主人であるノボリの危機を感じてか、ボールはガタガタと揺れているが今に意識が遠退こうとしているノボリにボールからポケモンを出そうという力は残っていない。

髪の長い女はノボリの首を絞めて確かに笑っていた。
口が裂けているのではと思える程口角を上げに上げて楽しげに笑う。


｢ジュペッタ"シャドークロー"！｣

黒い影の様な鋭い爪がノボリの首を絞める女の腕を切り落とした。
女の腕と共に地面に落ちたノボリは自身の喉に食い込んだ手を払い飛ばし噎せながらも不足していた息を吸い込む。
ノボリは一体何が起こったのか解らずにいた。

｢続けて"シャドーボール"

相手を此方に近付けさせない様にして｣

何とか必要な酸素を取り込んだノボリが俯いていた顔を上げると小さなぬいぐるみの様なポケモンが幽霊に対し"シャドーボール"を放っている所だった。

｢大丈夫ですか？！・・・って幽霊に襲われてたんですから大丈夫じゃないですよね｣

｢貴女様は・・・？｣

｢私は只の通りすがりの通行人です｣

通行人と名乗った彼女が差し出す手を掴みノボリは立ち上がる。

｢しかしあんな怨みの強い怨霊をよくそのまま放置していられましたね｣

一体、現世においてどんな怨みを持ってここにいるのか。
既に切り落とした筈の手を修復し終えジュペッタの攻撃をかわす幽霊に彼女は小さく舌打ちをする。

｢ふらふらな所申し訳ないんですが｣

突然自分の腕を掴んできた彼女に驚きながらもノボリは返事を返す。

｢ゴーストタイプのポケモン持ってますか？｣

｢ゴーストタイプでしたら丁度この子がゴーストタイプですが｣

ノボリは腰に付けたボールを手に取り宙に投げた。
開いたボールから飛び出す赤い閃光、シルエット。

ボールから出たノボリのシャンデラは外に出るなり彼に飛び付いた。

｢シャンデラ！これでは前が見えないではありませんか｣

炎が灯る硬い鉄の腕を器用に絡ませノボリの顔に抱き付いたシャンデラはいくら彼が離れる様命令しても言うことをきかない。

｢シャンデラは幽霊に襲われた貴方の事が心配で心配で堪らなかったんですね｣

｢そうなのでございますか｣

ノボリの顔からやっと離れたシャンデラは彼女の言葉にそうだと言わんばかりに頭を縦に震う。

｢心配をかけて申し訳ございません｣


｢よし、じゃあさっさとこの状況を打開して明るい場所に帰りましょう｣

彼女の履いていたピンヒールの踵がタイル張りの床を叩く。

｢しかし、幽霊相手にポケモンを出してどうなさるつもりなのですか｣

｢単純に戦います。戦って此方が上位である事を幽霊に示します｣
その為にポケモンを出して貰ったのだと彼女は言った。

｢幽霊はゴーストタイプのポケモンと同じです。

ゴーストタイプにはゴーストタイプの技！

私が先制攻撃します。
貴方は相手が攻撃を避けた所を狙ってゴーストタイプの技を相手にぶつけて下さい｣

彼女はノボリに考える暇も与えず幽霊に応戦していたジュペッタに先程と同じく"シャドークロー"を命じた。
二度目となる技に幽霊も学習したのか易々とジュペッタの攻撃を避けた幽霊に向かってノボリはシャンデラに"シャドーボール"を放つよう命じる。

｢シャンデラ"シャドーボール"です！｣

シャンデラは何時ものバトルで出すものより大きな大きなボールを作り、幽霊に向かって放つ。
その大きな攻撃に幽霊は避けきれず真正面から攻撃を受けた。