｢勿論、あの世で｣





・・・なんて、勢いで格好つけたアカリだが既に後悔していた。
今にも眠ってしまいそうな程睡魔がすぐそこまで来ていたのだ。

後はこの二人をどうにかすれば"先生"が迎えに来てくれるかもしれない。

そう信じ、唇を噛んで睡魔に対抗していた。

｢もう一度、｣

"水遁･水龍弾の術"

川から勢いよく出てきた龍が大口を開けて男を捕らえた。
水で出来た龍は男をくわえたまま岩へとぶつかる。
何とも酷いものだった。
水の勢いと厚く堅い岩に挟まれ、男は風船が破裂したかの様に散々になってしまう。

仲間の無惨な死に方に女は泣く事もなくただ暗い瞳でアカリを見つめていた。

やってしまった、とアカリは思った。
たかが二人、順番に潰せばすぐだと思っていたが女の瞳が変わった事に気付くと作戦が失敗したと悟る。
お互いに見つめあい、間合いをとってまた見つめ合う。
いや、にらみ合っていると言った方が正しいかもしれない。


女を見つめるアカリの頭を睡魔が少しずつ痺れさせていく。だんだんと下がる目蓋にもう駄目だ！とアカリは自分に水変わり身の術を掛けた。
水に溶けていくアカリに気付いて女はクナイを投げる。

いつもならもう水に溶けている筈だが睡魔のせい進行が遅い。
脳天に向かってくるクナイにアカリは当たる！と思った。


思わず目蓋を閉じてクナイが刺さるのを待った。




当たらない？

そっと目を開ければクナイが目の前で止まっている。
クナイが止まっているのはクナイが握られているから、クナイを握っているのは・・・
見えた手を伝い、視線を上げれば優しげな瞳の男。

｢遅くなってごめんね？約束通り君を守りに来た｣

月夜に輝く金の髪に見覚えがある。
日中、護衛をしてくれていた

｢ミナト、さん？｣

｢良かった。覚えててくれたんだね｣

そう言ってミナトは溶けかけたアカリの体を上手く引き上げる。
二人の頭上を何人もの忍が飛び越えて行くのを見て、｢暗部も来てくれたしもう大丈夫だよ｣とミナトは言った。


そこで、アカリの意識は完全に途切れる。
急に静かになったアカリを心配したミナトだが聴こえてきた寝息に安堵の息をつく。
眠るアカリを心配して、ミナトは｢彼女を念のため病院に｣と暗部の一人に預けて彼は地面に押さえ付けられながらも喚く女の元へと寄った。

｢こんばんは、さっきはありがとう｣

見下げるミナトを見上げて喚いていた誘拐犯の女は鼻で笑う。

｢あの任務の委任状、君らが盗んだ物だったんだね｣

｢そうだよ。あんな紙切れ一枚で信じる何て木の葉の忍は馬鹿すぎるわ｣

｢凄く強気だね。今から君は拷問部屋行きだって言うのに｣

ふふ、と女は笑う。
女の瞳が雰囲気を変えた事に気付き、ミナトは女の肩を掴むが、遅かった。
ごぷっと女は大量の血を口から出したのだ。
口に毒でも仕込んでいたのか、すぐに暗部は応急措置をとろうと女の体を仰向けにするが既に女の息は虫の息で、目の焦点があっていない。
その様子は誰がどう見ても手遅れの状態。

茫然と自分を見ていたミナトに女は

｢ざまぁみろ｣

と言わんばかりの目で見つめ息絶えた。