▲×主人公
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「私、告白されちゃった」
彼女にとっては何気ない一言だった。
別に他意は無く今日の夕飯どうしよう?位軽い相談を友人にしたつもりだったのだが、その相談は友人を越えて食堂にいた職員へと一気に広がっていた。
「俺達の最後のオアシスがぁ!!」
職員の一人が頭を抱えて悲痛な声を上げる。
「俺のサンクチュアリ」
「最後の希望が」
この世に絶望した声を上げる彼等にまさか自分が原因だと知らず「どうしようかねぇ」何て暢気に呟いたサクラは皿に残っていた唐揚げを一口に食べた。
バタバタと忙しなく駆ける足が向かうは自身の片割れがいる執務室。
扉を壊す勢いで部屋に入ったクダリは自身の片割れ、ノボリの姿を探した。
偶々部下からある情報を手に入れたクダリはそれをノボリに教えようと部屋に駆け込んだのだが、何時もなら姿勢良く机に向かう彼の姿が何処にも見当たらない。
シングルのトレインにでも乗っているのかと部屋に一歩踏み込めば絨毯とは違う異様な柔らかさが靴から足へ、足から脳へと伝わった。
何事かと見れば、先程探していた黒い片割れが床に突っ伏して倒れている。
「何?ノボリ
新しい遊び?」
クダリは腰を下ろし倒れる彼に声をかけるが反応はない。
「返事がない。
只の屍のようだ」
何て倒れる彼を目の前に冗談を言っていれば
「私はまだ死んでおりません」
と普段と比べれば遅くのろのろとノボリは体を起こした。
「冗談、冗談
どうしたの?調子悪い?」
尋ねれば答えは否。
やはりのろのろと席に着いたノボリは何時もの様に溜まりに溜まった書類を片付けようと万年筆を手に取るのだが
「そうだ!僕さっき面白い話聞いたんだ。
サクラちゃんが誰かに告白されたんだって!」
無惨にも万年筆は握ったノボリの手により、彼の手の中で破裂した。
折れた万年筆は紅でなく鉄紺の血を垂れ出し、その一部がクダリのコートを汚す。
何時もなら「サブウェイマスターならば!」と身だしなみに五月蝿く口を出すノボリが妙に静かだった。
というより又しても屍の様に机に突っ伏している。
「ノボリ?」
どうしたものかとクダリは頭を傾げるが声を掛けても反応はない。
只の屍のようだ。
声を掛けても反応しないのでクダリは来客用のソファーに腰を下ろすと足を伸ばし自身に楽な体勢をとった。
「サクラちゃん、誰に告白されたんだろうね」
「本当に・・・」
「ん?」
先程まで黙して話そうともしなかったノボリがやっと反応を示す。
「一体誰がサクラ様に告白致したのでしょうか」
頬に手をやり深々と溜め息をついたその姿はまるで恋する乙女の様で悩ましげに伏したその灰色の瞳には愛憎の念がぐるぐると渦巻いていた。
「ノボリってサクラちゃんの事が好きなの?」
バタンと何か倒れる音がして、ノボリの姿も消えている。
ソファーから体を起こしたクダリは慌てて机の裏に回れば顔も耳も首も、見える肌という肌を真っ赤に染め上げたノボリが床に倒れていた。
何をやっているのか、大丈夫か、声を掛けて立たせるのに手を貸していれば扉からノック音。
ノボリが返事をする様子が無かったので変わりにクダリが返事をすれば噂をすれば何とやら、「失礼します」と入って来たのは今まさに話題に上がっていたサクラその人だった。
「あれ、ノボリボスは?」
どうやら彼女はクダリでなくノボリに用があるらしい。
サクラが立つ位置からはクダリの顔しか見えず頭を傾げた彼女だが、捜していた人物はすぐに姿を現す。
先程まで椅子ごと床に倒れていたノボリはサクラの声を聞くなり素早く身を起こしたのだ。
彼の切り替えの早さにクダリは少し引いた。
「どうされましたか」
ノボリが立ち上がり、サクラに顔を見せた時には顔の赤みは失せていて"出来る上司"の顔をしていたものだからクダリは思わず吹き出す。
突然吹き出したもう一人のボスにサクラは驚いていたが構わず持っていた書類の束をノボリに渡し、二~三事話すと部屋を早々に出ていった。
部屋の扉が閉まると同時に又も溜め息が聞こえ、見ればノボリは恍惚と言わんばかりの表情で右手を天井に翳し眺めている。
「ノボリ、どうしたの?」
今日はノボリに何事かと尋ねてばかりだなとクダリは思うのだが、彼の様子を見る度尋ねずにはいれなかった。
「先程、サクラ様の手が私の右手に触れて・・・私、一生この手袋は洗いません」
今だ自分の右手を惚けながら見つめるノボリは恋する乙女の顔をしていて答えたのだ。
「やっぱり、ノボリはサクラちゃんの事が好きなんだ」
先程した問いに肯定は無かったが、触れた手を愛しげに見つめる姿を見る限りその推測はあながち間違ってはいない筈。
いつの間にか恋していた片割れをクダリはにやにやと眺めた。
「私はそんな事、」
無いとは否定しなかった。
それどころか彼の瞳は落ち着きが無く上を見ては下を見て、右を見ては左を見てと挙動不審な動きを見せる。
「目は口ほどに物を言うって本当なんだ
で、好きになった切っ掛けは?」
クダリの容赦ない追求に始めはしらを切っていたノボリだが、だんだんと恥じらいを交えながら恋の始まりを経緯を話始めた。
ノボリの気持ちを知ったクダリは「面白い」と言い放つ。
「な、人の恋心を面白いとは何なんですか貴方は!」
「僕は正直に面白いと思ったから正直に面白いって言った!別に悪くない」
「それはそうですが、」
「僕がノボリの恋を応援してあげる!」
そう言い出したクダリの顔は目前の玩具に対する好奇心でキラキラと輝いている。
ノボリの話も聞かず先ずはどうする?なんてやる気に満ちた表情のクダリにこのやる気が書類にも向けられればなと考えてノボリ少し悲しくなった。
「応援するって、」
どうやってと尋ねれば、クダリはノボリの手を掴み
「取敢えずデートをしよ!」
と提案する。
その提案に顔を呆けさせ何度か瞬きをしたノボリの顔からは突然冷や汗が流れだした。
「それは私とクダリとでですか?」
「想像するだけでダメージを受ける様なボケ止めて」
「では誰と誰が」
「もちろん!ノボリと、
サクラちゃん」
そんなこんなでクダリの好奇心から知らずの内に巻き込まれてしまったサクラはホームで一人、くしゃみをする。
まさかそれが虫の知らせの様なものだとは知らずサクラはやはり暢気に「風邪かな?」と頭を傾げるのであった。