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幾つもの電車が停車するホーム。
発車と停車を報せるアナウンスが入り乱れる地下鉄構内をサブウェイマスターの二人は闊歩していた。
バトルサブウェイで一番挑戦者が少ないお昼時。
その時間を利用して構内を見回るのはマスターの職務であり日課であった。
見回りと言うより散歩に近い。
常にバトルサブウェイの挑戦者を待ちながら書類の始末に追われている二人にはゆっくり構内を見回るこの時間が唯一の休息であった。
だからと言って見回りを怠ってはいない。
数時間振りの外(と言ってもまだ屋内)に身体の至る所を伸ばしながらも構内に不信物、不信人物がいないか隅々迄目を光らす。
「クダリ?」
どうかしましたか?と尋ねるノボリの少し後ろでクダリを一点を見つめたまま立ち止まっていた。
何か怪しいモノでも見つけたのか、彼に近付くのだが様子がおかしい。
自分と同じ灰色の瞳は酷く動揺していた。
何度も目を細めては開いて何かを注視している。
一体、彼は何を見ているのか隣に立ち彼の視線を追えばその先に少女がいた。
線路を挟んだ向こう側。
顔は俯いているのでよく分からないが確かにクダリの視線は少女に向いている。
あの少女に何があると言うのか隣に立つクダリと同様にノボリは暫く少女を見つめ、襲われた。
確かに何処かで見たことがある既視感。
だが、あんな少女知らない。
筈なのにどうしてこんなにも懐かしい気持ちになるのだろうか。
答えが見つけられぬまま隣のクダリに視線を移せば彼はやはり動揺していた。
何て情けない顔をしているのか。
そう思ってしまう程、何時もの笑顔も余裕も今の彼にはない。
再度、彼の名前を呼ぶもその声は構内に響くアナウンスに掻き消される。
『ホームに電車が参ります』
暗闇の中からぼんやりと近付く電車の灯り。
アナウンスは危険防止の為、足元の黄色い点字ブロックより後ろに下がるよう喚起しているのにクダリの足は
ブロックより向こうを向いている。
足だけではない。
彼の意識もブロックの向こう、向こう側に立つ少女に向いている。
暗闇から電車が顔を出す。
頭上から電車の到着を報せるアナウンスが再度流れる。
電車がホームに入ったというのにクダリは足を止めず、また一歩足が進む。
「・・・ってよ」
「クダリ、」
「待って!僕を置いて行かないで!」
「待ちなさい!クダリ」
電車のブレーキ音が辺り一帯に響いた。
『ライモン、
ライモンシティでございます。
この電車はこの駅が終点となります』
忘れ物をしないよう注意するアナウンスを聴きながらノボリは呆然としていた。
腕に伝わる暖かさと重みに彼の無事を知らされ、ノボリは天井を仰ぎながら安堵の息をつく。
「何処か怪我はしておりませんか?クダリ」
彼からの返事はなく、代わりに嗚咽が聴こえた。
電車から降りる乗客は何事かとホームの床で横なっているマスターに注目しながらも横を通り過ぎる。
乗客の誰かが呼んだのか、はたまた電車の運転手が彼等に連絡を入れたのかノボリの耳に付けられた無線機のイヤホンからは此方を心配する鉄道員達の騒がしい声が聴こえた。
「ええ、大丈夫です。
二人共無事でございます。すぐにクダリを連れて其方に戻りますので」
どうやら彼等に連絡を入れたのは電車の運転手のらしい。
電車が到着しようとしている線路に足を一歩踏み出したクダリが運転手には自殺志願者にでも見えたのだろう。
何度も二人、特にクダリの安否を尋ねてくる彼等に心配させておいて申し訳ないとは思うのだがあまりにもしつこいのでノボリは
とうとう無線機の電源を落とす。
すると辺りはとても静かになり、倒れたまま動かないクダリの嗚咽だけが聴こえた。
電車の乗客も運転手もとうにいない。
ホームにいるのはノボリとクダリだけで、ノボリは小さな子供の様に泣きじゃくるクダリの背を優しく撫でた。
「先程はどうしてあの様な事をなさったのですか」
あの様な、とは電車が到着しようとする線路に飛び出す事だ。
クダリが電車を前に一歩を踏み出した瞬間、ノボリが咄嗟の反応で彼の身体を引き戻したから良かったがもし彼の反応が遅ければクダリは今頃線路と電車の間でミンチになっていたかもしれない。
日頃、その手の処理は部下に任せっきりにせず自身も参加していたが実の兄弟の肉片を片付けるなど想像するだけで胃のものがこみ上げてくる。
「私は線路に散らばった貴方の肉も骨も拾いたくありません。
一体、どうしたのです。少し前までは何時もの貴方だったじゃないですか」
そう、至って何時も通りの彼だった。
何時もの様にバトルは好きだが書類は嫌いだと机に山積みになっている書類に文句を零し、ノボリは書類の処理もマスターの仕事だと彼を諌めた。
まさか、あまりの書類の多さがクダリを自殺に迄追い詰めたというのか?
