遠くもなく近くもなくサイレンの音が聴こえる。

｢パトカーだ｣

しかも沢山。

｢ここらへんってパトカー頻繁に来るの？｣

新聞片手に珈琲を飲む老人に尋ねれば、｢ああ、毎日の事だ｣と軽く返された。

｢え？｣

｢何だ坊主。ライモンで仕事をしていてここの事を知らないのか｣

知らない様子のクダリに老人が逆に驚いている。

｢・・・ライモンの事とか言われても僕、地下務めだし｣

何も知らないみたいに言われるのは嫌でそんな事を言えば思い出したかのように｢そうだったな｣と老人は言った。

｢じゃあここの地区は何があるか知ってるか？｣

何でこんな事を聞かれるのか分からなかったクダリだがこの辺りの空をさ迷った事があるのでこの質問には答えられた。

｢倉庫｣

｢そうなんだ。倉庫ばかり何だよ。そのせいかこの地区には交番が無くてな。
交番が無いと警官がいない、警官がいないと、


どうした？｣

急に立ち上がったクダリに老人は頭を傾げた。

｢交番が無いと警官がいない！警官がいないと悪い人沢山！サクラちゃんが危ない！｣

一人どうしようと慌て出したクダリに老人は笑い煙草をくわえた。

｢大丈夫だ。ここらはあいつのテリトリーだから

それに先生も付いてるしな｣

問題ない、とくわえた煙草に火をつけた老人は一服。
吐いた白い息を厨房の換気扇が吸い込んでいく。

老人がいくら大丈夫と言ってもクダリは納得出来なかった。
｢でも、でも｣と言うクダリに老人は壁際に置かれた懐中電灯を投げた。

｢そんなに心配なら迎えに行ってやればいい。あいつは迎えに来られた事なんかないからきっと驚くぞ｣

にやり、と意地の悪い笑みを浮かべた老人にクダリは懐中電灯を握って｢うん！｣と頷いた。
ポフィンを食べてお腹いっぱいに、今にも眠りそうなバチュルを起こして玄関へ走る。

｢ああ、そうだ。
坊主、サクラの居場所は月明かりが教えてくれる。

月明かりを探せ｣

分かった！とクダリは飛び出した。
部屋で一人になった老人は読むのを止めていた新聞をまた広げる。

｢若いとは恐ろしいもんだ｣















近頃の私はこういう方々に縁があるようだ。
スキンヘッドに派手な色の髪、
ギラギラ輝く派手なアクセサリーにピアス

それにいかにも悪人という顔。

｢流石に連続して続くと見飽きてくる｣

『俺もだ』

怯える三匹の幼いポケモンを後ろに庇いながら、サクラはゾロアークと深い溜め息を吐いた。

｢何ブツブツ言ってんだぁ？｣

｢駄目だぜお嬢ちゃん、こんな夜中に一人で出歩いちゃあ｣

｢おにいちゃんが家まで送ってあげようか？｣

ギャハハと下品な声をあげる男達にサクラの眉間に皺が寄った。

｢五月蝿い、下品、黙れ。

私達は先に進みたいのそこを退いて｣

｢お前、下品だってよー｣

｢それを言うならお前だって下品だ｣

やはりいくら言っても男達は笑い合うだけで道を開けようとはしなかった。

『サクラしゃん、道を変えましょう？この人達恐い』

気持ちに敏感なラルトスがサクラの肩にふわりと乗ると、首に抱き付いた。
体迄振るわし酷く怯えている。
ラルトスや他の二匹の事も考えると道を変えた方が良いのかもしれない。

｢しょうがない。じゃあ、道を変えよっか｣

サクラがそう言った途端、三匹は安心した表情を見せた。


｢おい、あいつ珍しいポケモンを持ってるぜ｣

｢なに？｣

目の前にいた男達の目の色が変わった。
さっきまで笑っていたのが嘘の様に目をギラギラと輝かせ此方に近付いてくる。
男達の変化にいち早く気付いたのはやはりラルトスで『恐い恐い』と今にも泣きそうな声でサクラの服の中に隠れた。

｢近付かないで｣

と言っても近付いてくる男達。
ゾロアークが威嚇してサクラの前に立つのだが姿はゾロアなので迫力がかなり足りない。

男達が一歩、二歩近付く。

｢近付かないで｣

言うのは二度目であるが男達は言うことを聞かない。
三人の男の内、一人の男がサクラの服の中から顔を出したラルトス目掛けて手を伸ばす。

｢家の子に

触らないで！！｣

サクラの蹴りが一発、男の顔にヒットした。