ぐるぐると目が回る様な意識の中でノボリは目を覚ました。

目が覚めてもまだ、

視界はぼやけている。

｢私は、｣

一体どうしたというのでしょうか。
未だはっきりしない視界でも周りの景色がいつもいる執務室と違うのは分かった。

｢目が覚めましたか？｣

声が聴こえた。
男性ではない柔らかな声、視界に声の主であろうか彼女が写り込むがやはりよく見えない。

｢起きたところ申し訳ないのですがもう少し寝ていて下さい｣

無意識に起きようとしていたらしい体をベッドに戻される。

｢ですが｣

仕事が、と言おうしたところ唇に指が当てられ発言を止められた。

｢大丈夫、残りの仕事は貴方の分身が頑張ってくれますから

だから｣

おやすみなさいと、冷ややかな手が目の上に添えられて視界が真っ暗になる。
上がった体温に冷たい手は気持ち良くて、思わず瞼を閉じれば意識がずるずると暗闇へと落ちていく。
暫くすると、また眠ったのであろう彼から寝息が聴こえた。



『眠ったのか？』

｢そうみたい｣

ノボリの目の上に当てた手を離し、額に濡れタオルを乗せて布団を体に被せる。
サクラがノボリから離れると今まで部屋の隅で様子を見ていたシャンデラがノボリの枕元に移動して心配気に彼の様子を見つめていた。

｢まさか、部屋に入ったらノボリさんが倒れてる何て｣

あの時は吃驚したな、とサクラは染々と呟く。

｢僕はノボリを背負って走るサクラちゃんを見た時が凄く驚いたなーっ｣

お客さんも驚いてた！とノボリが眠るベッドから少し距離を取って座ったクダリは言った。
因みにベッドから離して座らせているのはクダリに風邪がうつらない為の措置である。

｢あれは、ノボリさんを運べる人がいなかったから仕方なくです｣
今となればいつもの様にゾロアークに頼んでサイコキネシスや念力なり、エスパー技で運んで貰えば良かったと言えるが倒れたノボリを見付けた時はそんな事を考える余裕もなかった。

｢ノボリさん？！｣

俯せに倒れた彼を仰向けにし、軽く頬を叩いて呼び掛けるが返事はない。
息はしていたが呼吸は荒く、測った脈は妙に速くて調子が凄く悪いというのは顔色を見てすぐ分かる。
クダリからノボリが風邪を引いていると聞いていたサクラは仕事をしている間に熱が上がったのだろうと結論。
このままノボリを床に転がしておくわけにはいかずサクラは何処か彼を眠らせる場所がないか側にいた彼の手持ちであろうシャンデラに尋ねた。

すると、シャンデラの話では夜勤をする職員の為に仮眠用ベッドが駅の何処かにあるらしい。

じゃあそこにノボリさんを運ぼう！となったのだがサクラはもちろん、バトル以外仕事時はボールの中にいるというシャンデラもその場所が何処か知らなかった。
どうしようか、と考える間にも倒れたノボリは苦し気な呼吸をしていてサクラはしょうがないと自分より大きなノボリを背負うと執務室を飛び出した。

場所が分からなければ誰か知ってそうな人に聞けば良いと思っていたが昼休みが終わったばかりのギアスステーション。
誰にも出会えず駅構内に出てしまい、そこでやっとタブルトレインから降りてきたクダリなに会えたのだ。


｢でも普通の女の子は病人を自分で背負うなんて考えないよ。考えて相手に肩を貸す位だね｣

｢だからその時は焦ってまともな判断が出来なかったんです。
それにノボリさん凄く軽かったですし｣

あれは女の子でも背負えますよと言ったサクラにクダリは複雑そうな顔をした。

｢・・・サクラちゃんそれは間違ってもノボリに言わないでね？｣

｢あ、はい｣

なんでだ。
サクラにはよく分からなかった。
"軽い"がいけなかったのか、軽いって褒めたつもりだったんだけどなと考えていたサクラに肩のゾロアークが『男にも色々あるんだよ』と呟く。

納得いかない、というかわけが分からない。


｢って、こんな事してる場合じゃ無かった｣

勢いよく立ち上がったサクラは服のポケットからライブキャスターを取りだし電話をかけた。

｢おじいちゃん？うん私・・・｣

電話に出た老人にわけを話し、｢分かった｣と了承を貰うと電話を切ってライブキャスターをまたポケットへしまう。


｢クダリさん、ここって給湯室ってありますか？｣