▽×主人公
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バトルをして書類を片付けてまたバトルして、普通にしていればそうはならないのに
どうやったらそんな格好になるのか。
自身の片割れであるクダリのだらしない格好に気付いたノボリはわざわざ大きな溜め息をついて彼に注意をした。
「コートが肩からずり落ちているではありませんか」
「いーの」
「ですがお客様は勿論の事、部下達の手前そのような格好ではサブウェイマスターとして示しがつきません」
「これでいーの!
後少ししたら直るから」
「"直す"ではなく"直る"ですか?」
クダリの言い回しが妙に引っ掛かるノボリであったが相手は自分と同じ歳の兄弟である。
肩から落ちたコートが気にはなるが小さな子供を相手にするかの様に直す迄何度も口煩く言うのもどうかしているし、クダリが"直る"と言っている以上ノボリはそれを信じる事にした。
「そ、直るの!」
そう言ったクダリはスーパーマルチトレインで連勝していたお客が自分達の手前で下車したにもかかわらず今に口笛を吹き出しそうな程ご機嫌だった。
何処かの企業のCMソングか何かだろう、その軽快なリズムを口笛で奏でだしたクダリは曲に負けない軽い足取りでトレインから飛び出る。
あいかわらずコートはクダリの肘辺り迄落ちていて勝手に直る気配はない。
お客や部下の前に出るまでには直って欲しいのだが、既に自分達が歩く先には部下が立っていた。
「クダリ、いい加減コートをだらしなく着るのを止めなさい!」
「もう少しだけまって!後少しだから」
「もう少しって、」
言われても既に部下は自分達の前にいる。
見栄等でなくサブウェイマスターである以上、部下達の前では常に上に立つものらしくバトルも仕事も身だしなみも確りとしていたかった。
それをまさか双子の兄弟に乱されるとは思ってみなかったノボリは自分の手を力強く握り締める。
「ボス、お疲れ様です」
ノボリ達に労りの言葉をかけたのは今年から採用される事になった女性鉄道員の一人だった。
名前は何だったか、ノボリが頭で検索をかけていた時には
「サクラちゃんもお疲れー」
既にクダリの口から出ていた。
「お客様が途中で下車されて残念でしたね」
「そうなの!僕凄く楽しみにしてたのに残念」
「さっき無線で聴いたんですけどスーパーダブルのお客様が初挑戦で連勝してるらしいですよ」
「僕も聴いた!今からすっごく楽しみなんだ」
クダリとサクラの会話を聞いていたノボリは
だからクダリはスーパーマルチのお客様が途中下車しても機嫌が良かったのか、と勝手に納得する。
その間に二人の会話は盛り上がり何時の間にか終わろうとしていた。
「じゃあ、次の電車があるから僕達行くね」
「あ、待って下さい!」
実際、まだ時間に余裕はあるのだが話を済まし歩きだしたクダリをサクラが服を掴んで止まらせると今度はだらしなく落ちたコートを掴み、クダリの体に羽織らせる。
身長差から少し爪先立ちでクダリに寄りかかる形になりながらも襟を丁寧に調え、ついでにネクタイの曲がりを直したサクラは最後に肩についた埃を払って「よし」と頷く。
クダリの言う通り直さず直ったコートにノボリは驚いたがそれより驚いたのは彼女にコートを直してもらっている間のクダリの表情だ。
なんて間抜けで幸せな顔なんだろう。
「はい、直りました。どうやったらあんな中途半端に脱げられるんですか」
「分かんない。気付いたらいつもこうなってる」
「たまには自分で気付いて直して下さいね」
まるで何時もクダリのコートが脱げかかっているかのような会話である。
「じゃあ、今度こそ行くね」
「引き止めてすみませんでした。クダリさんもノボリさんも無理しない程度に頑張って下さい」
制帽を脱ぎ頭を下げて自分達を見送るサクラにクダリは大げさ過ぎる程手を振った。
彼女のお辞儀は見えなくなるまで続き、クダリが振る手も彼女が見えなくなるまで続く。
階段を登った所で腕を下ろしたクダリはサクラが直したネクタイを手に取ると歩きながら何時も以上ににこにこと笑った。
「・・・つまりそういう事ですか」
ノボリの少し呆れた風な声に今の今まで彼の存在を忘れていたらしいクダリは遅すぎるタイミングで手からネクタイを離した。
「注意してもコートの乱れを直さないと思ったら、意外にもせこい事をしているんですね」
「僕は別に・・・」
「私は人の恋路にあれこれ口を挟む趣味はありませんので気にしなくて結構ですよ。
只、一言言うのなら先程の様な事はこの先人気のないところでお願いします。
パートナーのいない人からすれば先程のは僻みの対象にしかならないでしょうから」
まるで新婚夫婦の様で
(そう思える程に二人がお似合いで満更でもないだろうという話)