あの葉が落ちたら(▽/暗)
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「私は生きてても仕方ないの
家族の間じゃ私はもう死んでいるし
お医者さんももう、私の病気にはお手上げだしね」
残り命の期限はあの木の葉が全て落ちた時。
「昔から私は発作が多くて、その度に医師から余命を宣告されたわ。娘さんの命は後、三日、一週間、半年」
「でもお姉さん生きてる」
「うん、生きてる。
だから駄目なの。
医師から余命宣告をされる度に両親は泣いてたけど慣れちゃって私は何時になったら死ぬのか思われる様になっちゃった。
その内、私の親は余命宣告をする医師に今度こそ本当なのか聞くようになったわ・・・」
「それじゃあまるでお姉さんに死んでほしいみたい」
「死んでほしいのよ。
きっと飽きちゃったのよね
。難病の子供を抱えた可哀想な親の役に
私の両親って昔からそういう所があったの。
役に入っちゃうっていうか悲劇のヒーローヒロインごっこ?
差詰め、私はその役を演じるに必要な小道具の一つね」
自分の事を話している筈なのにまるで他人事の様に話す彼女は笑っていた。
何時もの静かな笑みでなく声を出し、口許を手で押さえ、目尻には涙が溜まっている。
「でも入院している人のお世話って結構大変でさっき言ったみたいに飽きちゃったのよ。
私の家って自分でいうのもあれだけどそれなりの資産家で私はそんな家の一人娘だから跡取りとして大事にされてたんだけど、八年前位に弟が産まれて跡取りとしての役割は無くなったわ。
となると私は只の厄介者」
手間ばかり掛かって何の役にも経たない存在。
「今じゃ花や物を山程送り付けてくるだけで見舞いは勿論、発作が起きても両親は病院に来ないし、産まれたっていう弟にはまだ一度もあった事ないわ。
どうも私の病気が移るんじゃないかとか気にしてるみたいだけど、馬鹿よね。
私の病気は感染するものじゃないって両親が一番知ってる筈なのに
余程、跡取りの弟が大事みたい」
まだ、笑いが治まらないらしい彼女は手を振るわしながらも冷めた紅茶に口を付ける。
「だからお姉さん、そんなに死にたがるの?」
「まあね。それに私自身もこの生きてる様な死んでる様な生活には飽きてきた所だから
お医者さんが言った通りあの木の葉が全部落ちたら意地でも死んでやるって!思ったのよ。
病は気からっていうからあの葉が落ちれば私も死ねるかななんて思ったんだけど」
「・・・けど?」
「何をやっても駄目だったわ。
木の幹を蹴ったり、拾った野球ボールを投げてみたりしたけど全然駄目。
だったら自然に落ちるのを待とうと思った矢先に君があの木の前に立ってたのよ。
ポケモンの技を練習するのにあの木を使おうって大きな声でバチュルと騒いでてね。
ああ、この子なら落としてくれるんじゃ無いかなって」
若く一生懸命な少年を見て死への希望と期待が湧く。
勝手に他人から期待される少年には迷惑な話だろうが希望が見えて、産まれて初めてかもしれない程に胸が騒いだ。
「君と初めて出会った日から次の日が楽しみだった。
楽しみで楽しみで、ついつい君に声を掛けちゃう位」
「それだったら!僕だってお姉さんと毎日、一回話せるだけで嬉しかった。
お姉さんは死にたいって言ってるけど、僕嫌!
お姉さん、会えないの
凄く嫌!!」
クダリは持っていたカップを思わず手放し、彼女に抱きついた。
床にカップが落ちたのも構わず、目一杯の力で抱き締めてくるクダリに彼女は小さな小さな溜め息を漏らす。
「私、泣き落としには強い筈なのにな」
抱きつきながら震える小さな背中を彼女は撫でながら視線を床へと落とせば無惨に割れた白磁器のカップと溢れた白濁の紅茶、溶けきれなかった角砂糖が床を白く汚していた。
「君はきっと真っ白なのね」
「え?」
垂れる鼻を啜り、彼女の体から顔を離したクダリは頭を傾げる。
「君にそこまで言われちゃたら私、生きるしかないじゃない」
そう言った彼女は困った顔をしながらも何時もの静かな笑みを浮かべて笑った。