碧碧
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右に寝返り
左に寝返り
また、右に寝返って
「眠れない」
と碧は呟いた。
その日は雨だった。
数日前からテレビでも話題になっていた大型の台風がとうとう京都に迄着てしまったのだ。
吹き荒ぶ強い風に大粒の雨が混ざり閉められた雨戸を叩けば内側のガラス迄揺らしてガタガタ。
古い建物だけに揺れている気はしていたが、誰か大人がボソリと揺れとる。
これは屋根飛ぶな、なんて言っているのが聞こえ碧は少し顔を青ざめる。
そうか屋根が飛ぶのかと一瞬でも納得してしまったがやはり飛ぶなんておかしい。
不安になって和尚さんの所に行けば屋根だけじゃなしに建物自体飛ぶやもしれんな何て笑っていてやだ、何それ笑えないと碧は思った。
「もう時間も遅いしはよう寝ぇ」
部屋にかけられた時計を見れば九時を回っていた。
本当だ。もうこんな時間。だけど、と碧は何を言うわけでもなく持っていた洗面器を見せれば達磨は洗面器を取り碧の頭を撫でた。
「今日は碧に仰山働いて貰ったから大丈夫や」
やから、はよう寝。と言われ頷く。
おやすみなさいと一言良い、部屋を出れば点々と廊下に置かれた洗面器。
この洗面器が碧が今日、寺に来た理由だった。
昨日の夜から続く雨に寺で雨漏りが起きていたのだ。
天井から伝う雨に床が濡れないようバケツや洗面器で防ぐのだが古い建物なだけにやってもやってもキリがない。
そんなわけで大人だけでは手が足りず学校に行かない竜士や碧等が朝、呼ばれたのだが京都に来た台風が本格化してしまい子供達は台風の中寺で一晩過ごす事になってしまったのだ。
「う~ん・・・」
確かにもう寝る時間だ。
瞼が重くて体がポカポカしている。
布団が敷かれた部屋に入れば竜士や子猫丸、廉造も眠っていた。
私も、と碧は布団に潜り目を閉じる。
台風の声が遠くに聴こえた。
ガタガタ ガタガタ
ガタガタ
ぱちりと碧は目を開けた。
眠れない、眠れないと何度も寝返るのだがそんな事をして眠れるわけもなく
「眠れない」
と呟く。
取敢えずうんと暗くして目を閉じていれば眠くなるだろうと考えた碧は布団を深く被り直し目を閉じた。
ただ目を閉じていた時とは違う暗い闇の中、声が聴こえる。
『碧、』
と、確かに自分を呼んでいて聞き覚えもある声だった。
その声はまるで碧を後ろから見付けたかのような余り自信のない声で、たどたどしい発音から『Sera!』と挨拶してくる。
碧もその挨拶に答えて「こんばんわ」と返した。
『・・・なんでにほんごでかえすんだよ。てか、しゃべれるのか?』
「今、日本にいるから」
だから、日本語喋れるのと説明すれば頭がキーンとなるような声が頭に響いた。
「う~ん。声が大きい」
『ごめん、でもおどろいた。にほんにいるって碧はにほんのどこにいるんだ?』
「確かキョウトって言う所」
『キョウト?わかんねぇや。
またおやじにきいてみる』
「うん。そういえばどうして話かけてくれたの?」
何時もは寝てる時間なのに、と思い尋ねてみれば何となくだと返される。
その時はまるで体に電流みたいなものが流れて話かけずにはいられなくなった。
名前しか知らない何処かの女の子。
異国の言葉しか話せぬ顔も見たことのない友達だ。
だけど付き合いは意外にも長くて時折、"繋がった"時に沢山話をした。
会話に使う言語はイタリア語。
それが唯一、会話が成立した言語だったのだ。
「今、思ったんだけど凄く綺麗に聴こえない?」
『俺も思った!』
それまではたまたま"繋がり"話していてもラジオのノイズの様な雑音が混ざり聞き取れないということが多々あった。
だが今は雑音が聞こえなくなり、まるで相手が隣に立っているのかと錯覚するほど声がよく聴こえる。
「二人共、同じ国にいるからかな?」
『かもなー・・・おなじくにかー』
「もしかしたら同じ街に住んでたりして」
『きづかずにおなじこうえんであそんでるかもな』
「そうだったら素敵なのにね」
会いたいなと、碧がぽろり溢した言葉を相手は拾い『俺も!』と言う。
『俺もあいたい。あったら俺のおとうとをしょうかいしてやるよ』
「本当に?