そんな馬鹿な
ノボリは自分の思考を笑い、打ち消す。
「彼女が、」
五月蝿かった嗚咽が止まった。
電車の窓越しに向こう側を見ながらクダリは口を開く。
「彼女が彼処にいた」
他人が聞いたら彼女って誰だよと問うていただろう。
だが、クダリとノボリで通じる〝彼女〟は1人しか存在しない。
「まさか」
ノボリはクダリの言葉を否定した。
嘘だ、あり得ないと言う彼にクダリはあれは確かに彼女だと返す。
「ですが、彼女は十二年も前に「うん、僕達の前から消えた」」
「きっと帰って来たんだよ!僕達に会いに」
さっきまで泣いていたのが嘘のようで、きらきらと顔を輝かしたクダリ。
ノボリはまたもクダリの言葉を否定しようとしたが、彼の頭に頭痛が走った事でそれは叶わなかった。
「さっき少し姿が見えただけだったけど、またすぐ会いに来てくれる!」
「クダリ、彼女は」
「あー早く会いたいな
ね、ノボリ」
彼女はもう、死んでいるのですよ。
何て満面の笑みを浮かべたクダリに言えなかった。
頭に走る鈍痛がノボリの表情を歪めさせる。
痛む頭の何処かで電話の音が聴こえた。
発車と停車を報せるアナウンスが入り乱れる地下鉄構内をサブウェイマスターの二人は闊歩していた。
バトルサブウェイで一番挑戦者が少ないお昼時。
その時間を利用して構内を見回るのはマスターの職務であり日課であった。
見回りと言うより散歩に近い。
常にバトルサブウェイの挑戦者を待ちながら書類の始末に追われている二人にはゆっくり構内を見回るこの時間が唯一の休息であった。
だからと言って見回りを怠ってはいない。
数時間振りの外(と言ってもまだ屋内)に身体の至る所を伸ばしながらも構内に不信物、不信人物がいないか隅々迄目を光らす。
「クダリ?」
どうかしましたか?と尋ねるノボリの少し後ろでクダリを一点を見つめたまま立ち止まっていた。
何か怪しいモノでも見つけたのか、彼に近付くのだが様子がおかしい。
自分と同じ灰色の瞳は酷く動揺していた。
何度も目を細めては開いて何かを注視している。
一体、彼は何を見ているのか隣に立ち彼の視線を追えばその先に少女がいた。
線路を挟んだ向こう側。
顔は俯いているのでよく分からないが確かにクダリの視線は少女に向いている。
あの少女に何があると言うのか隣に立つクダリと同様にノボリは暫く少女を見つめ、襲われた。
確かに何処かで見たことがある既視感。
だが、あんな少女知らない。
筈なのにどうしてこんなにも懐かしい気持ちになるのだろうか。
答えが見つけられぬまま隣のクダリに視線を移せば彼はやはり動揺していた。
何て情けない顔をしているのか。
そう思ってしまう程、何時もの笑顔も余裕も今の彼にはない。
再度、彼の名前を呼ぶもその声は構内に響くアナウンスに掻き消される。
『ホームに電車が参ります』
暗闇の中からぼんやりと近付く電車の灯り。
アナウンスは危険防止の為、足元の黄色い点字ブロックより後ろに下がるよう喚起しているのにクダリの足は
ブロックより向こうを向いている。
足だけではない。
彼の意識もブロックの向こう、向こう側に立つ少女に向いている。
暗闇から電車が顔を出す。
頭上から電車の到着を報せるアナウンスが再度流れる。
電車がホームに入ったというのにクダリは足を止めず、また一歩足が進む。
「・・・ってよ」
「クダリ、」
「待って!僕を置いて行かないで!」
「待ちなさい!クダリ」
電車のブレーキ音が辺り一帯に響いた。
『ライモン、
