｢ところでさ、｣

ゾロアークが化けたサンドとクダリのドリュウズが地面を今だ掘り続けている時、

｢ずっと気になってたんだけど｣

という前振りで彼は空を指指す。
正しくは空に浮かぶポケモンを指差していた。

｢あの月みたいなのってポケモン？｣

｢ポケモンですよ。主にホウエン地方にいるんですが、

ルナトーン｣

サクラに呼ばれると赤い瞳が印象的なルナトーンが空から降りてきた。
その体はまるで月明かりのように優しく朧気に発光している。

｢ここら辺っていつも真っ暗で今日は新月で月明かりがなかったら懐中電灯の変わりに付いてきてもらってたんです｣

懐中電灯より明るくて綺麗だから、サクラがそう言えばルナトーンは綺麗と言われて喜んでいるのか上下に揺れていた。

ゾロアークに呼ばれたのか、穴からの声にサクラが返事をして穴の中に下りると、クダリもそれを慌てて追い掛ける。

｢待って！｣

二人が下りた穴の真ん中には赤に黒の縞が入った地層が見えていた。
ルナトーンも空から穴の中心に移動して辺りを照してくれている。

｢何これ、土？｣

にしては柔らかかった。

押せば返ってくる弾力。
よく見ればそれは速くはあったが規則正しく上下している。

｢ゾロアーク、ラッキーに化けて

"いやしのはどう"｣

それは味方ポケモンの体力を回復させる技だった。
ゾロアークはサクラの指示通りラッキーに化けると、何故か地層と思われるそれに向かって暖かな波動を発する

すると突然、地面が揺れ出す。

地震か、と慌てたクダリはドリュウズをボールにしまい、穴から出ようとサクラの腕を引っ張った。
だが、サクラは動かない。

｢サクラちゃん？｣

｢おはよう｣

また地面が揺れた。
何処からかポケモンの唸り声が聴こえてくる。

｢もう分かると思うけど｣

｢サクラちゃん誰に話かけてるの｣

尋ねても答えは返ってこない。
サクラはひたすら姿の見えない誰かに話かけている。

｢貴女、捨てられたの｣

そう言った瞬間、ポケモンの激しい泣き声が聴こえた。
"鳴き声"ではない"泣き声"だ。
がたがたと足元が揺れて、目の前の土が盛り上がる。
勢いよく出てきたそれは顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしたワルビアルだった。

｢この子を地中から助ける為にこんな大きな穴を掘ってたの？｣

｢うん、元々は私の不手際だったから｣

サクラがワルビアルにちり紙を差し出せば三本の指で器用に受けとり、鼻をかむ。
そんなワルビアルの背中をまるで赤ん坊をあやすようにサクラは優しく撫でる。

｢ワルビアル、今日は取敢えず家に来ない？

バトルの疲れもまだとれてないだろうし、お腹も空いたでしょ｣

ね？と空いていた手を握ればワルビアルは小さく頷いた。
クダリの目の前で彼には分からないま話が勝手に進んでいく。

｢全然わけが分からない！｣

ワルビアルが何故、地中にいたのかも

何故サクラがその事を知っていたのかも

｢わけわかんない！｣

話に混ざりたいと言うより自分が仲間外れなのが嫌でクダリは教えて！とサクラの腕を掴み説明をねだった。

｢あー、耳元で大きな声を出さないで｣

｢じゃあ、教えて｣


｢クダリさんに教えると後々面倒臭そうだから嫌です｣

｢なにそれ、酷いよサクラちゃん｣

うわーん！と声を上げれば五月蝿いと頭を叩かれ、腕を引かれる。

｢もう、遅いですし帰りましょう。

ほら、ワルビアルも｣

サクラはそう言うと、穴から引っ張り出す様にクダリとワルビアルの手を引いた。