結局、愛していたのは(▲/死)
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彼女が好き〝だった〟
言葉の通り、彼女に対する好きの感情は最早過去の事で今は興味もない。
美しい容姿に
誰からも好かれる性格の良さ
公私共に欠点なく、
ポケモンバトルも素晴らしく強かった。
正に完璧な女性。
と思っていたのに
『ノボリさん、私、わたし・・・』
勤務中、突然非番な筈の彼女からライブキャスターに連絡が入った。
画面の向こうの彼女は何故か真っ暗な部屋の中で泣いていて只事ではない事が分かる。
丁度その時は数少ない休憩時間で、私は部下に一言入れてから駅から近い彼女の自宅マンションに向かいました。
何時も自宅にいるいない関係なく戸締りを怠らない彼女の部屋の鍵は何故か開いている。
それだけで既に嫌な予感がした。
「失礼します」と部屋の中に入れば酷く暗い、照明がついていないからかもしれないがきっとそれだけではない。
部屋の空気が、雰囲気が暗く重かった。
薄暗い廊下の向こう、台所のある場所からライブキャスターでも聴いた嗚咽が聴こえる。
あの少し勝気で完璧な彼女が泣いているなんて一体、何があったと言うのか?
言い様のない不安を胸に私は彼女の声がする台所を覗き、
「貴方は見てしまった。
男に殴り、犯されて一人泣きじゃくる彼女の姿を」
ノボリの回想に続き答えた刑事に彼はご名答だと言わんばかりの表情を向ける。
「ちょっと待って下さい!
彼女は強姦魔に襲われた後、すぐに殺されたんじゃないんですか?!」
机を叩き言ったのは刑事二人の内の片方、まだまだ先輩の後を追う若い刑事だった。
彼が言ったのは捜査本部の結論。
既に世間にも公表されている事件の事実。
「捜査本部は事件を〝そういう〟事にして事件を纏め、終えているが実際は違う」
先輩刑事に「大人しく座れ」と凄みのある声で言われた刑事は言葉通り椅子へと座る。
「そういえば見つかりました。
犯人に被害者と同様に惨殺されたと思われていた被害者の手持ちの一匹が」
刑事の言葉に今迄他人事のように傍観していたノボリの目が微かに輝く。
「サクラ様のポケモンがですか」
「ええ、見つかった当初は犯人から受けた傷が原因でしょう。
今に死にそうな瀕死状態でしたが何とか持ち堪えて今はポケモンセンターで厳重な監視の元回復を行っております。
で、話は戻るんですが
彼女を殺したのはノボリさん、貴方ですね?」
刑事の言葉にノボリは初めてその無とも言える表情を崩した。
目を丸くして、その後少し楽しげに
「彼女の手持ちが見つかっただけでどうして私が彼女を殺した犯人になるのです」
「ポケモンが見つかっただけではありません。
貴方も先程言ったではありませんか犯人に暴行された彼女を見たと」
「はい、ですが私はその後警察に通報して到着する迄の三十分彼女の部屋から離れております」
「犯されて身も心もズタボロの彼女を一人にしたんですか?!」
信じられないとこちらを見る若い刑事にノボリは淡々と
「それが彼女の希望だったので」
と答える。
「それは調書を読んで存じております」
突然の出来事に彼女は思わず愛する恋人をライブキャスターで自宅に呼び出した。
が、犯人に犯された自分を恋人に見られて気が動転。
自分で呼び出しておきながら「見ないで」「来ないで」と叫んだ彼女は恋人を部屋から追い出した。
これはノボリが初期の聴取で答えた内容であるが、彼女が何度も大きな声で叫んでいたのは隣人からの証言を受けている。
この事から警察は彼女の恋人であるノボリが彼女の意思を尊重し、部屋を離れてから通報を受けた警察が到着する迄の三十分間。
未だ部屋の中に潜んでいた犯人が彼女の恋人の存在に激怒し彼女を殺害したものと考えた。
犯人が只の強姦魔なら警察もこんな結論を出さなかっただろう。
しかし犯人は彼女のストーカーであった。
犯人の部屋の壁には隠し撮りと思われる彼女の写真、写真、写真。
事情聴取の際には彼女に対する虚妄を呟いている。
「私は一度、あなた方に白であると認められた筈です」
「ですが、今は貴方の格好同様に真っ黒だと思っています」
そこで刑事は一旦、間を開けると胸ポケットから一枚の写真を取り出す。
その写真にはノボリも見覚えのあるポケモンが写されていた。
『対サブウェイマスターにこの子を育ててるんです!』
そう言って彼女は腕に抱えたフカマルを抱きしめる。
この時の彼女はまだ、
愛していた。