"待て""落ち着け"と前の二人にジェスチャーを送った綱手は自身の履いていた黒のハイヒールで口を塞ぐ相手の足をめいいっぱい踏みつける。

瞬間、何を言っているのか分からない大きな声を発した相手の足を引っ掛けて綱手は自分達の前に相手を転がり出した。

｢やっぱり

お前だと思ったよ自来也｣

｢分かっとったのならこんな事せんでも良いだろ｣

倒れた上半身を起こし、自来也は綱手に踏まれた足先を擦る。

｢もうこれに懲りたらこの先、私の後ろに立たない事だね

それよりミナトとカカシだったか？この馬鹿の出した大声でその子が目を覚ますよ｣

綱手の宣告通りアカリを寝かせたベットに何か動く気配があった。
いや、まさかと思いながらミナトとカカシが振り向けば

体を起こして筋を伸ばすアカリの姿。

｢ふぁあっ｣

大きな欠伸迄しているアカリにミナトもカカシも驚いて動けなかった。


｢最悪のタイミングだの｣

｢これで良いんだよ｣

そう言った綱手に自来也は｢本気で言っとるのか｣と怒り、返せば

｢良いんだよ。付き合いが浅い内なら傷も浅く済む｣

と小さな声で溢した。

｢綱手、お前・・・｣




｢どうして！！

確かに心臓は止まっていたのに｣

カカシの上げた声にアカリの頭が少しずつ覚醒する。

｢その声は、カカシ君？

・・・私｣

かくん、とアカリの頭が傾いて体も揺らぐ。
倒れるアカリの上半身を咄嗟に支えたミナトは彼女の体をベッドに戻した。

再度、ベッドに横になったアカリの胸は規則的な呼吸で上下に動いている。
ミナトはちらりと綱手を見て幻術を解く印を結ぶのだが周りの状況は変わらない。

｢私がお前達を化かしてるとでも思ったかい？おあいにくこれは現実だよ。

その子は生きている｣

｢そんな、｣

綱手の言葉により先に反応したのはカカシであった。
彼の言葉はミナトの心の内を代弁している。

ミナトもカカシ同様、アカリの死亡を確認していた。

心臓の鼓動、

脈拍、

瞳孔の開き具合、

少し躊躇ったが敵が刺したという刺し傷も確認した。
アカリの胸の位置には小さいながらも向こうの景色が覗いて見えてしまう穴が開いていて

彼女は確かに死んでいた。

筈なのに、今動いたのは紛れもなく彼女本人で


｢さっき私は言っただろ？心配停止も出血多量もまともな人間の死亡理由。

それでも死なないその子はまともな人間じゃないんだよ｣

｢綱手！もういい加減にしろ！！｣

乾いた音が部屋に響き、綱手は顔を逸らせて赤くなりだした頬をおさえる。

｢アカリの了承も得ずぺらぺらと喋りおって｣

まさか自来也に頬を叩かれるとは思っていなかったのか、何度か瞬きをした綱手は赤く熱を持ち始めた頬に手を当てながらも笑う。

｢別に良いじゃないか。

一緒にいれば何れ分かる事なんだ。その分かる時期が少し早まっただけだよ｣

｢そうだとしても勝手に秘密をバラされたアカリの気持ちを考えてはやれんのか！｣

怒る自来也に呆れを含むため息をついた綱手。

｢お前は相変わらずアカリの寄りの意見だね。

なら言い返させてもらうけど一緒にいながらそんな大事な事を黙っていられたこの子達の気持ちは考えたのかい？！｣

｢・・・それは、｣

綱手の反論に声を詰まらせた自来也は視線をミナトに向けた。
気まずそうに何度か視線をミナトに向けて、自来也はその白い頭を掻きむしる。

｢アカリも、儂も別にお前を信用してなかったから話さなかったってわけじゃないんだ。

だが、綱手の言う通りアカリは普通の人間じゃない。
だから、その

アカリはお前に本当の事を話すか悩んでおった｣