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「私みたいな悪魔が産まれたんですから」
彼女の身体に不調が訪れたのは暫くしてからだった。
体温が異常に高い日が続き、頭を締め付ける様な頭痛、
そして異様な吐き気。
便器に吐いた嘔吐物が渦を巻いて流れていく。
その様子をじっと眺めながら彼女は一つの推測をする。
「まさか」
彼女はスクールを飛び出し、母親がいる自宅へと飛び込んだ。
「お母さん!」
彼女は幼い時と変わらず純真無垢だった。
素直で誰かを疑う何て事を知らない真っ直ぐな子供だったのだ。
「私、彼の子を妊娠したみたい!」
子供だったから大人の事情何て知らなかった。
この世に皆から望まれぬ子供がいる何て知らなかった。
きっと妊娠した事を報告すれば、初孫が出来たと喜んでくれる。
だって処女懐妊した彼女だって皆から祝福されたんだもの!
笑顔で報告した彼女に対し母親の表情は酷いものだった。
彼女があれ?と思った時には母親の右手が彼女の左頬を叩いていた。
「お母、さん・・・?」
想像していたのと違う。
母親の表情は喜ぶどころか怒りに満ちていた。
今迄見たことのない母親の怒り様に彼女は戦々恐々となり小さな悲鳴を漏らす。
「この、 !! 」
母親の口から飛び出したのは彼女自身今迄浴びせられた事のない汚い言葉。
「貴女が妊娠したですって?!
まだ子供だ、子供だと思ってたのに一体何処でそんな事を覚えてきたのかしら」
「おかあさん」
「私をお母さんと呼ばないで!
触らないで!ああ、汚い!
汚らわしい!汚い!汚い!汚い!・・・」
「ほら、私のお母さん・・・
私のお婆ちゃんは超がつく潔癖性だから」
父親が仕事から帰ってくる迄実の母親に汚いの罵り続けられた彼女の精神はボロボロだった。
「この話、妙に具体的だと思いませんか?」
少女の問いかけは彼も少し前から疑問に思っていた事だった。
「お婆ちゃんは潔癖性だったけど教育ママでもあったんですよね。
それで私の本当のお母さんには教育の一貫として毎日日記を書かせてたみたいで」
少女は肩から下げていたバックから古く分厚い日記帳を取り出す。
「中を見ても、」
「お好きにどうぞ」
許可がおりて日記を開く先生。
パラパラとページをめくり日記を読み進める先生を眺めながら少女は一言付け加える。
「途中からかなりイかれてますけどね」
○月×日
彼に会いたい会いたい会いたい
会いたい会いたい会いたい
お母さんが今日も私のお腹を殴る。
お父さんは私を見てもくれない。
彼でも誰でも良いから助け
パタンと彼は勢いよく日記帳を閉じた。
パラパラと読み進めた先の一ページ。
赤黒く汚れた紙に書かれた絶望の日記。
「イかれてるでしょ?
