このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

碧碧

夢小説設定

この小説の夢小説設定
名前

この章の夢小説設定
名前

『謝る』という行為はどんなに年をとっても難しい事である。

誠心誠意、確りと気持ちを込めないと相手には伝わらない。
ちょっとでも手を抜けばそれはすぐに見破られ謝る以前よりも互いの関係が悪くなる事もある。

そして何より『謝る』という行為で一番難しいのは自分の何処がいけなかったのか、それを理解する事だろう。
それが理解出来ないと幾ら素晴らしい言葉を連ねてもそれは空っぽな箱の様に軽い言葉になる。

とは言っても謝る事がその様に難しくなるのは成長と共に自己愛が目覚めた大人で、自己愛にそれほど目覚めていない子供が謝るのを難しいと感じるのは勇気が足りない事とタイミングだろう。
それこそ大人になればどのタイミングで謝れば良いのか分かるものだが、年齢的に経験が浅い子供にはそのタイミングが上手く測れない。
またタイミングを掴んだとしても相手の前に出て謝る勇気が持てない。

勇気に関しては大人でも難しい事があるのだが、とにかく竜士は困っていた。
に謝りたいのに勇気が湧かず、どのタイミングで言えば良いのか分からなかったのだ。

「ああ、こないな所におったんやな」

その日も竜士はタイミングを測りかねていた。
何となく今日には謝る決心はついていたのに、いざ出ようとした矢先に蝮がに声をかけて何処かへ連れていく。
別に何処かへ行く前に声をかければ良いのだが、それが出来ず。
竜士は大きな溜め息をついて肩を落とした。


あ、気配が消えた。
と蝮の隣を歩いていたは先程迄、竜士の気配を感じていた後ろへ顔を向ける。
既に気配が消えているのでもうこの廊下にはいないだろう。

気配を感知するのが得意であったは暫く前から自分の周りをうろうろしている竜士の気配を感じていたのだ。
いつもはそれなりに距離があったので偶然かと思っていたが、今日感じか気配は近く何か用事でもあるのかと思い話し掛けてくれるのを待っていた。

だが、に声をかけたのは竜士ではなく彼とは反対側からやってきた蝮で彼女と一言二言話している内に竜士の気配は消えてしまう。
一体、何だったのか?そんな事を思いながらは蝮の隣を歩く。

そういえば何故声をかけられたのか聴いていなかった事に気付きは顔を上げた。
すると目が合うのだが自然にその視線が逸らされる。

「?」

「女将さんが、

女将さんがいらん服あったらあんたにあげて言うたもんで」

お下がりでも好きな服を選びたいやろ、と説明されては成る程と頷く。
蝮はある部屋の前で止まると、襖を開けてを入るよう促した。
物こそ少ないがキチンと整頓されていて所々可愛らしい物が置かれた部屋だった。

「ここが私の部屋やわ。

好きなよう座っとき」

そう言われ、邪魔にならなそうな位置には腰を下ろす。
押し入れを開けた蝮は上半身を入れて中を漁りだした。

これか?あれか?

違う、これやない

そんな独り言が聴こえ、押し入れから何着も服が取り出される。
季節感はバラバラで夏物のワンピースが出てきたと思ったら冬物の分厚いコート、洋服だけでなく普段着ようの着物や浴衣もある。


「こんなもんやわ」

蝮が見付けた服は一年を通し、小さな山が出来る程度だった。

「どないする?別に全部持ってても私はかまわんけど」

「良いんですか?」

「私はかまわん言っとるやろ」

持てるのなら全部持っていっても良いと蝮は言うのだがは納得していないようだった。
小さくもう着れなくなった物だというのに丁寧に畳まれしまわれていた服が何を意味するのか。

まっすぐ向けられた青い瞳に今度は蝮も目を逸らさずにいた。
いや、逸らせないのかもしれない。


「この服達は蝮さんにとって大切な物じゃないのかな、と思いまして」

の言葉に蝮は腰を下ろし服の山から一枚、ワンピースを手に取った。

「これは私が一番気にいっとたワンピースや。

これを着て色んなとこ行ったし、申どもともよう喧嘩をしたわ」

喧嘩の度に擦り傷を作り、

父親に叱られ。

泣いていれば和尚が慰めてくれた。

成長が速い子供なだけにお気に入りと言っても長く着てはいられ無かったが確かに思い出が詰まっている。

親や姉妹、

明陀との思い出が沢山。



「確かにあんたの言う通りや。
大切な物やし、やから着れなくなった今でも青や錦にあげず押し入れにしまいこんどた」

やけど、

「幾ら大切な服やからって着る事もなく暗い押し入れにしまいこんどたら服が可哀想やろ?
そやったら誰かに譲って大切に着てもろた方がええわ思ってな」

蝮は持っていたワンピースをに持たせた。


「その子、大切にしたってな」



貰った服の小山を風呂敷に包み片手に持ち上げ、は廊下を歩いていた。
すると前方から驚きの声が聴こえる。
包みを下ろし見れば柔造が驚いた顔をして此方を見ていた。

「何や、やったんやな。驚いたわ、廊下を紫色の饅頭が歩いとるもんやから」

あー驚いたと、少し大袈裟過ぎる感ある動作をする柔造をは微動だにせずただ見詰める。

「俺の事、警戒しとるって顔やな」

彼の言葉に何故バレたと言わんばかりの表情をした
柔造はそれを笑い自分の眉間を指差す。

「眉間に皺がよっとた」

「あ、」

眉間を隠そうと額に手を伸ばすと同時に先程、蝮から貰った服が手から床へと落ちた。
大切にしてほしいと言われたばかりだったのに早速落としてしまい、は慌てて拾おうとするのだがの手より速く服を拐う手。
それは柔造の手で、彼に持ち上げられた服はの手が届かない遥か頭上にあった。

「何やこれ?子供のワンピースか」

「あ、あ~!」

返して、と一生懸命に跳び跳ね服を取り返そうと手を伸ばすのだが明らかに身長差がある為の手は届かない。

「返して!大切なものなの!それは「蝮が気にいっとたワンピースやな」へ?」

柔造の言葉にの動きが止まった。
確かに彼が手にしている蝮から貰ったワンピースであるが、はまだ誰から貰ったかなんて言っていない。
だが、柔造はあっさりと蝮のお気に入りなワンピースだと見抜いた。

「柔造何処やー」

彼を呼ぶ八百造の声が何処か遠くから聴こえる。
その声に「お父が呼んどる」とにワンピースを返し、柔造は何故か床に置かれた包みを持ち上げる。

「邪魔して堪忍な。

この包みは俺が先に部屋へ運んどくわ」

また夕飯にあおな、との頭を一撫でして柔造は行ってしまう。
廊下で一人、服を抱きしめ立っていたはぽかんと口を開けてぼうっとしている。

「昔の事なのに服を見て誰のお気に入りなのか何て普通は分からない、


よね?」

の些細な疑問に答えは返ってこなかった。
17/23ページ
スキ