ライモンシティでございます。
この電車はこの駅が終点となります』
忘れ物をしないよう注意するアナウンスを聴きながらノボリは呆然としていた。
腕に伝わる暖かさと重みに彼の無事を知らされ、ノボリは天井を仰ぎながら安堵の息をつく。
「何処か怪我はしておりませんか?クダリ」
彼からの返事はなく、代わりに嗚咽が聴こえた。
電車から降りる乗客は何事かとホームの床で横なっているマスターに注目しながらも横を通り過ぎる。
乗客の誰かが呼んだのか、はたまた電車の運転手が彼等に連絡を入れたのかノボリの耳に付けられた無線機のイヤホンからは此方を心配する鉄道員達の騒がしい声が聴こえた。
「ええ、大丈夫です。
二人共無事でございます。すぐにクダリを連れて其方に戻りますので」
どうやら彼等に連絡を入れたのは電車の運転手のらしい。
電車が到着しようとしている線路に足を一歩踏み出したクダリが運転手には自殺志願者にでも見えたのだろう。
何度も二人、特にクダリの安否を尋ねてくる彼等に心配させておいて申し訳ないとは思うのだがあまりにもしつこいのでノボリは
とうとう無線機の電源を落とす。
すると辺りはとても静かになり、倒れたまま動かないクダリの嗚咽だけが聴こえた。
電車の乗客も運転手もとうにいない。
ホームにいるのはノボリとクダリだけで、ノボリは小さな子供の様に泣きじゃくるクダリの背を優しく撫でた。
「先程はどうしてあの様な事をなさったのですか」
あの様な、とは電車が到着しようとする線路に飛び出す事だ。
クダリが電車を前に一歩を踏み出した瞬間、ノボリが咄嗟の反応で彼の身体を引き戻したから良かったがもし彼の反応が遅ければクダリは今頃線路と電車の間でミンチになっていたかもしれない。
日頃、その手の処理は部下に任せっきりにせず自身も参加していたが実の兄弟の肉片を片付けるなど想像するだけで胃のものがこみ上げてくる。
「私は線路に散らばった貴方の肉も骨も拾いたくありません。
一体、どうしたのです。少し前までは何時もの貴方だったじゃないですか」
そう、至って何時も通りの彼だった。
何時もの様にバトルは好きだが書類は嫌いだと机に山積みになっている書類に文句を零し、ノボリは書類の処理もマスターの仕事だと彼を諌めた。
まさか、あまりの書類の多さがクダリを自殺に迄追い詰めたというのか?
そんな馬鹿な
ノボリは自分の思考を笑い、打ち消す。
「彼女が、」
五月蝿かった嗚咽が止まった。
電車の窓越しに向こう側を見ながらクダリは口を開く。
「彼女が彼処にいた」
他人が聞いたら彼女って誰だよと問うていただろう。
だが、クダリとノボリで通じる〝彼女〟は1人しか存在しない。
「まさか」
ノボリはクダリの言葉を否定した。
嘘だ、あり得ないと言う彼にクダリはあれは確かに彼女だと返す。
「ですが、彼女は十二年も前に「うん、僕達の前から消えた」」
「きっと帰って来たんだよ!僕達に会いに」
さっきまで泣いていたのが嘘のようで、きらきらと顔を輝かしたクダリ。
ノボリはまたもクダリの言葉を否定しようとしたが、彼の頭に頭痛が走った事でそれは叶わなかった。
「さっき少し姿が見えただけだったけど、またすぐ会いに来てくれる!」
「クダリ、彼女は」
「あー早く会いたいな
ね、ノボリ」
彼女はもう、死んでいるのですよ。
何て満面の笑みを浮かべたクダリに言えなかった。
頭に走る鈍痛がノボリの表情を歪めさせる。
痛む頭の何処かで電話の音が聴こえた。