身重の娘を殴るお婆ちゃんも
妻の暴力を止めないお爺ちゃんも、
殴られても律儀に日記を付けるお母さんも
私の家族はみんなイかれてる」
「君は、
君はこの日記を読んだのかい?」
「読みましたよ」
日記を少し読んだだけで嫌な汗をかいている彼に対し、少女は涼し気な顔で答える。
「じゃないとあんな具体的な昔話出来ませんよ」
それもそうだと少女の言い分に納得してしまう。
「あ、ヤミカラスが鳴いてる!」
突然、勢いよく立ち上がる少女。
何事か尋ねればヤミカラスが鳴いているから帰らなくてはならないのだとか。
確かに窓から外を見れば、太陽は沈みかけ夜の帳が今に空を覆わんとしている。
「家迄送ろうか」
そう言って立ち上がった先生に少女は間、髪をいれず「いい」と彼の申し出を拒否した。
「地下鉄を使えば家なんてすぐだし、それに」
と少女はバックに手を突っ込むとモンスターボールを一つ掴み開く。
「この子がいるから」
赤い閃光と共にボールから出て来たのは黒い鎌の様な角が印象的なアブソル。
「災いポケモンのアブソルか」
「あ、」
少女が変な声を出すものだから何事かと思えば指先に走る強烈な痛み。
見れば少女のアブソルが鋭い己の牙を使ってぎりぎりと彼の指先を噛んでいる。
「痛い痛い痛い痛い!」
反応は遅れたがかなり痛い。
甘噛み何て生易しいものではない。
甘噛みどころか指を噛みちぎらんとする勢いで噛み付いている。
「この子、他人に災いポケモン何て呼ばれるるのを凄く嫌がるんですよね」
痛がる彼を前に説明を入れる少女。
彼は痛い!と声を挙げながらも少女に助けを求める。
「説明は良いから!早く助けて!」
「え、じゃあ、看護婦さーん!」
助けて!と少女はナースに助けを求めて診察室を飛び出す。
「は、早く、指が食いちぎられる・・・」
結局、彼の指は数分後に少女に呼ばれて駆けつけたナースとタブンネの力により助けられた。
彼の指先には痛々しく包帯がぐるぐる巻きにされている。
「先生、ごめーんね?」
アブソルの影にかくれながら謝る少女。
当の本人は呑気に欠伸をしている。
「いや、大丈夫だから
元はと言えば私が君のアブソルに失礼な事を言ったのが原因だから」
先生はアブソルの頭に手を伸ばし、彼にも謝罪を入れて撫でようとしたのだが
がぶりとまたアブソルが指を噛もうとしたので彼の頭を撫でるのを
断念する。
「アブソル、めっ!」
少女が叱れば床に顎を付け、尻尾を垂らし反省の様を見せるアブソル。
「言い忘れてたんですけどこの子私以外の人間には懐かないんですよね」
「みたいだね」
少女に頭を撫でられながらも此方への警戒を緩めない彼を見て先生は苦笑いを浮かべた。
「結局、君が初めに言っていた
〝私は産まれた時から死んでいた〟
という言葉の意味が分かる話は無かったな」
産まれた時から死んでいた。
だが、彼女は自身が死んでいると言いながらも人と話し、からかい、確かに生きている。
「何だこの矛盾は」
彼は椅子に深く凭れりはと腕を組み、天を仰いで唸った。
「先生」
部屋の敷居はカーテンなのでノックはない。
彼が返事をするより前に無遠慮で入ってきた年配ナースは椅子に座りだらけた彼の姿を見て一喝。
「先生!診察時間が過ぎたからって明らかにだらけ過ぎです!!」
いくら自分が医者でも此方を叱る相手はこの病院に長く勤めるベテランナース。
口答えをしたら何倍にもなった小言が返ってくるので彼は慌てて姿勢を正す。
「すみません。
それで、何か私にご用で」
「頼まれていたサクラちゃんの資料です」
渡されたのは少女の出生、学校・日常生活の態度等、個人情報が事細かに書かれた資料。
「でも珍しいですね」
そう呟いたナースに何が珍しいのか彼は尋ねる。
「いえね、お母さんと名前がまるっきり一緒だから珍しいはねと思いまして」
「は?」
名前が一緒とはどういう事なのか彼は紙の束を捲った。
資料の中には少女の母親に関するものも紛れていた。
「まったく同じだ」
比べやすいよう並べられた二枚の紙。
その紙に貼ら写真に、記載された名前。
「ね、全く同じでしょ?」
例えば尊敬している親族に倣って同じ名前にする事もある。
稀にだが両親と同じ名を付ける事もある。
だが、その場合は混乱を防ぐ為に綴りを変えたり、名前の前後に何か見分ける為の文字をくっ付けたりするのだが少女の、彼女の名前はその様な対策は見られなくまるっきり同じ。
「それどころか」
母親の資料には最後に彼女が学校で撮られた姿が写真として貼られていた。
その隣に少女の近影を置けば
「これはたまたま似ているというレベルじゃないぞ」
違いといえば少女の灰の髪と瞳位。
それ以外の表情、雰囲気、髪型全てが同じだった。
「いくら親子だからってここ迄似ないだろ」
「ましてやサクラちゃんの場合、お母さんは彼女を産んだと同時に死亡しています」
「・・・そういう事か!」