分身の術何て見慣れている筈なのに自分と同じ顔をして彼女の声で喋る自分に違和感を拭えなかった。


｢このままじゃちょっとややこしいですね｣

そう言った彼女は覚えのある印を組む。

｢"変化の術"｣

ぼふん、と再度煙りに包まれた彼女。
煙が晴れるとあの真っ白な場所にいた彼女より少し幼くなった彼女がそこにいた。

｢せっかくなので見た目を貴女と同じ位に合わせてみました｣

笑って綱手を見つめた彼女は姿勢を正す。

｢改めて自己紹介します。

私の名前はアカリ｣

苗字は特に無いですと言ったアカリに流され、綱手もわざわざ姿勢を正して自己紹介をする。

｢私は綱手だ。

一つ聞くがあんたは一体何者なんだい？｣

綱手の問いにアカリはその大きな瞳をぱちくりさせて頭を傾げた。
腕を組み、頭を傾げ、見るからに悩んでいる姿を見せるアカリ。

｢それは、

かなり難しい質問ですね｣

悩むアカリには綱手に答えられるような解答はなかった。

"己は何者か"

その問いの答えはアカリ自身長い時間をかけて探しているもの

｢なら役職は？その細腕を見る限り忍じゃないと思うけど仕事は何をしているんだ｣

綱手の"仕事"という単語にまたしてもアカリは瞬きを数回するだけで動かない。

｢仕事はしていないですよ。

私、つい最近眠りに入ったので何にも｣

していないと笑うアカリの返答に今度は綱手が頭を傾げた。
そんな綱手の手をアカリは掴み握る。


｢これから当分よろしくお願いしますね。







｢綱手ちゃん｣｣







綱手ちゃん、と沈んだ意識を揺さぶる声に綱手はうっすらと目蓋を開く。
明らかに自宅でも務めている木ノ葉の病院でもない天井に綱手は｢此処は何処だと｣漏らし身体を起こした。

｢あ、綱手ちゃんやっと起きたんだね｣

良かった～と暢気に間延びした声がした方を見れば丁度、お盆に湯気が立つ椀を乗せたアカリが台所から出てきた所だった。
そのアカリは影分身で身体を代用とした不安定な存在でなく術を解いても消えない実体で姿はあの時より成長している。

｢昨日は此処に来る前から結構飲んでたでしょ？

蜆のお味噌汁を作ったから冷めない内に飲んで｣

綱手の側にあった机に蜆のお味噌汁が入った椀を置き、アカリは空いた盆を片手に綱手の向かいに腰を下ろす。
腰を下ろしたアカリは手を組み、にこにこと綱手を見ていた。

目の前には自分の為に作られた味噌汁。
視線を少し上げれば味噌汁を作った本人が笑顔で綱手を見ていて、綱手は食欲が無かったがこれは飲まずにはいられないないと漆塗りの椀に手を伸ばす。

｢どう？｣

机に少し身を乗り出して尋ねてきたアカリに綱手は一言。

｢まあまあ、美味しいんじゃないのかい｣

我ながら素直でないと思っていたがアカリはその言葉で満足げだった。

｢なんだい。さっきからにやにや、にやにや

さてはこの味噌汁に無味無臭の痺れ薬でも入れたんじゃ・・・！｣

｢そんなの入れて無いよ！何、その具体的な痺れ薬！？｣

｢只の冗談だよ｣

そう言って綱手は味噌汁を啜る。
アカリは冗談とはいえからかわれたにも関わらず、彼女の表情は先程と同じ笑顔で緩んでいた。

｢綱手ちゃん、｣

なんだいと応答した綱手はアカリを見て驚く。

｢こうしてると昔に戻ったみたいだね｣

はらはらと涙の粒を溢すアカリ。

｢起きてから綱手ちゃんだけは私に会いに来てくれないし、手紙を出しても返事が返って来なくて、私、私・・・

綱手ちゃんに凄く嫌われちゃったんだと思ってた｣

｢それは｣

｢嫌われても仕方ないよね。

私、綱手ちゃんに酷い事ばっかりしちゃったんだもん｣

俯くアカリに綱手は｢違う｣と声を発したかった。

あれはあんたのせいじゃないよ

とアカリが深い眠りについていた間に自分で出した答えを目の前にいる彼女に伝えたい。

けど、


｢でもね。此処から出られなくなる前に綱手ちゃんに会えて嬉しかったよ。

久し振りに会った綱手ちゃんはちょっとお酒臭かったけど今、こうして同じ部屋で机を挟んでお話しが出来て私・・・


すっごく嬉しい｣