えっと、弟の名前って何て言うんだっけ」
前に聞いた筈なのになかなか思い出せない。
『neve uomo!』
「ああ、そう言えばそんな名前だった」
そうだ、そうだ、と一人布団の中で頷いていれば『ひとのおとうとの名前忘れるなよ!』と怒られてしまった。
「ごめんね」
『別にいい』
実は二人がこうして"繋がり"話すのは久し振りだった。
そうじゃなくてもたまたま繋がった時に話す程の頻度なので会話と会話の間には長い時間が割り込む。
となると何ヵ月も前の会話を全て覚えている何て無理な話で、相手もその事を理解していたのかあっさり許してくれた。
碧がもう一度ごめんねと謝った後、相手の欠伸であろう音が聴こえる。
「眠いの?・・・ふぁ」
そう尋ねた碧の口からも欠伸が漏れる。
欠伸は移るって言うけど、
相手が目の前にいなくても欠伸は移るのか
と碧は一人思う。
『何か今、すげぇ眠くなってきた』
「私もだよ」
そう言ってまた欠伸が漏れる。
あんなにも寝付けなかったのに今更眠くなるなんて不思議だと目を擦れば体が眠る準備を始めたのか目蓋が勝手に下がり始めた。
『じゃあ、寝るか』
「うん・・・あ、また話せる?」
『もちろん良いぜ』
また繋がった時に!と顔も知らない相手が笑いかけてくれた気がして碧の顔が綻ぶ。
「・・・ありがとう
おやすみ、りん」
『ああ、おやすみ碧』
いつか、会える日を夢見て
左に寝返り
また、右に寝返って
「眠れない」
と碧は呟いた。
その日は雨だった。
数日前からテレビでも話題になっていた大型の台風がとうとう京都に迄着てしまったのだ。
吹き荒ぶ強い風に大粒の雨が混ざり閉められた雨戸を叩けば内側のガラス迄揺らしてガタガタ。
古い建物だけに揺れている気はしていたが、誰か大人がボソリと揺れとる。
これは屋根飛ぶな、なんて言っているのが聞こえ碧は少し顔を青ざめる。
そうか屋根が飛ぶのかと一瞬でも納得してしまったがやはり飛ぶなんておかしい。
不安になって和尚さんの所に行けば屋根だけじゃなしに建物自体飛ぶやもしれんな何て笑っていてやだ、何それ笑えないと碧は思った。
「もう時間も遅いしはよう寝ぇ」
部屋にかけられた時計を見れば九時を回っていた。
本当だ。もうこんな時間。だけど、と碧は何を言うわけでもなく持っていた洗面器を見せれば達磨は洗面器を取り碧の頭を撫でた。
「今日は碧に仰山働いて貰ったから大丈夫や」
やから、はよう寝。と言われ頷く。
おやすみなさいと一言良い、部屋を出れば点々と廊下に置かれた洗面器。
この洗面器が碧が今日、寺に来た理由だった。
昨日の夜から続く雨に寺で雨漏りが起きていたのだ。
天井から伝う雨に床が濡れないようバケツや洗面器で防ぐのだが古い建物なだけにやってもやってもキリがない。
そんなわけで大人だけでは手が足りず学校に行かない竜士や碧等が朝、呼ばれたのだが京都に来た台風が本格化してしまい子供達は台風の中寺で一晩過ごす事になってしまったのだ。
「う~ん・・・」
確かにもう寝る時間だ。
瞼が重くて体がポカポカしている。
布団が敷かれた部屋に入れば竜士や子猫丸、廉造も眠っていた。
私も、と碧は布団に潜り目を閉じる。
台風の声が遠くに聴こえた。
ガタガタ ガタガタ
ガタガタ
ぱちりと碧は目を開けた。
眠れない、眠れないと何度も寝返るのだがそんな事をして眠れるわけもなく
「眠れない」
と呟く。
