カカシに血の雨が降りかかる。

弾けた敵のものかそれとも自分の側に倒れた彼女のものなのか分からぬ血がカカシの顔や服に飛んだ。

｢な、

なにやってるんですか！｣

自分の側に倒れたアカリの手をカカシは思わず握る。
白い服を真っ赤に染めた彼女の胸には刺し傷が空いていて、小さな口から漏らす息は荒く瞳の焦点は合っていない。
見るからに危険な彼女の体を揺するのは問題があるのだがそこまで気を回せない程カカシは動揺していた。

｢どうして俺を庇ったんです｣

｢カカシ君が、危ないと思ったから｣

｢そんな理由で｣

少し呆れを見せたカカシにアカリは首を振るう。

｢私には・・・充分な理由｣

噎せたアカリの口から垂れる鮮血。
その真っ赤な血にカカシの心臓は跳ね上がる。

｢そうだ、｣

カカシはアカリが医療忍術を使えた事を思い出す。
一抹の希望が見えて、カカシは顔を上げ尋ねた。

出来るか聞けば声には出さなかったが"出来る"の意味であろう、首を縦に振りゆっくりと右手を上げる。
その手が輝き暖かな光に包まれて

｢え、｣

カカシの体に触れた。
触れられたアカリの手からカカシの体に光の熱であろうか暖かな熱がじわりと体に伝わる。

動かす度に悲鳴を上げていた骨の痛みが嘘の様に引いていく。
骨の軋みが無くなり痛みも引いた所でカカシに触れていたアカリの手がずるりと地に落ちた。
｢なんで、｣

恐る恐る。
何がこんなにも自分に恐怖を与えるのかも分からず、ゆっくりとカカシは彼女の顔を覗く。

彼女は目を閉じたまま開けようとしなかった。
そんな、まさかとアカリの口元に手を翳してもしている筈の呼吸がなく、胸の浮き沈みもなくてカカシは慌てて彼女の体に胸骨圧迫を施すのだが反応はない。

それでも諦められず諦めきれず胸骨圧迫を行うのだが彼女が反応を示す事は無かった。




｢・・・・・・｣

まるで眠る様に目を閉じて動かないアカリの側でカカシはじっと座っていた。
冷たい彼女の手を握って

もしかしたら敵の応援が来るかもしれないのにカカシは動かない。

動けなかった。

あんなにも軽かった彼女の体、今は鉛の様に重くて普段から鍛えているカカシでも持ち上げられない程ではないがふらつく。
それならば彼女の身体を置いておくという選択もあるが、カカシはこのまま動かないアカリを置いておくなど出来なかった。


何かが近付いてくる。

鋭い嗅覚を持つカカシの鼻がこちらに近付く匂いに気付いた。

血の匂いが強すぎて敵か味方か分からないが確かにそれは近付いてきている。

少し躊躇ったがアカリの手から自分の手を離し、カカシはクナイを手に取った。