

始めの客は男が店をやっていると知った友人達で、次はその友人の先輩後輩、先輩後輩の友人と広がり男の店はライモンで働く人々に知られる様になる。


爆発的に売れなくても客が来て常連も出来た。
男は地道に一人で弁当を作り、売り続け気付けば開店してから30年。


人が年をとる様に店も年をとる。

老朽化が進む店を眺め男は一人、頷く。

"そうだ改築しよう"

そう決めた男は弁当屋をする傍ら塵収集のアルバイトを始めた。
決められた地区を収集車で周り置かれた塵を車に投げ入れる。
本業とアルバイト、改築と言っても店を丸々作り変えるわけではないので店の改築費用は開店の時よりも簡単に集まった。


後はこの月を頑張れば改築費用が貯まるという日だった。



男が塵捨て場で赤ん坊を拾ったのは