取敢えずうんと暗くして目を閉じていれば眠くなるだろうと考えた碧は布団を深く被り直し目を閉じた。
ただ目を閉じていた時とは違う暗い闇の中、声が聴こえる。
『碧、』
と、確かに自分を呼んでいて聞き覚えもある声だった。
その声はまるで碧を後ろから見付けたかのような余り自信のない声で、たどたどしい発音から『Sera!』と挨拶してくる。
碧もその挨拶に答えて「こんばんわ」と返した。
『・・・なんでにほんごでかえすんだよ。てか、しゃべれるのか?』
「今、日本にいるから」
だから、日本語喋れるのと説明すれば頭がキーンとなるような声が頭に響いた。
「う~ん。声が大きい」
『ごめん、でもおどろいた。にほんにいるって碧はにほんのどこにいるんだ?』
「確かキョウトって言う所」
『キョウト?わかんねぇや。
またおやじにきいてみる』
「うん。そういえばどうして話かけてくれたの?」
何時もは寝てる時間なのに、と思い尋ねてみれば何となくだと返される。
その時はまるで体に電流みたいなものが流れて話かけずにはいられなくなった。
名前しか知らない何処かの女の子。
異国の言葉しか話せぬ顔も見たことのない友達だ。
だけど付き合いは意外にも長くて時折、"繋がった"時に沢山話をした。
会話に使う言語はイタリア語。
それが唯一、会話が成立した言語だったのだ。
「今、思ったんだけど凄く綺麗に聴こえない?」
『俺も思った!』
それまではたまたま"繋がり"話していてもラジオのノイズの様な雑音が混ざり聞き取れないということが多々あった。
だが今は雑音が聞こえなくなり、まるで相手が隣に立っているのかと錯覚するほど声がよく聴こえる。
「二人共、同じ国にいるからかな?」
『かもなー・・・おなじくにかー』
「もしかしたら同じ街に住んでたりして」
『きづかずにおなじこうえんであそんでるかもな』
「そうだったら素敵なのにね」
会いたいなと、碧がぽろり溢した言葉を相手は拾い『俺も!』と言う。
『俺もあいたい。あったら俺のおとうとをしょうかいしてやるよ』
「本当に?
えっと、弟の名前って何て言うんだっけ」
前に聞いた筈なのになかなか思い出せない。
『neve uomo!』
「ああ、そう言えばそんな名前だった」
そうだ、そうだ、と一人布団の中で頷いていれば『ひとのおとうとの名前忘れるなよ!』と怒られてしまった。
「ごめんね」
『別にいい』
実は二人がこうして"繋がり"話すのは久し振りだった。
そうじゃなくてもたまたま繋がった時に話す程の頻度なので会話と会話の間には長い時間が割り込む。
となると何ヵ月も前の会話を全て覚えている何て無理な話で、相手もその事を理解していたのかあっさり許してくれた。
碧がもう一度ごめんねと謝った後、相手の欠伸であろう音が聴こえる。
「眠いの?・・・ふぁ」
そう尋ねた碧の口からも欠伸が漏れる。
欠伸は移るって言うけど、
相手が目の前にいなくても欠伸は移るのか
と碧は一人思う。
『何か今、すげぇ眠くなってきた』
「私もだよ」
そう言ってまた欠伸が漏れる。
あんなにも寝付けなかったのに今更眠くなるなんて不思議だと目を擦れば体が眠る準備を始めたのか目蓋が勝手に下がり始めた。
『じゃあ、寝るか』
「うん・・・あ、また話せる?」
『もちろん良いぜ』
また繋がった時に!と顔も知らない相手が笑いかけてくれた気がして碧の顔が綻ぶ。
「・・・ありがとう
おやすみ、りん」
『ああ、おやすみ碧』
いつか、会える日を夢見て