『オノノクス』

『フカマル、』

『もう一度”ドラゴンクロー“です！』

『逃げて』

彼女はもう一度、フカマルに”まもる“を命じると思っていた。
だがその絶対防御は連続で成功するのは難しい技。
だからノボリは早々にフカマルを始末する為に効果抜群の技を命じる。

だが、彼女はフカマルに防御を命じるどころか逃がす事を選択した。


フカマルは逃げる事に躊躇しながらも主人の命に忠実だった。


その小さな身体を活かし、オノノクスの技をかわしたフカマルは一度だけ主人である彼女の方を振り向き外へと逃げていく。

『逃げて、逃げて・・・』

床へと崩れる彼女の身体。
床にへばりつく様に体勢を崩した彼女をノボリは見下す。

『何故、フカマルを逃がしたのです』

逃がさなければ彼女はオノノクスの技を受けずに済んだ。
ノボリを見上げる彼女の脇腹からは赤い血が止めどなく溢れている。

ノボリの問いに彼女は浅い息を吐き出しながら微笑んだ。


『その内に分かりますよ』


『そうですか。

では、今度こそお別れです』




















女性が一人、マンションで殺された。
顔には殴られた跡、華は無残に散らされ、強い恨みを持たれていたのか脇腹は鋭利な刃物の様な物で酷く抉られていた。

脇腹からの出血によるショック死かと思われていたが検察が詳しく調べた結果、首を締められた事による窒息死だと言う事が判明する。

警察は始め、被害者女性を殺害したのは以前から彼女のストーキングを行っていた男性を犯人と見なし逮捕迄至った。
だが、しかし彼の犯行にしては不明な点が多く捜査本部とは別に独自で再捜査を行った結果真犯人とも思われる人物が浮上。

（資料添付の写真参照）

尋問の結果、彼は自分が犯人である事を認めた。






「ノボリさん、最後に聞いても構いませんか」

手首に手錠を掛けられ部屋を出ようとしていたノボリに刑事は尋ねる。

「はい、なんでしょう」

彼はこの状況にも関わらず声をかけてきた刑事に手錠をかける前と変わらぬ態度で返事を返す。

「どうして貴方は一度は愛した女性を自らの手で殺してしまったのですか」

彼女が自分とは違う男に犯されたから？

そんな理由で愛する女性を殺してしまえる程彼が潔癖、独占欲が強くは見えなかった。

刑事の問いに彼は暫く間を開けた。

そして答える。




「彼女が私の愛した”完璧”でなくなってしまったからでしょうか」