長い話、簡単にすればこうだ。

バトルサブウェイという施設でサブウェイマスターを務めるノボリさんと、彼の弟は昨日くだらぬ事で喧嘩した。
その喧嘩の前も軽い？言い争いをしていたらしくそれが火に油を注ぐ事になって火事所か爆発。
最後はお互いに顔も会わせず、

お前の顔なんか見たくないと言ったらしい。


『子供の喧嘩じゃあるまいし』

｢まあまあ、｣

その事があってか次の日、つまり今日、弟は職場であるこのバトルサブウェイに出勤して来なかった。
少し話は戻るが、ノボリさんと彼の弟が務めるサブウェイマスターという役職はこのバトルサブウェイで重要なものらしい。
その為、弟が担当していたタブルトレインはノボリさんがシングルトレインと掛け持ちし、兄弟が揃わないと出発出来ないマルチトレインは運行休止。
運行休止はマルチだけであるがマスターが一人しかいないのでシングルとダブルはバトル迄長い時間待たなくてはいけないらしい。

｢だから、怒っているお客さんや帰るお客さんがいたんですね｣

ノボリさんに奢ってもらったミックスオレをゾロアークに分けながら言えば｢本当にお恥ずかしい話なのですが｣と渇いた笑みを漏らした。

｢私達、兄弟の私情を仕事に挟みお客様には大変ご迷惑をかけてしまい申し訳ないと思っております｣

表情は変わっていないが"しょんぼり"なんて擬音が似合いそうなノボリの落ち込みにサクラ｢よし！｣と何かを決めた。

｢そう言えばお客様は本日どの様な目的でこの駅に？先程、言いましたがマルチトレインは運休、シングル・ダブルは乗るまでに一時間以上待ち時間がありますが・・・｣

｢あ、私バトルしに来たんじゃないんです｣

｢では、カナワタウン行の電車で御座いますか？普通列車は遅延もなく通常通り運行しておりますので｣

あちらのホームを真っ直ぐと案内してきたノボリにサクラは｢違うんです｣と頭を振った。

｢でしたら｣

何の用なのか皆目検討がつかず頭を傾げるノボリ。
そんなノボリの前にサクラは風呂敷の包みを前に出し言った。


｢トラブルの対処でお昼ご飯も買いに行けない駅員さん達にお弁当をお届けに参りました｣





｢お邪魔します・・・｣

思わず小さくなる声。

『何、緊張してるんだよ』

ゾロアークはそう言っているが彼の目は忙しなくあっちこっちを見ている。

｢自分だって人の事言えないじゃない｣

サクラが閉めた扉には[関係者以外立入禁止]と書かれていた。

｢ノボリさんは入っても良いって言ってたけど本当に大丈夫なのかな？｣

サクラが仕事で弁当を届けに来た事を伝えるとノボリは何か聞いていたのか、駅構内にある[関係者以外立入禁止]と書かれた扉迄案内してくれた。

ここを真っ直ぐ行けば駅員の働く場所があります

と丁寧に教えてくれた直後、彼の付けていたインカムから機械音が聞こえる。
それに何度か応対していたノボリさんはやはり表情は変わらずだったが眉を下げて

｢サクラ様、｣

と呼び、続けて

｢私、今、呼び出しが入りましてこの様に道案内の途中で申し訳ないのですが｣

どうやらノボリさんは仕事に行かないと行けないらしく急いでもいる様。
それでも私を心配してか、自分の変わりに道案内をしてくれる職員を呼ぼうとしているノボリさんに｢私は大丈夫ですから｣と手を振り見送った。

そんなこんなで私は[関係者以外立入禁止]な場所に一人でいるのだが

｢関係者じゃないだろ出てけ！なんて言われたらどうしよう｣

そればかりが不安である。

『そんときはその言ってきた奴に弁当を渡して帰ればいいんじゃね？』

ゾロアークの提案になる程！と納得したサクラは駅員がいるという仕事場目指して歩いた。